第18話 解決
「あれ? 普通に星を返した。なんだ、ここでは盗まないんですね」
ホッとしたように心は胸を撫で下ろす。
「いや、間違いなく擦られたよ」
「え? いや、でも椎名さんに返されていますよ?」
「正確に言えばすり替えたんだ」
「すり替えた?」
「奴は今、さりげなく星を入れ替えた。おそらく椎名さんに渡ったものは偽物だ」
「偽物? それじゃ……」
「あぁ、本物は村上が持っている。追うぞ」
「は、はい」
油断も隙も無いとはこのことを言うのだろう。
接触を仕掛けたのはこちら側であり、村上は何も想定していないはずだ。
だが、星を目にした瞬間、瞬時に入れ替えることをしたと言うことはいつでもすり替えられるように用意していたことになる。
村上はそそくさと校庭を抜け、学校の外へ出る。
ここで見失えば星の行方が分からなくなってしまう。絶対に逃すわけには行かない。
「あ、角を曲がります。視界から外れますよ」
「ちっ。逃すわけにはいかない」
俺は視界から外れないよう駆け足で角を曲がった。
すると村上は俺の正面に立っていた。
「つけられていること。気付いていないと思った? 僕に何か用かい?」
最初から気づかれていたってことか。なら話は早い。
「椎名さんから奪った星を返して貰おうか。それと今まで盗んだ星も返してもらえると有難い」
「さぁ。何のことかな?」
村上は惚ける仕草をする。素直に話を聞くとは思えなかった。
「さっき椎名さんとぶつかった時の映像を残してある。これ以上、惚けるならお前の悪行を生徒会に報告させてもらう。そうなればお前は終わりだ」
「映像が残っているのか。確かに今の生活が無くなるのは惜しい。だが、君達も星が無いと困るんじゃないのかい? そこで取引をしよう。星を返す代わりに僕に対する件はなかったことにしよう。それで手を打たないかい?」
「断る」と俺は即答で答えた。
「ふーん。じゃ、どうするんだい? 星がなければまた一から集めることになる。まだ駆け出しならいいが、数を揃えた人が再び集め直そうとしたらかなりの労力を要する。下手したら卒業までに間に合わないかもしれない。それでもいいってことなら好きにするがいい」
「お前の悪行は報告する。そして奪った星は全て返してもらう」
「そんなわがままが通ると思うか? どちらかが負けを見るより引き分けとして終える方が都合いいと思うんだが?」
「そもそもお前が星を奪う目的は何だ?」
「そんなの決まっているだろ。優秀な人間を排除するためだ」
「名門校に入った目的は優秀な人間を排除して学校の評価を下げること。それが僕の目的だ」
「なぜ、そんなことをする。学校に恨みでもあるのか?」
「世の中、平等だと思うかい? 力がある者が上に立って力がない者が下から這い上がれない。それが今の世の中だ。だったら力のある者を排除すれば世の中は平等になると思わないかい? そのために僕は星を奪って誰も優秀なまま卒業させないようにしているんだ」
「何だよ、それ。そんな自分勝手が許されると思っているのか?」
「うるさい! 君だって同じだろう。力がない者はどれだけ頑張っても這い上がることは出来ない。権力者だけが世の中を好きにできるご時世なんだよ」
「バカバカしい。そんなご都合主義で通ると思うか」
「ふん。誰かが動かないと世の中は変わらない。だから僕が動いている。むしろ僕は感謝されるべき存在なんだよ」
「何を勝手なことを言ってやがる! いい加減にしやがれ、クソ野郎!」
俺はカッとなってしまい、拳を立てた。
「桃矢さん。暴力は……」
心が止めに入る前に俺は村上の頬に拳を振るっていた。
パコーンと良い音を立てながら村上は宙に舞った。
そして地面に打ち付けられた瞬間である。
バラバラと服のポケットから何かが溢れた。
ペンケースが衝撃で開き、中身が溢れる。
「ほ、星だ」
その中身は星だった。一つや二つではなく無数の星の数だった。
今まで盗んできた星だ。どこかに仕舞い込んでいることは予想していたが、まさか持ち歩いているとは思わなかった。
「確かに自分自身で持ち歩いていた方が安全ですよね」
「それにしてもいくつあるんだ。俺の星もあるのかな」
たった一発の衝撃で村上は伸びてしまう。
だが、動かぬ証拠を押さえたことにより村上は御用となった。
その後、星の持ち主に盗まれた星を返した。
当然、村上の悪行は報告され、悪質と判断した学校側からは退学を言い渡した。
「星が戻ってきて良かったですね。桃矢さん」
「うん。これで一件落着だな」
星盗難事件を解決した直後、俺の前に一人の生徒が現れた。
「菊池くん」
「椎名さん?」
「星の件、本当にありがとう」
「いえ、こちらこそ協力して頂いてありがとうございます」
「今回の活躍の件で話があるんだけど、今から生徒会室に来てもらってもいいかな?」
「は、はぁ……」
何のことだか分からなかったが俺は椎名さんに言われて生徒会室へ行くことになる。
生徒会室に向かうとそこには生徒会のメンバー勢揃いしていた。
「天山さんにはまだ伝えていないけど、生徒会のメンバーで話し合ってあることを決めました」
「一体、何を……?」
「菊池桃矢くん。君を今日から特別活動の許可と生徒指導の責任者に命じます」
椎名さんはそう俺に宣言した。
「は、はい?」
俺は何のことだが首を傾げるばかりである。
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