第16話 紛失
「無いってもしかして星が無いんですか?」
「あぁ、ここにしまっていたのに。多分、村上に擦られたんだ」
そういえば一瞬、奴言動が変わった気がした。
元々、俺の星が目的で心が気になっていると言うのは嘘の口実だと理解した。
「俺としたことが。こんな凡ミスをするなんて。すぐに取り返さないと」
「でも証拠はあるんですか?」
「証拠? そんなものはないけど、あいつと接触してから無くなったんだ。絶対にあいつがやったんだ」
「現行犯ならまだしも今、行っても手元には無いはずです。それに変に話を膨らませたら言い掛かりだとか言われてこっちが不利になります」
「じゃ、どうすればいいんだよ」
「現行犯しかありません。星を持っている人が囮になって彼が接触したところを取り押さえるしかありません」
いきなり不利な状況に立たされた。俺が油断して星を盗まれたばかりに面倒なことになってしまった。
「確かに星を自力で手に入れるより盗んだ方が楽で効率的だよな。そう言う奴もいるってことか」
「いえ、星を盗んだところで評価には繋がりません。星というのは獲得した人のデータがあります。それを書き換えない限り、盗んだ星は本人以外価値がありませんよ」
「じゃ、そのデータを書き換えるってことか」
「それは難しいですよ。星のデータは機密故に複数のパスワードと管理人の色彩認証など突破するべきものが多く存在します。そんな技術を高校生で会得出来ません。わざわざそんなことをするくらいなら自力で星を集めた方が早いです」
「じゃ、星を盗む理由って何だ?」
「んーおそらく他人の評価を下げることだと思います」
「評価を下げる?」
「お父様から星を受け取った時に言われませんでしたか? その星は再発行不可。呉々も無くさないようにって」
「言われた。無くすとどうなるんだ?」
「勿論、その星の分の評価は無くなります。いくらデータ上で星の獲得歴があったとしても無くしたら評価は消えます。例外なくその星を守り抜くことも星を獲得した者の責務ってことですよ」
「つまり評価を下げるために盗んでいるってことか。随分、タチが悪いな」
「だから生徒会も困っているんです。星を無くしたなんて公に出来ないから内密で相談があったんです。無くした人は口を揃えて村上影牢が怪しいと言っています。しかし証拠がないので何も出来ないでいるわけです」
「ちっ。許せねぇ。人が苦労を重ねて得た星を盗んで評価を下げるなんて人間のやることじゃねぇ。絶対に俺が尻尾を掴んでやる」
「何か策があるんですか?」
「まずは直接交渉してみる」
「相変わらず桃矢さんはまっすぐですね。それがいいんですけど、もう少し策を練った方が良いのでは?」
「大丈夫。たとえ悪人でも話せば分かってくれるよ」
そう言って俺は村上を探すために走った。
その日は既に帰っていたため、村上と接触することは出来なかった。
翌朝に俺は村上のいる教室へ乗り込んだ。
「村上はいるか?」
俺が慌しく入ったことで近くにいた生徒は村上の席を指す。
村上は読書をしている最中だった。
俺は村上の前まで向かう。
「おい。村上。話があるんだけど」
「君は昨日の。確か菊池くん……だったかな?」
村上は余裕のある口調でそう言った。
俺は村上の机にバンッと手を置いた。
「俺の星を返せ!」
「星? 何のことだい?」
「惚けるな。昨日、俺の星を擦っただろ。現に無いんだ」
「知らないな。どこかに落としたんじゃないのかい?」
俺はノウノウとした態度に苛立ち、村上の胸ぐらを掴んでいた。
「暴力かい? やるならやればいい。但し、不利になるのはどちらかよく考えるんだ。今は周囲の視線がある。君は一方的に僕を殴ったということでそれなりの処分が下るだろう。それでも構わないならどうぞ。好きに殴ればいい」
俺は手を離した。
「おや? 殴らないのかい? それとも殴る先の心配なのか、そもそも怖気付いちゃったのかな?」
「そんな安い挑発に乗るほど、俺はバカじゃ無いよ。今のでよく分かったよ。村上、お前はどうしようもないペテン師ってことがな」
「さて。何のことかさっぱり分からないな」
「心が好きとかあれはその場しのぎの嘘だったんだな。本当は他人の星を盗んで困らせるのが好きな悪趣味野郎ってことだ」
「さっきから君は何を言っているんだ? 言いがかりもよしてくれよ。これ以上、しつこいと言い掛かりをしたって上に相談しようか?」
「惚けていられるのも今のうちだ。少しでも反省の色があれば大ごとにしないつもりだったが、どうもそういう訳にはいかないらしい。村上、お前には徹底的に痛い目に遭ってもらうことになる」
「ふん。負け惜しみが!」
「今に見ていろ」
そう捨て台詞を吐き捨てて俺は教室を出た。
今の俺に出来ること。それは村上を学校から追放することだ。
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