第15話 気配


「ん?」


 俺は何かの気配を感じて後ろを振り返る。


「どうしましたか? 桃矢さん」


 隣にいた心は不思議そうにしていた。


「ここ最近、誰かに見られている気がするんだ。心は何か感じないか?」


「いえ、私はそう言う気配は感じなかったですよ」


 俺の直感が間違っていなければ誰かに見られていることは間違いない。

 学校だけではなく学校の外でも怪しい視線は感じていた。


「ボディガードの俺がしっかりと守らないといけないな」


 心が誰かに狙われている気がした。

 当然、本人に狙われるようなことはないのだが、立場上、心が何者かに狙われるのは不思議ではない。

 俺が何のためにいるのか。今こそ本来の役目を発揮する時かもしれない。

 放課後のことだった。

 心が生徒会の会議をしている教室の外で俺は腕を組みながら会議が終わるのを静かに待っていた。

 そんな時に階段の方から何者かの視線を感じたのだ。


「またか」


 向こうから何かしてくることはない。ただ様子を窺っている。

 だが、気配を感じたからにはこれ以上ほっておくわけにはいかない。

 まずは心を狙う事情を知らなければならない。

 俺は気配を感じた方へ向かうと何者かがサッと逃げるのが分かった。


「待て!」


 俺は走って追いかける。

 階段を駆け下りる何者かに対し、俺は十段飛ばし感覚で階段を駆け下りた。

 みるみると距離が縮まる。


「待てって言っているだろ」


 俺は押し倒すように覆い被さった。


「や、辞めろ!」


「暴れるな。大人しくしろ」


 捕まえた相手は小柄な男子生徒だった。

 見たことのない生徒だが、おそらく一年。別のクラスにいる生徒だろう。


「逃げられないぞ。何故、心を狙った? 目的は何だ?」


「心? 何のことだ」


「惚けるな。天山心のあとをずっと付けていただろ。俺はずっと気付いていたぞ」


「天山心? 一体何を言って……。いや、その通りだ」


 急に声のトーンが変わった気がしたが、認めた。


「何故、心を狙った? その前にお前名前は?」


「分かった。話す。話すからそこを退いてくれ。重いし苦しい」


 観念したのか、俺は押さえつけていた手を離す。


村上影牢むらかみかげろう。一年E組だ。天山心を付けていた理由は好きだからだ。ずっと告白するチャンスを窺っていた。それだけのことだ」


 心が男からモテるのは必然的であり、不思議ではない。


「何だ、そうだったのか。だったら逃げることはなかったのに」


「君が血相を変えて追いかけてくるからじゃないか」


「そ、そうだったか? 悪い、悪い。それにしてもずっと付き纏う真似は辞めた方がいい。不審者だと勘違いしちゃうからな」


「勘違いしたのは君だろう」


 そう言って村上はその場を立ち去ろうとする。


「待てよ。告白していかないのか?」


「諦めたよ。僕のような根暗が告白をしたところで叶わぬ恋さ」


「何、言う前から諦めているんだよ。当たって砕けろよ。俺が話をしてやるから」


「お節介はやめてくれ。僕はもういいと言っているんだ」


「いや、なんか納得いかない。もう少しで生徒会の会議が終わるから心を連れてきてやる。そこで待っていろ」


「ちょっと、何を勝手に決めて……」


 俺は先ほどの会議教室へ戻った。

 そして会議が終わった直後の心を連れて村上に待たせている場所へ向かう。


「ちょっと。桃矢さん? どこに連れて行くんですか?」


「心に話があるって奴がいるんだ。悪いんだけど、聞いてやってくれないか? すぐ終わるからさ」


 そして、村上を待たせている場所へ向かうが、そこには誰もいなかった。


「あ、あれ?」


「桃矢さん。誰もいないですよ?」


「おかしいな。ここで待っていろって言ったのにどこに行ったんだ?」


「あの、桃矢さん。その方ってどんな方ですか?」


「小柄で少し暗い奴なんだけど、確か村上って言っていたよ。同じ一年だ」


「村上……。村上ってもしかして村上影牢って人じゃないですか?」


「確かそんな名前だったと思う。何だ、心と知り合いか?」


「いえ、生徒会にいるので全生徒の名前と特徴は頭に入っています。その方、少し問題のある生徒ですね」


「問題がある?」


「先ほど生徒会の議題にも上がったんです。何でも彼は盗難の常習犯って噂があり、極秘でマークすべき人物です。特にここ最近、星の盗難が相次いでいます。生徒会としては無視できない問題なんですよ」


「ま、まさか……」


 俺は胸ポケットにしまっていた金の星を確認する。


「な、無い! 星が無い」


 俺はサッと血の気が引いた。

 これは一大事だった。

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