第14話 練習開始
球技大会まで残り一ヶ月。
この一ヶ月の間、体育の授業は出場する種目の練習に割り当てられることになっていた。
「さて。早速、練習しようぜ」
俺のやる気に対して他のメンバーはどんよりした空気が流れていた。
「あれ? どうした?」
「それは負け競技ということでやる気が出ないと思いますよ。私もそうですし」
と、心もいつもなく元気がなかった。
「でも負け競技とはいえ、練習している風は出さないと。体育教師の鬼瓦の目もあるし」
「一応、授業中ですから練習はしましょう」
「そういえばもう一人居たよな? えっと、名前何だっけ?」
「
美紗都はそう教えてくれた。
「サボり? それは許せんな。俺、ちょっと探してくる」
「辞めといた方がいいよ。彼、何かと理由をつけてやりたくないことからすぐ逃げるから。それだけで労力の無駄」
「でも五人一組じゃないとバスケじゃない。こう言うのはチームワークが大事だ。俺、連れてくるから皆は先に練習を始めてくれ」
そう言い残し、俺は鳴川を探しにいく。
体育館を飛び出し、俺は探し回ると鳴川は自販機のあるフリースペースで寛いでいた。
「鳴川くん。ここに居たのか」
「菊池くんではないか。どうしたんだい? 僕は今、アフターヌーンティーで忙しいんだけど?」
金髪のロン毛をなびかせながら鳴川はキメ顔で言った。
「今は体育の授業で球技大会の練習の時間だよ。早く体育館に来てよ。皆、待っているから」
「僕はパスさせてもらうよ。僕のような美しい顔に汗なんて似合わないからね。僕抜きで頑張ってくれたまえ」
美紗都の言われた通り、素直に言うことは聞いてくれなかった。
それに何と言うか、少しウザさを感じる。
「一人でも欠けたら勝てるものも勝てない。そんな勝手は許されないよ」
「菊池くんもおかしなことを言うんだね。頑張ることに何の意味があるんだい?」
「何の意味って……」
「バスケは負け種目と聞いただろ? どうせ負けるだけでどうして真面目に練習をしなくてはならないんだい? 労力の無駄さ。僕は無駄なものに時間を費やすことはしないのさ」
「そんなのやってみないと分からないだろ」
「やったところで負けは目に見えている。どうして分からないかな? もしかして星は稼げなくてもクラスの評価を上げようとしているのかい? それもそうか。菊池くんは既に星を持っているんだったね。星に執着がないのならクラスの評価を上げることに専念した方が得策な訳だ。いいよな。星があるだけで余裕があるって。実に羨ましいよ」
「鳴川くん……いや、シスト! 俺は別にクラスの評価とか考えていない。ただ、やる前で諦めるようなことは嫌いなんだ。一緒に練習をしてほしい」
「正気かい? 蟻が象に勝つような話なんだぞ? それでも勝つ気でいると言うのかい?」
「まぁ、絶対なんてないからな。それに勝ち負けよりも楽しんだ方が断然、お得じゃね?」
「勝ち負けより楽しむか。菊池くんは変わっているね。皆、この学校に入ったら自分以外は敵って考えが大多数なのに勝ち負けに拘らないなんて。それとも編入して来たばかりでこの学校の恐ろしさを知らないノー天気ってことかい?」
「俺に対してどう言う捉え方をされても構わないけど、一人だけサボることは認めない」
「嫌だと言ったら?」
「引きずってでも練習に参加される」
「それは困るな。服も髪も乱れたくないからね」
「汗を掻くのが嫌だって言っていたな」
「それが何?」
「汗は汚いものかもしれないけど、凄くいいものなんだ。なんて言うか生きているって言うか、気持ちいいと言うか、とにかく悪いものじゃない。一度その感覚を味わえたら変わると思う」
「はぁ。君には参ったな。ここまで僕を説得させたのは菊池くんが初めてだよ。仕方がない。練習には参加する。ただし、僕はかなりの運動音痴だ。むしろ居ない方が良かったと言えるくらい足手まといになることは宣言しておくよ」
「大丈夫。身体を動かしていれば自然と慣れるものだから」
「君基準で考えないでくれる?」
こうして俺は鳴川を連れて体育館へ戻った。
「よし。じゃ、皆で練習をしようか」
俺が鳴川を連れて来たことで心たちだけではなくその場で練習していたクラスメイトたちは驚くようにこちらを見ていた。
「え? あの鳴川を説得させて参加させるなんて」
鳴川を練習に参加させただけで驚かれる始末に俺は首を傾げた。
「俺、何かした?」
「桃矢さん。鳴川くんって普段、絶対に人の言うことは聞かないで有名なんです。それを聞かせるなんてどうやって説得しなんですか?」と、心はコソコソ声で聞いてきた。
「どうって言われても普通に?」
「その普通って何ですか」
ちょっとしたことで俺は一目を置かれることになる。
何はともあれ、球技大会の練習は無事に始めることができた。
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