第13話 星
俺が名門校に編入してから数日後のことである。
教室ではある議題を話し合っていた。
「それでは球技大会の種目の参加メンバーを決めたいと思います。立候補する生徒は挙手をお願いします」
クラス委員が教壇に立って取りまとめをしていた。
「球技大会か。名門校にも一般的な学校行事があるんだな」
「塔矢さんはどの種目に出る予定ですか?」
隣の席の心から質問を投げかけられた。
「俺は別に余り物でいいよ。どれに出たところで変わらないし」
「塔矢さんは学校行事だと甘く見ているようですが、このイベントは重要なものなんですよ」
「どういうこと?」
「球技大会に優勝したクラスの活躍したメンバーにはそれなりの報酬があるんです。通常であれば星が貰えるはずです」
「星?」
「星とはうちの学校の評価点にあたるバッチのことです。銀、金の星があり銀五つで金一つ分の価値があります。金が五つあれば学校での待遇が一般の生徒と大きく変わります。就職、進学先でも有利に立てるのでここの生徒は星を集めることが大きな課題になっています。そのためにこの球技大会は捨てられない行事になります」
「へー。この星ってそういう意味があるんだ」
俺は胸ポケットから金の星を取り出した。
「あら。桃矢さんは既に金の星をお持ちでしたか」
「うん。お父さん……理事長から入学の手続きの時に貰ったんだ。君の役に立つはずだと言って貰ったんだけどそういう意味だったんだ」
「きっと私を救った時の評価として渡されたんでしょうね」
「そ、そうかも」
その時である。教室中から視線が俺に集まった。
「え? 星?」
「金だ。金の星だ」
球技大会の話し合いはそっちのけになり、俺は注目を浴びた。
「一年生で金を持っている人なんていないのにどうして?」
「菊池くんって何者なの?」
「やっぱり天山さんとの関わりが影響しているのか?」
俺は戸惑っていた。クラスメイトたちは急に目の色を変えて迫っていたからだ。
やはりこの学校では星が大きな影響を与えているようだった。
パンパンと手を鳴らしてクラス委員は注目させる。
「皆さん。今は話し合いの途中です。菊池くんも困っているでしょ」
クラス委員、
責任感が強くまとめ役としても優秀なことから率先してクラス委員を引き受けている。
そんな佐伯の一言でクラスメイトたちは自分の席に戻った。
「分かっていると思いますが、この球技大会は私たちにとって大切な行事です。適当な感情で望んでいる人はいないと思いますが、この種目選抜は特に重要です」
佐伯は何故か俺の方に視線を向けた。
「俺、何かやらかしたかな?」とひそひそ声で心に言った。
「一年で金の星を持っているのは桃矢さんくらいですからね。それはまぁ、複雑な感情があると思いますよ」
知らないことだったとはいえ、ただの学校行事だと思っていたが、他の人からしたら重要なイベントになる。
適当な態度でいた俺は後悔した。
経験者や得意不得意を考慮して次々と種目の担当が決まっていく。
そしてなかなか決まっていない種目があり、俺は疑問を持った。
「バスケが誰も入っていないな。俺、バスケにしようかな」
その一言で再びクラスメイトは俺に注目が集まった。
「桃矢さん。バスケは捨て競技です。勝ちにこだわるなら別の競技がいいかと」
横で心がそう教えてくれた。
「捨て競技ってどういうこと?」
「桃矢さんは入ってきたばかりで知らないと思いますが、別のクラスでバスケ部エースが揃っているんです。それがE組なんですけど、偶然にも強豪が一つのクラスに集まっている訳です。つまりバスケで勝つことは出来ないんです。だから別の競技で総合的に勝つしかないのでバスケは必然的に負け競技になってしまうんですよ」
心がそう話すとクラスメイトたちは納得したように頷いた。
「へー。そんな強い奴らが集まっているんだ」
「そうです。だから星が欲しいなら別の競技がいいかと」
「なんでやってもいないのに負ける前提になっているんだ?」
「いや、だから強豪が揃っていると」
「じゃ、俺バスケにするよ」
「と、桃矢さん?」
「誰もやりたがらなくても結局は誰かがやらなきゃならないんだろ? だったら俺が引き受けるよ」
「でもいいんですか? 星を得るためのチャンスを捨ててしまって」
「俺は既に持っているからいいよ。それに負ける気ないし」
「桃矢さん。もしかしてバスケの経験がお有りで……」
「ない!」と俺は言い切った。
「仕方ありませんね。桃矢さんがそのように選択するなら私もそれに賛同しましょう」
心はバスケに立候補した。
どちらにしろ、ボディーガードをしなければならないので同じ種目を希望してくれただけありがたい。
「それでは球技大会の種目はこのように決まりました。皆さん頑張りましょう」
こうして球技大会に出場するメンバーが決まった。
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