第7話 豪邸の案内


「そっか。理事長の推薦があれば俺でも入学できるってことか。でもそれって裏口入学ってやつだろ? そんな怪しいことして問題にならないのか?」


 俺は心の提案に疑問を抱いた。いくらボディーガードのためとはいえ、危ない橋を渡れない。


「桃矢さん。有名な学校に入るためには学力だけだと思っているんですか?」


「え? 違うの?」


「勿論、学力は大事です。でもそれ以外に大事なものを選抜して入学している人だっているんです」


「大事なもの?」


「自分自身の武器が最大限まで引き出せているかどうか。勉強が得意であればそれを武器にアピールすればいい。それが難しい場合はスポーツ。他にもボランティア活動で貢献しているとか人々の役に立てるような行動をしているとか。つまり世間から見て何か心に刻むような可能性を持っているかどうかって言うのが鍵になります。面接ではそれを見て成績が悪い人でも入学出来た人なんて一杯います。成績が良くないと入れないと言うのは世間から見た幻想なんですよ」


「知らなかった。皆、成績優秀のエリートばかりかと思った」


「校風は勉学に特化しているわけではなく世間でどうやって生き残るか人生で大切なことを教えてくれます。そこは他の学校にはない特徴なんです。きっと入ったらためになることばかりだと思いますよ」


「聞いている限りはどんな学校かよく分かったよ。成績だけじゃなく個人の評価をしっかりしてくれるところだって。でも俺にはそんなアピールできる武器なんて持ち合わせていないよ」


「何を言っているんですか。あるじゃないですか。桃矢さんにしかない最大の武器」


「最大の武器?」


「これですよ。忘れたんですか?」


 心はそう言いながら先ほどの新聞記事を見せた。


「いや、それはただの偶然のたまたまで」


「偶然でもなんでも桃矢さんのおかげで私が救われたんです。これは大きなアピールになります。勿論、父だって喜んで編入させてくれます」


「まぁ、そうかもしれないけど」


「お願いします。桃矢さんと一緒に学園生活を過ごしたいって言う思いもあるんです。一度、父に会ってください」


「分かったよ。前向きに考えてみる」


「ありがとうございます。今日は家に居ませんが、明日は学校にいると思いますのでその時に紹介しますね」


「分かった」


 食事を終えて心は豪邸の中を案内してくれると言うので俺はついていく。


「まずは桃矢さんの部屋を案内しますね。一番使う部屋なので」


 俺の部屋に案内されると客室の割には豪華すぎる作りだった。

 勉強机やベッドは勿論、家具や家電など最新の設備が備え付けられている。

 おまけに大画面のスクリーンがあり、まるで貸切の映画館のような作りである。


「部屋の中にあるものは好きに使って下さい。他に足りないものがあれば用意しますので遠慮せずに仰って下さい」


「いや、充分過ぎます」


 部屋に入る前から既に俺は圧倒されていた。


「そうだ。桃矢さんは筋トレが趣味と言っていましたね。普段はどのようなトレーニングを?」


「その場で出来る腹筋や腕立て伏せとか。外でランニングや公園の鉄棒で懸垂をしたりするけど」


「だったら桃矢さんに是非使ってほしいものがあります」


 俺の部屋から数歩歩いたところにある部屋に案内される。


「入って下さい」


 心に促されて扉を開ける。

 するとその部屋にはトレーニングジムになっており、様々なトレーニングマシーンがズラッと並んでいた。


「すご! ジムより種類が充実している」


「ここを好きに使って下さい。私もたまにここでトレーニングするんですよ」


「たまにしか使わないのに種類豊富だね」


「とりあえず目新しいマシーンを揃えたんですよ。使わないと勿体ないのでどうしようかと思っていました」


「有り難く使わせてもらうよ」


「それともう一つ見てもらいたい部屋があります」


「どこ?」


「私の部屋です」


 そういえば心と同じ屋根の下で住むことになるんだ。当然、心の部屋もあるわけだ。

 部屋の数が多過ぎて身近にいると言う感覚は薄い。言ってみれば同じマンションに住んでいる住民という感覚に近い。


「ここですよ」


 心の部屋は俺の部屋の丁度真上に当たる場所だった。

 階が違うのでそこまで近い距離にいるという訳ではない。

 心の部屋の間取りは俺の部屋の同じだ。しかし広いはずなのに狭く感じる。

 部屋を圧迫していたのは本の数々。何千冊あるのだろうか。

 本棚はあるはずなのに入りきらないくらい本がはみ出ているのだ。


「あははは。ちょっと散らかっていますね。私、本が好きなんですよ。でも買ったはいいものの読めていない本も何冊かあります。いや、何百? 何千? 忘れちゃった」


「片付けられないようなら俺が片付けてあげようか?」


「それは辞めて下さい。本にも置き方があるんです。私がいつかやるのでそっとして下さい」と、少し本気になりながら言われてしまう。


 心には拘りがあるようだ。お手伝いさんでも触らせたくないくらいの拘りが。

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