第6話 御礼の提案
「桃矢さん。私の専属のボディガードとして仕えてみませんか?」と、心は提案した。
「ボディガード? それがお礼?」
お礼と結びついているとは思わず俺は首を傾げていた。
「そう言う顔になるのも仕方がありません。ちゃんと説明します。現金をそのまま差し上げるのは煩わしいと思います。そこで私の専属のボディガードとして仕える事で安定した仕事を提供しようって事ですよ。雇用形態は今から考えますが、住み込みで三食食事付き。収入とは別に別途経費として必要なものは提供します。簡単に言えば生きる上で困るようなことは一切させません。文字通りここはあなたの家として使って構いません。まぁ、全部は無理ですけど一部の部屋は好きに使って良いです。どうでしょう?」
「そもそもどうして俺が心のボディガードとして働かなくちゃならないんだ。働くだけだったら清掃員でも家事代行でも出来るはずだ」
「それは桃矢さんの実力を買っているからですよ」
「俺の実力?」
「この鍛え上げられた身体。それに誘拐犯をいとも簡単に撃退したその実力。通常の人では持ち合わせていません。私はこの身体で守られたいんです」
心は撫でるように俺の身体を指でなぞった。
「私、実は危ない目にあったのは今回が初めてじゃないんです」
「え?」
「今回のような大掛かりことは初めてですけど、命の危険に晒されることはよくあるんです。その度にボディガードを雇いたいと思うんですけど、どうも人の相性もあるようで受け入れらなかったんです。でも桃矢さんにならボディガードをされたいって思うんですよ。お願いします。桃矢さん以外に考えられないんです」
「で、でも急にそんなことを言われても」
「後悔させません。桃矢さんの望みがあれば可能な限り提供します」
ギュッと心は俺の腕に胸を押し付けた。
甘い言葉に甘い誘惑。これは断るのが惜しい展開だ。
「それに桃矢さんは家庭関係が不満で仕事を探していたんですよね。丁度良い機会だと私は思うんですが」
最後の背中を押すように心は寂しそうに呟く。
「分かった。でもやってみて合わなかったら契約を破棄させてもらう。それで構わないのであればボディガードでもなんでもさせてもらう」
「ありがとうございます。勿論、合わなければいつでも辞めてもらって構いません。でも居心地が良すぎて辞める発想なんて消え去ると思いますけどね」
心は自信満々に言い放つ。
心との不思議な出会いの後、俺は何故か心のボディーガードとして働くことになった。
正直、職を失い絶望していた俺としてはありがたい話である。
しかもこんな可愛い美少女のボディーガードが出来るなんて夢のようだ。
「さて。そうと決まりましたら歓迎会をしましょうか」
「歓迎会?」
すると心は指パッチンをする。その合図で豪邸にいた複数の執事、メイドたちがゾロゾロと料理を運んでくる。
テーブルには一流のシェフが作ったと思われる色とりどりな料理が並んでいた。
「さぁ、好きなものを存分に食べて下さい」
「え? いいの?」
「勿論。全て桃矢さんのために用意したものです」
「じゃ、遠慮なく」
数日前からまともなものを食べていないと言うこともあり、俺は無我夢中で料理を口へ運んだ。どれも食べたこともなく味は特に分からなかったがとにかく旨かった。
「桃矢さん。食べながらでいいので話の続きをしてもよろしいですか?」
「ん? あぁ、なんだっけ?」
「桃矢さんは住み込みで働いてもらうことになりますが大丈夫ですよね?」
「今は祖父の家で居候させてもらっているんだけど、家を出るって言ったら喜んで見送ってくれると思うよ。荷物はそんなにないから一回分で足りると思う」
あんなところに住み続けていたら稼いだ金は全部ギャンブルで擦られてしまう。
おまけにギャンブルで負けた時の祖父は手が付けられないくらい暴れる。
俺の身が持たないので住み込みで働いけて都合が良かった。
これ以上、俺の生活費を搾取され続けるより全然いい。
「それは助かります。では食べ終わった後で桃矢さんの部屋を案内しますね。それともう一つ相談なのですが」
「相談?」
「はい。桃矢さんは今、定時制の学校に通われていますよね?」
「まぁ、高卒の肩書きだけはどうしても欲しいから通っているけど」
「実はその、そこを退学してもらいたいんです」
「退学?」
「はい。その代わり私の通う学校に編入してもらいたいんです。ボディガードをするなら同じ学校の方が何かと都合が良いので」
「なるほど。心ってどこの学校に通っているんだ?」
「青葉聖凪学園です」
「青葉生凪学園ってまさか全国でも有名な超名門学校?」
受験に興味がない俺でも知っている学校だ。なんでも全国で最も偏差値の高い学校でその卒業生は総理大臣や有名企業の経営者などエリート集団を排出していると言う。
まさに入学するのは奇跡。そして卒業生には将来安泰が待っている誰もが憧れを持つ学校として知られている。
「無理、無理、無理。俺、ろくに勉強なんてして来なかったし、そんなエリート集団と混ざって学校生活なんて送れないよ。何より編入するなんて簡単に言うけど、俺の学力じゃまず入れない。それは俺が一番分かっていることだ」
「勿論、普通に編入なんて不可能なことは承知しています。でも父親の権力を使えばそれは可能になります」
「権力?」
「私の父は青葉生凪学園の理事長なんですよ」
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