第4話 送迎
「菊池桃矢さん。急に押しかけてごめんなさい。迷惑じゃなかったかな?」
天山心はハキハキとした口調で言った。
「それは別に構わないけど、よくここが分かったな」
「えぇ、個人情報くらいうちの情報網があればすぐに分かりますよ。とりあえず乗って貰えますか?」
心は少し悪い顔をする。結局は金の力というべきだろうか。
車に乗るのは抵抗があったが、俺の個人情報が筒抜けであるなら逃げ場はない。
俺は大人しく後部座席に乗り込んだ。
「体調はもう大丈夫なの?」
「はい。お陰様で。こうして私が無事でいられるのは桃矢さんのお陰です。本当にありがとうございました」
助けた本人から感謝されると気持ちのいいものだった。
助けて良かったと心から思う。
感謝を伝えるためにわざわざ俺に会いに来てくれたと思うと礼儀がある良い子だという印象がつく。
だが、俺を乗せた高級車は走行する。
「あの、今からどこに行くの?」
「それは着いてからのお楽しみです」
「お楽しみ……ね」
「はい。だからこれを付けてもらっても良いですか」
心から渡されたのはアイマスクである。俺は嫌な予感しかしなかった。
だが、心の小動物のような愛らしい目に逆らえなかった。
素直にアイマスクを付けて俺は腕を組む。
「少し時間が掛かるので寝ていてもいいですよ?」
「いや、眠くないから寝ない」
「そうですか。でしたら退屈でしょうから私とお話をしましょうか」
「まぁ、いいけど」
「監禁されていた二週間。私がどのように過ごしていたか興味ありますか?」
「まぁ、でも他人に言いたくないような内容じゃないのか?」
「えぇ。気軽に話せる事ではないですね。でも警察に散々聞かれた事ですので今更隠すこともないですよ。監禁されていた二週間。私はいつ殺されるか不安を感じながら生きていました」
心は辛いはずの監禁生活を語り出す。
学校が終わった帰り道、心は黒い袋を頭に被せられて車の後部座席に詰め込まれたという。
ナイフを突きつけられて抵抗ができないまま気づいたら例の部屋に連れ込まれていた。
そこからは光が一切通らない場所で過ごすことになった。
必ず誰かが心の見張りにいて監禁中はずっと手足は縛られていた。
食事や風呂、トイレなどの生理現象の時だけ拘束を外されるが、それ以外はずっと縛られたままだったという。
食事はコンビニのパンやおにぎりを与えられていた。
勿論、食欲なんて湧かずに食べられなかった。ナイフで脅されたこともあり、その時は無理やり口に詰め込んだ。
「やはり人っていうのは太陽の光を浴びないとホルモンバランスが崩れてしまいます。私の体力は限界でした。一層、殺してくれと誘拐犯に言ったこともあります。でもそれはさせて貰えなかった。まさに生き地獄といった状況です。そんな時に桃矢さんが助けてくれたんですよ。本当に奇跡が起きたと思いました。最初は警察がアジトを突き止めて突入して来たと思ったんですけど、一人で入って来たから何かがおかしいと思ったらただの勘違いって。でも結果的に助けてくれたので感謝でしかないですよ」
あんなことがあったにも関わらず笑い話をするような口調で心は言った。
この子の精神はどうなっているんだろうか。
どこか小慣れているというか終わったことに対して淡々と話せている。
「犯人の目的ってやっぱり金だけだったのかな?」
「そうだと思いますよ。常識では考えられない金額を要求する電話が聞こえていましたし」
「金以外の目的はなかったのかな?」
「と、言いますと?」
「その……なんと言いますか」
「あぁ、性的な目的とかそういう類のものですか?」
俺が言いにくそうにしていると心は察したように言った。
「確かに監禁中はそういう乱暴をされたことがあります。でも身体を触られたくらいでそれ以上はなかったです。このことは警察に話していないんですけど、言うほどでもないことだったので」
「そ、そうか。もしそれがあったら男性恐怖症になっちゃうよね」
「そんな心配までしてくれていたんですか。ありがとうございます。私はこれくらいのことでは挫けませんよ。過去を引きずっても何も始まりません」
「心は強いな」
「心に余裕を持たせていますから」
そんな時だ。車はある場所に止まった。
「着きましたね。桃矢さん。アイマスクを外してもらっても大丈夫ですよ」
俺はようやく視界を取り戻した。
車から降りるとそこは城のような豪邸だった。
俺は急におとぎの国へ転移してしまった。
「ここって?」
「私の自宅です。どうぞ遠慮せずに入って下さい」
心はニッコリと家に入るようジェスチャーした。
そういえば送迎用の高級車に執事付きで金持ちオーラが出ていたので薄々と感じていたが、これほどまでの金持ちだったとは。
それは身代金目的で誘拐されるのも納得の理由だった。マジぱねぇ。
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