第9話:幽閉された過去の城
私はフローレンスも毒液で焼いてあげました。
死ぬまで苦しむとよいのです。
どれほど苦しみ惨めな余生となろうと、私の心は痛みません。
ベルドも痛めつけたいですが、今はやめておくのが無難ですね。
アルソン皇帝は、覇道の役に立たない女子供に何をしようと関心を持たないでしょうが、少しでも役に立つモノを損なうようなら、私を敵だと狙い定めるでしょう。
「お母さん、やっとこの城を出られる時が来ました」
「でもカチュア、ビフロスト先代皇帝陛下とレビル先代皇室占星術師長様から頂いたご恩を、ちゃんと返さないといけないよ。
ジキルファスト皇太子殿下との婚約はどうするんだい?」
私は正直に全てを話しました。
最初は驚いていて息をのんでいた母上も、話を聞くうちに落ち着いてくれました。
ギネビアとフローレンス、その側近達に私が復讐したことを聞いて、少し驚いていましたが、叱ったりはしませんでした。
「そう、それはよかったわ。
辺境で二人ゆっくり暮らせるのね」
「ええ、お母さん、こんな事もあろうかと、もう家も畑の準備もしてあるの」
「でもカチュア、この家のモノは全部置いていくのよ。
この家のモノは、領民が納めた税で買った物よ。
領民を捨てていく私達が持って行っていいものではないわ」
「分かっています。
お母さんに心労をかけるようなことはしませんよ。
家も家具も私が魔法で創り出しました。
家畜も野生の子達を魔法で集めました。
金銀財宝も、魔法で地中から集めたものです。
向こうに行ったら驚くかもしれませんが、大丈夫ですよ」
「そう、そうなのね、私の娘は魔法の天才だったわね。
でも、だったら大丈夫かしら?
カチュアを失った皇家やアルソン皇帝陛下は困るのではなくて?」
「大丈夫ですよ、お母さん。
良くも悪くもアルソン皇帝陛下は覇王です。
どのような敵が現れても、自らの力で粉砕されます」
「そう、そうなのね。
カチュアがそこまで断言するのなら、私はお会いしたことはないけれど、誰の力も必要とされないほどの方なのね?」
「はい、お母さん、むしろ私は邪魔だと思われています。
私がお手伝いしたら、アルソン皇帝陛下が力を発揮される機会が減りますから」
そう、アルソン皇帝陛下は己を頼みすぎます。
忠誠を尽くす家臣であろうと、自分を凌ぐような手柄を立てたら、妬んでしまう心の狭さがあるのです。
ビフロスト先代皇帝陛下も、レビル先代皇室占星術師長様も、それを危惧されておられたのでしょう。
まあ、もうそんなことはどうでもいいです。
私はお母さんと辺境でゆっくりと暮らすのです。
転移前にこれまで母上が幽閉されていた城が目に入ってしまいました。
月明かりが侯爵家の本城を照らし出しています。
壮大な石造りの城壁が、威厳と力強さを放ちながら天にそびえ立っています。
その石の表面には、長い年月の重みを感じさせる苔や蔦が絡みつき、歴史の証として語りかけています。
城門は重厚な彫刻で飾られ、煌びやかな装飾が目を引きます。
入口には二本の巨大な木製の扉が立ちはだかり、その上にはローレン家の紋章が高らかに掲げられていて、門をくぐると内部へと続く広大な中庭が広がっています。
中庭は美しく整備された庭園となっており、噴水や花壇が配置され、鮮やかな花々が咲き誇っています。
青々とした芝生は、足下に広がる緑の絨毯のようであり、優雅な散歩や歓談に最適な場所となっています。
本城の中は廊下や階段が入り組み広大で迷路のような複雑な構造をしています。
壁には一流の画家による美しい絵画や古い家系の肖像画が掛けられ、豪華な装飾品が所狭しと飾られています。
広間は高い天井に沿ってシャンデリアが輝き、優雅な光が部屋を満たしています。
豪華な家具と絨毯が配置された部屋には、複数の大きな窓があり、外の風景を一望することができます。
本城の一角には図書室があり、数多くの書物が並べられています。
その中には歴史の書物や貴重な文献があり、知識と智慧を追求する者にとってはまさに宝の山なので、全部魔術で写本してしまいました。
この壮大な城の美しさと威厳の裏で、陰謀や野望が渦巻いていました。
ローレン侯爵家の城は、代々美と謀略が交錯する場所であり、内部で巻き起こる駆け引きと権謀術数の舞台となっていました。
私が母上のために造った城は真新しいですが、多少はこの城の良さを取り入れています。
特に美しさや防御力は、ベルドの事を頭と心から振り払って取り入れました。
母上の心と身体の安全が何より一番大切ですから。
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