第8話:黒い復讐の魔蟲

 当初は塔の最上階だけが母と私の部屋でした。

 ですが私の魔力と魔術の実力が上がるたびに、徐々に塔の階段部分まで母と私の占有空間になっていっきました。


 普通なら城壁の側面防御を担う側防塔を、父ベルドが完全に放棄するなどありえないのですが、最初から囮として放棄する予定の外郭だったので許可されました。


 ベルドの手先が苦痛にのたうち回っているのは、塔の入り口から少し上った階段部分までです。


 母が寛いでいる塔の最上部まで悲鳴は届きません。

 母に不安や心配を与えたくないので、できるだけ遠くで始末したかったのです。


「メス犬一匹始末するのに、いつまでかかっているの!」


 ギネビアが多くの護衛や侍女を連れてやってきました。

 母のことをメス犬と悪口を言っています。


 ギネビアこそメス犬、腐れ外道の業突張りではありませんか。

 待ちに待った機会がやってきました。


 今までは我慢していましたが、そちらから手を出したのですから、報復は覚悟したいますよね?


 少々の報復で済むとは思わないことです。

 生まれてからずってこの日が来ることを密かに願っていたのです。

 無意識に笑顔が浮かんでいるかもしれません。


「皮膚を焼き、肉を溶かし、地獄の痛みを与えよ!」


 私は殺さない程度の毒液を叩きつけました。

 母と私が苦しんできた年月を考えれば、簡単に殺すなんてできません。

 屈辱と苦痛を長期間与えたいのです。


 その方法を考え用意することが、幼い私の心を安定させてくれました。

 暗く下劣な安定法でしたが、それしか心を維持する方法がなかったのです。


「「「「「ギャァァァァアァアァアア!」」」」」

 

 一瞬で毒液のかかった露出部の皮膚が焼けただれています。

 暗い情熱で研究を重ねた特別製の毒液です。


 人の痛覚を刺激して苦しませる事だけに特化した毒液です。

 服にしみ込んだ部分も、時間をかけて皮膚を焼いていきます。


 拭き取っても水で洗い流しても、徐々に筋肉まで溶かし激痛を与えます。

 しかし命までは取りません。


 皮膚が全て焼けただれ、むき出しになった筋肉も半分は溶け、そよ風が吹いても痛覚が刺激されて激痛に苦しむことになります。


 あれだけ侯爵家の正室として体裁を気にしていたのに、醜く焼けただれた顔と体で生きていけばいいのです。


 ですがそれだけで終わらせるつもりはありません。

 

「魔蟲よ、我が恨みを晴らして!」


 私はこの時のために飼い慣らしていた魔の蟲を開放しました。

 人間に寄生して肉を食べて激痛を与える魔蟲。


 人間の肉に卵を産み付け、孵化した幼虫がさらに人間の肉を食べる。

 決して人間を殺さないけれど、常に激痛を与え続ける。


 復讐のためには最適の魔蟲です。

 ギネビアに対する復讐は始まりましたが、フローレンスにも復讐しなければ!

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