第7話:呪いの塔、逆襲の幕開け

 私は皇帝陛下に挨拶もせず、その場から転移しました。

 ローレン侯爵家の本城の塔に幽閉されている母が心配だったのです。


 ベルドが見せた嫌らしい逆恨みの眼。

 あの眼は今に始まった事ではないと思ったのです。


 私を殺すと決断した以上、母に対する配慮などかなぐり捨てているでしょう。

 すでに家臣を動かして、母を殺そうとしているはずです。


 まあ、そんな事はずっと前から分かっていました。

 私がベルドの役に立たなくなった時点で、いえ、私の代わりになるモノが手に入った時点で、母も私も始末されるという事は、理解していました。


 事前に打てる手は全て打っています。

 母がなすすべなく殺される事はないと思います。

 逆に襲撃者が地獄を見ている事でしょう。


 ですが世の中に絶対はありません。

 少しでも早く母の元に戻らないといけません。


「ギャァァアァ、助けてくれぇぇぇぇ、許してくれぇぇぇぇ!」


 ちゃんと罠が作動しています。

 母と私の大切な大切なプライベート空間。

 最初は地下牢に押し込められ囚人と同じ食事を与えられていた母。


 先代の皇国占星術師長様がその事を占術で知られ、私と一緒に引き取ると言ってくださいました。


 そんな事になればローレン侯爵家は、幸運で手に入れた皇太孫の婚約者という地位を失う事になります。


 慌てたベルドは急いで体裁を整え、本城の一角に母と私の部屋を整えようとしましたが、ギネビアが不服を唱えました。

 苦慮したベルドは言い訳が付く範囲で最低の場所を用意したのです。


 母と私に与えられたのは、本城でも最も古く老朽化した区画。

 敵が攻め寄せた時に囮に使う区画。

 一番外側の外郭にある低い塔が与えられました。


 母や私に見下ろされるが嫌だというギネビアの意見と、先代皇帝陛下の不興を買わないようとしたベルドの、妥協が生んだ処置でした。


 ですが母や私には幸運な処置でした。

 本館にいたら、ギネビアや侍女達に虐められていたでしょう。

 食事には、死なないけれど激痛に苦しむような毒が盛られる事になったでしょう。


 毒が盛られたことが全くなかったわけではありません。

 幾度も激痛にのたうち回りましたが、その回数は外郭で生活をする分、本丸にいるより少なくなっていたのは確かです。


 私が毒や呪いの知識を得てからは、魔法を使えるようになってからは、ギネビアの魔の手から逃れる事ができるようになりました。


 必死で学んで、呪いをかけてきた者に呪い返しができるようになりました。

 毒を盛った相手に呪いをかける事ができるようになりました。


 塔に押し入ってきた者に、呪いをかける事ができるようになりました。

 今、手足を毒で焼かれている愚か共のように!

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