第6話:背信の駒
会場があまりの惨劇に凍り付いています。
皇帝陛下が直々に王太子殿下を処刑したことで、新たな皇太子に成れるチャンスができたことに、幾人の王子や後見人が理解しているのでしょうか?
いえ、そんなことはありえませんね。
私もあまりの惨劇に正気を失っていたようです。
専制君主の塊のような皇帝陛下が、ナンバーツーを置くはずがないのです。
血を分けた息子であろうと、情け容赦なく叩き殺すのは今目の前で証明されたばかりなのですから。
「さて、次はお前の番だぞ、カチュア」
「はい、分かっております。
先代皇帝陛下は崩御なされておられます。
皇帝陛下の御聖断が全てでございます。
叡慮のままになされてください」
「ほう、よい度胸ではないか。
では余が自裁せよと申し付けたら、その方は死ぬのか?」
「恐れながら申し上げます。
小は一匹の羽虫から、大は魔境の竜まで、皆己が命を全うするため、生き続けるために戦っております。
我が身は非才卑小ではありますが、生きるために足搔かせていただきます」
「それは余に歯向かうということか?」
「いえ、力の限り逃げさせていただきます。
この世に果てがあったとしても、果ての先まで逃げる努力をいたします」
「それは残念だ、お前となら全力で戦えると思ったのだが。
まあよい、その機会はまたあるだろう。
それよりもこの世の全てを手に入れるのが先だ。
カチュアは追放する、どこなりと好きに逃げればいい。
ベルド!」
「ハィィィィ!」
「余を謀ろうとした罪、どう責任を取る?」
さて、もう父でも娘でもありませんが、ベルドはどうするつもりなのでしょうか?
決して無能ではありませんが、限られた才能に欲望が勝ってしまい、自分では操れないような謀略を行おうとする愚か者です。
自分を賢いと思っている普通の人間は始末に悪いのです。
「ローレン侯爵家の全てを使い、皇帝陛下の覇道に微力を尽くさせていただきます。
ですから、どうか、どうか、どうか御許し下さい!
この通りでございます!」
ベルドは地に額をつけて謝っています。
情けないことです。
いえ、これが強者に対する弱者の正しい姿勢なのかもしれません。
恥も外聞もなく生き残ろうとしています。
私も桁外れの魔力を持っていなければ、同じ態度をとっていたかもしれません。
「よかろう、だが様子を見るだけだ。
少しでも手を抜いていると感じても、気に食わないと思っても、即座にその頭を握り潰してくれる、分かったな?」
「ハッハァァアァ!」
あ、ベルドがもの凄く嫌な眼つきで私をチラ見しました。
身勝手な性格通り、逆恨みしましたね。
早々に母を連れて逃げることにしましょう。
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