第4話:綻びる玉座の陰謀

「カチュア、何か言う事はあるか」


「全て嘘偽りでございます。

 私は不貞を働いた事はありませんし、誰かを貶めた事も傷つけた事もありません。

 そのようは非義非道な行いをする者を、先帝陛下は決して皇嫡孫の婚約者に選ばれません。

 私が先帝陛下の御存命中に非義非道を行ったという誹謗中傷は、先帝陛下が暗愚だったと謗っているのと同じです」


 皇帝陛下の視線が、今まで以上に厳しく殺意の籠ったモノになりました。

 私が先帝陛下を礼讃するような言い方をしたためでしょう。

 周囲の雰囲気も更に重苦しくなりました。


 先帝陛下の友好政策を廃止し、侵略を計画している皇帝陛下に対して、今の言葉は喧嘩を売ったに等しいからです。


 まだ表立って罪に問われている訳ではありませんが、先帝陛下の頃から仕えていた大臣や高級官僚が、次々と解任されていました。


 父上は体制が変わる事を逸早く察して、私を斬り捨てる気になったのでしょう。

 ですが、本当に皇帝陛下の発案なのでしょうか?


 皇帝陛下が自信家なのは間違いないですが、愚かでもないはずです。

 戦力になるモノを、無駄に切り捨てる方でもなかったと思うのですが?


「随分偉そうな口を叩く、余は皇帝だぞ。

 既にこの世にない先代は、もうお前を助けてはくれんぞ」


 なるほど、どうやら皇帝陛下はこの茶番を聞かされていなかったようですね。

 でも、密偵の報告から何が計画されているのかは知っていたのでしょう。


 それとも、知っていた事にしようと、取り繕っているのでしょうか?

 ハッキリしているのは、先帝陛下のやり方が手ぬるいと思っている事です。


 私の事も、どれほど能力があろうと、わざわざ孫の婚約者に遇することなく、一家臣として使えばいいと考えているのでしょう。

 

「先帝陛下が助けてくださらないのは承知しておりますが、皇帝陛下が公正で賢明な方だと言うのは存じております。

 偉そうな事を申し上げているのではなく、真実を口にさせて頂いております」


「それが偉そうだといっているのだが、まあいい。

 余は謀られるのが一番嫌いなのだ。

 ジキルファスト、アフロディーテ、こちらに来い。

 おもしろい茶番だった、褒美を取らせる」


「ありがとうございます、皇帝陛下!

 では、私自身の手で、カチュアを処罰させていただけるのですね!」


 愚かです、余りにも愚かすぎます。

 このまま皇位を受け継ぐと、間違いなく暗愚の皇帝となっていたでしょう。


 ですがこれで終わりです。

 皇太子は父親に殺されることはないと信じ込んでいます。


 ですが、皇帝陛下からは明確な殺意が放たれています。

 姉のアフロディーテですら気がついて、恐怖で腰を抜かし、失禁しています。


 ここまで鈍感だと感心してしまいます。

 ああ、平気で玉座に近づいています。

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