幼馴染同士、百合カップル、SFな日々!

キマシラス

第1話「チュパカブラと未確認飛行物体」

 1.   

  草木も眠る丑三つ時に、万条 瞳が目を覚ますと、同じ布団のなか、隣で寝ている幼馴染の少女の、安らかな寝顔を見て微笑む。  


「いつ見ても可愛いなあ、 あまたは。いや当たり前か、この私の将来のお嫁さんなんだからね!」


   ...と、幼馴染の江渡川 あまたが目を覚まさない様に、小声でひとり惚気てから、厠に向かおうと立ち上がった、その時だった。


「きゃっ、なに!?」

   

   咄嗟に寝間着の袖で顔を隠してしまうほど、眩い光が寝室を照らした。   


   瞳は原因が気になって、袖をゆっくり顔から離し、恐る恐る窓を確認してみる。


 すると信じられない物が、彼女の視界に飛び込んできた。


「UFOとかマジ?カップ焼きそばじゃなくて、ガチの円盤じゃん!?」

   

   そう、 瞳の前に現れた眩い光の原因は、空飛ぶ円盤とも未確認飛行物体とも言われる、所謂UFOだったのだ!!


「写真撮ったらバズんのは間違いないべな」    


   瞳がスマホのカメラ機能を起動した瞬間に、UFOはパッと消えてしまった。


「ちょっ、逃げんなし、私が有名人になるチャンス〜!照れ屋さんかっつーの!!」

   

   消えてしまったUFOに対して怒りながら、瞳はトイレに向かうのだった。





「信頼度、約二%の話ですね」


    翌朝、目をこすりながら起きてきた幼馴染に、朝食を作りながら、瞳は昨日みたUFOの話をしてみるも、かなり疑われている様子。


 それも仕方の無い話だ、普通の人間がUFOを見たなんて言っても、やはり見間違えか寝ぼけたと思われるだけなのに瞳は適当な性格なので余計に信用されないだろう。


「信頼度とかパチンコかよ〜!にぱーならワンチャン外すっしょ、じゃあ逆に信じられるくね?」


   瞳は食卓に炊きたての白飯と、いい塩梅に皮がパリパリになった焼き鮭、目玉焼き、唐揚げ、食欲を掻き立てる料理を次々と並べていく。


「まさか貴女、パチンコ行ってないですよね、入場できる年齢には一歳足りてないよ」


   そう言ってあまたは、冷たい視線を瞳に向けつつ、朝食を凄い勢いで食べ始めた。


 何時も冷静な彼女の意外な特徴は、実は食いしん坊だった!...という訳では無い。


 愛する幼馴染の手料理であるというのを差し引いても、瞳の料理の腕前がプロ級だからである。


「ふんふん、良い食べっぷり!作る甲斐があるってもんだよね〜!!」

「将来は凄腕料理人として名を馳せること間違いなし、今から安泰な生活を確保」

「やだ〜あまっちったら打算的〜!」


    なんて、いつまでもバカップルしている時間は無い。なにしろ彼女たちは女子高校生、そして今日は火曜日、バリバリ平日である。


 よって食事を終えるなり、同棲女子高校生カップルふたりは急いで制服に着替え、二人手を繋いで家を飛び出すのだった。

 

 

 2.

「チュパカブラを見たんだけど!」

「私も見たわ、飼っている山羊の血を啜っていたのよ」    

「未確認生物がこの大多数に目撃されているなんて、前代未聞では!?」


    瞳とあまたが、恥ずかしがる素振りもなく平然と教室に足を踏み入れると、朝礼前の僅かな空き時間のうちに同級生たちは、かなり胡散臭い話題で盛り上がっていた。


「オカルトブーム全盛期でも、こんな事なかったのだけれどね...」


    六十代を越え、皺も深いながらも整った顔立ちで妖艶な雰囲気の女性教師も、困惑を隠せない。


「ほら、チュパカブラがいるならUFOいたっておかしくないでしょ!」

「集団幻覚ですよ、こんなの、こっくりさんと同様の現象です」


   瞳が鼻息を荒くする一方で、あまたは飽くまでも冷めた態度を崩さない。


 興奮冷めやらぬまま授業は開始されたものの、教師に耳を傾けている者は、あまた一人しか居なかった。




「瞳ちゃんはチュパカブラ見てないの?」

「チュパカブラは見てないけどUFOは見たかな〜めっちゃフラッシュ炊いて眩しかった!」

「マジ?UFOもウチら全員が見てるっすよ瞳パイセン!」


   お祭り騒ぎのまま午前中の授業が終わり、昼休みになって昼食をとる時間になった訳だが、相変わらずチュパカブラの話題で持ち切りである。


 そんな中で、美人な上に明るく、人と接するのが好きな性格の瞳は、クラスのカースト上位にいるので、チュパカブラは見てないにも関わらず、賑わいの中心となっていた。


「ねー!私UFOが北の方...孤夜天山に向かうのを見たんだけど!!せやから真相突き止め行くっしょ、瞳も!」

「いやあパスで!ごめんね〜用事あんのよ!!」


   同級生で親友の矢木からの誘い、何時もならノリノリで誘いに乗った瞳であるが、今回は断わった。


「はは〜ん、隅に置けないね」


   矢木は、食事をしているあまたへ視線を向けて、にやにやと笑う。明日は土曜日、瞳にはあまたとデートする予定があるのだと察したのだ。


「一線とかこえちゃうの〜?」

「展開次第!」

    

   下世話な話題を振られながらも、明日が待ち遠しい瞳はハイテンションに恥ずかしがる素振りもなく答えた。


 顔を赤らめ、深い溜め息を吐く、あまたと違って。

 


 3.

「さあ!デートに出発〜!!」

   

   少々、露出は多く感じるも扇情的ではなく可愛さに重点の置かれた活発な服装で、瞳は自宅玄関先でミステリー小説を読んで待っていたあまたの前に姿を現した。


「雰囲気の無い人ですね、仕方ない、そういう性格の人に惚れた以上は諦めますよ」


   あまたは蒸し暑いというのに、もこもこな長袖にロングスカートという出で立ちにも関わらず、汗一つかいていなかった。


「さすが頭の良いあまた、見る目があるってことよ!」  

「脈もあった訳ですが...」

「こりゃ一枚取られたぜ」


   瞳はあまたの手を握って歩くが、妙にぎこちない、裸足でサンダルだからというのも、関係あるだろうか。


「意外と、うぶなんですね」


   あまたは見抜いていたようだ、瞳が照れている事を。


「あははは〜こう見えて恋愛経験少なくて〜!」

「少ないどころか皆無でしょう、私が居たからですけど」

「そりゃあ幼馴染にあまたが居たら、ねえ?」

「私も一応、照れておきましょう」


    なんとも青春なイチャイチャっぷりを、道行く人に見せつけながら、瞳とあまたは恋人繋をして歩く。

   

 そうして歩む道は何時もより短く、気付けば目的地である水族館に辿り着いていた。


「...おっと、もう...授業中もこれだけ体感時間が早ければ良いのに」

「あまたも授業はダルいんか〜頭いいのに」

「頭いいからこそ退屈なんですよ」

「マウントとられた!?」

「私はマウントとられる側を希望します」

「何の話!?」

「夜の話ですけど」

「人前だからっー!!」

 

   めおと漫才を披露し、後ろに並んでいる客に笑われながら、二人は受付を済ませるのだった。



 4.

「少々、恥ずかしい想いをしましたが、カップル割のお陰で得をしました」

「ペンギンカップル可愛かったね〜ウチらも負けてらんね〜!!」

「ジンベエザメの迫力、マンボウの間抜けな顔、ミステリアスなクラゲ、海には魅力的な生き物ばかりです」


   満足気に水族館を後にして、その感想を話の種にしながら、楽しく商店街を歩く事、三十分ばかり、なにやら電気屋の前に人集りが出来ていた。


「なんでしょう、あれは」

「みんなでテレビ見てんのかな〜うちらも見てみよ」

「はい」


   人集りに飛び込み、画面が見えるところまでテレビに近寄ると、映し出されていたのは、報道番組だった。


 「“昨晩、孤夜天山付近のトンネルで女学生数名の遺体が複数発見されました、遺体には血が一滴も残されておらず... ... ...」


  画面内のアナウンサーは飽くまで冷静に、事件の内容を伝えていた。


 それを見て、瞳はおろか、あまたも、呆然とせざるを得なかった。


 被害者の情報は暈されているものの、場所といい、女学生数名といい、最悪な考えしか過ぎらず、恐らくそれが正解である事は間違いないではないか。


「え...嘘じゃん、洒落ならんってば、話からして矢木達じゃん!?」

「行かなくて正解でしたね。本日デートの予定を入れていなければ、私達もミイラでしたよ」

「止めときゃ、よかったかなあ?」

「後悔しても遅いですが、デートという気分では...取り敢えず落ち着くため、カフェで食事でもしましょう」

「そうだね〜」


   せっかく好調だったデート中に、まさか友人たちの死の報せを受け、最悪な気分になるとは思わなかった。


 色々な感情が渦巻き、陽気な瞳も今回ばかりは、落ち込んでしまう。


「葬式出てあげなきゃだ」

「喪服を購入しないといけませんね」

「バイト代は消えてもいいけど、友達は消えんなし〜!!」

  

   瞳は人目も憚らず号泣してしまう、今回ばかりは、あまたも彼女を注意する気になれなかった。


 周りの客や店員も、うるさいなあとは思わなくもなかったが、友達が消えたというのも聞こえていたので、気を遣って何も言えなかった。


 そんな中でも、会話に熱中している背の高い女と小太りの女性二人組の存在があった、彼女たちは小声で、周囲の視線に気を配りながら話している。


 この不審者どもに、あまた一人だけが気付いていた。




「超小型盗聴器、これで蚊の鳴くようなヒソヒソ話も私達にはしっかり聞こえます」


    デートを終えたカップルふたりは今、あまた宅の二階に居た。何をしているのか?大きな声では言えないが、カフェで盗聴器に記録した音声を再生していたのだ。


「法的にアウトじゃないん...?」

「住居侵入罪にも該当しませんから、それに盗聴器を自分の持ち物につけていた場合はセーフですよ」

「そうかあ、法律詳しいね、浮気とか絶対にしないでおこう」


   さて、盗聴器をに録音された、怪しい二人組の会話内容はというと...


“サイケな気分になれる物がある、それを見せてやろう”


“マジっすか!あれまたやりたくて仕方なかったんすよねえ!!“


“今晩の深夜二時、鳴禽ホテルの地下駐車場で待っているわ”


“はいはーい!”


  ... ... ...なんとも怪しい事この上ない会話内容であった、瞳とあまたが真っ先に連想したものは言わずもがな危ないお薬である。


「もしもし雨川警部ですか、いま怪しい二人組の会話をキャッチしました、音声データを送ります」

「あまた凄いよね、警察の人が知り合いなんだもんな〜」

「お母様の御友人というだけです、なかなか優秀で融通のきく方ですから、頼りになりますよ」

「ライバル出現か!?」

  

   普段は常に上機嫌で悩み事や焦りとは無縁そうな瞳も、友人の訃報を知った後で、精神面が不安定なのもあるのだろうが、少々取り乱してしまう。


「いえ...彼女は既婚者ですから、ご心配なく」

「なんだ〜」  


    瞳は胸を撫で下ろす、友人が居なくなり、かわりに恋敵の出現など厄日が過ぎる。


「未だに私のお母様を諦めきれていない素振りも見せてくれますけど」

「別の意味で心配になってきた」


   警察が警察のお世話になるパターンは御遠慮を願いつつ、瞳はリュックにパンとコーヒーをぶちこんだ。


「あまたも不良だよね〜自分らも待ち合わせの場所に行こうなんてさぁ」

「友人達の敵討ちをさせてもらわないとですから」

「若気の至りにも程がある!」

  

   良い子も、悪い子も、普通の子も、決して真似しないでね。

 


 5.

    待ちに待った深夜二時、約束の鳴禽ホテル地下駐車場に、サングラスにマスク、トレンチコートという如何にも怪しい人物がふたり。


「もうほろほろ来ふは、あいふは...」

「食べながら喋らないでくださいよ」


   呑気にあんパンをもぐもぐ食べる女性と、冷静なツッコミを入れる女性という、この組み合わせは、皆様がお察しの通り、瞳とあまたのカップルである。


 彼女たち以外にもこの地下駐車場には、雨川刑事と、その部下たちが息を潜めているので、ある程度は安心できるが油断はならない。


「あ...来た!」

   

   約束の待ち時間を二分ほど過ぎると、あまたが昼間に見た怪しい女性二人組(今の瞳とあまたにも当て嵌まる言葉だ)が、ノコノコとやってきた。


 周りを挙動不審にキョロキョロ見渡しても、みんな上手く隠れている...と言うより...あまたの開発した視覚遮断塗料の効果で見えないためバレない。


 雨川刑事が、あまたに同行を許可するのは、想い人の娘だからというのに加えて彼女が捜査にかなり役立つ物を開発し提供してくれる、という点も理由としてあるのだ。


「さあ、たっぷりと眺めなさい!」

「おおおおおおっ!!」


   怪しい女性二人組のうち、背の高い方が眩い光を放つ球体をボロボロでスクラップ寸前のまま放置された車の陰に置いた。


「う!」

    

   その光はあまりに眩く、地下駐車場全域を包んだ、つまり、瞳とあまたに刑事達ーーーこの場にいる人間全員の視覚を襲ったのだ!


「うあっ!何だあの生き物は!!」


   雨川の部下のひとりが唐突に発砲した、銃弾は虚空を裂き、柱に穴を開けた。


「銃の音!?バレていたのか!いけチュパカブラ!誰か知らんがヒソヒソ隠れている臆病者の血を吸いな!!」

   

  小太りの方の女が、そう言うと、雨川刑事とその部下、あまたの目前にも現れた。


 爛々と赤く光る巨大な瞳と、細身に鋭い牙と爪を備えた怪生物ーーーチュパカブラが!!


「きゃあ!」

「うっ!くそっ!邪魔をするな!逃げられる!」


   チュパカブラどもは、爪を振りかざし、飛び掛かり、噛み付こうとしてくる。


 発砲しようが蹴飛ばそうが、とにかくチュパカブラは怯まないで、怪しい女性二人組の逃走を助ける。


「これじゃあキリがない!くそ!!」

「私の血は冷たくて不味いですよ!」


   今や駐車場はパニック状態だが、ただ一人だけ、冷静な人物が居た。


「何処にいるんだよ、チュパカブラちゃんはーーー

「ー!」


   瞳だ。彼女だけにはチュパカブラが見えず、至って冷静に二人組を追い掛けている!

   

「お前にはチュパカブラが見えないのか!?」

「なるほど、あの光には幻覚作用があったんだね〜でも残念ながら、私はコンタクトしてっからかな!ききませーん!」

「クソ〜っ!」


   背の高い女がナイフを振り翳してくるも、瞳は回し蹴りで手の甲を痛めつけて叩き落とす。


 そうしていると、背後からは小太り女性が体当たりしてきたので、瞳は肘打ちで気を失わせた。


「はいはい、一丁あがりぃ!」


   ドヤ顔を浮かべてのピースサインを、あまたに贈るも、キャーキャー言って見えないチュパカブラから逃げ回っている。


「...あっ、これか!」


   瞳は光を放つ球体を踏んづけて、粉々に破壊した、とにかく彼女は力が強いのだ。


「あーっ!だめーっ!吸血プレイは瞳とぉ〜っ...あれ?」

「恥ずかしい台詞叫んでるなあ、 レアなあまた、レアまただ!」  


   スマホでパシャパシャ、世にも珍しい取り乱すあまたの姿を動画に収める瞳。


 その映像に背筋も凍るような極寒の眼差しが映り込んだのは、言うまでもない。



 6.

 「お前の彼女さんが壊してくれた球体な、鑑識が調べた結果、あれにはメキシコで新たに栽培されてい新型大麻を潰したものが、満遍なく塗りたくられていたそうだ」

「規定の明るさで効果を発揮する大麻ですか、見つけ辛くて厄介だ、というか私達あの時ラリってたんですね」

「一時的な物だったが、あれより長い時間あの光を浴びていたら完全に中毒患者になっていた、瞳くんのお陰で助かったがね」

「お礼にいっぱいチューしてあげないと、ですね」

  

   あまたは瞳のベッドの上で横になって、隣りにいる、その持ち主に雨川刑事から聞いた話を伝えた。

   

「へえ、そうだったんだ!だとすると、あの球体と麻薬を日本に持ち込んだやつが犯人ってことか〜」

「そうなりますね、流石に私達でも関われるのは、残念ながら此処までだとも言われてしまいました」

「後は刑事さんの、お仕事ってわけね、あいつらの敵討ち、任せたよ!」


   瞳とあまたは、ふたり、同じベッドの中で、互いを強く抱き締めあって、夢の世界に落ちるのだった。




 ーとある刑事の日記ー


   謎の発光円盤とチュパカブラ、調べていくと数十年も前に、この関連性を主張し学会を追放された博士の存在を知る。


 その博士が住んでいたという屋敷に突入すると、庭に巨大な円盤があった、新型麻薬も付着している、やはり犯人はこの博士だろう。


 幻覚を見せ、遺体から血を抜き、チュパカブラの存在を認めさせる為の犯行、誰もがそう思った。


 巨大な檻の中に血を抜かれた野犬や子供の遺体が多数発見されたのだから...しかし博士自身もまた、血を抜かれたミイラとなっていたのだ。


 自責の念で自殺したのかもしれないが、だとすれば、誰が博士の血を抜いたのだろうか...そもそも血を一滴も残さないなど...その場で吸い尽くす以外には、到底不可能だ...だとすると...このま


 おわり


    


    

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