第67話 転生【ざまぁ】

――――【善行目線】


「おら! 早く恵麻を出せよ!」

「そうよ、実の親に会わせないとか、ふざけんじゃないわ!」


 またまたY’sプロダクションに行くと懲りずに毒親たちが訪れていた。


 さすが雅人の父親だけある。


「あの~お2人はライブ見てなかったんですか?」

「い、忙しくて見れなかったのよ!」

「見れない日だってあるだろうがよ」


「本当に応援する気があるなら、時間を取って見れると思うんですけどね。それにライブで見れなくてもアーカイブされてますから」

「あ、あとで見るつもりだったのよ、そうよね快人さん」


「ああ、いますぐ見ないといけねえなんてことはねえんだ!」


 こいつらは夕霧を応援する気なんて、始めからなく金を巻き上げるだけの本当のクズだ。亡くなった夕霧のお父さんがこのクズ2人を見たら、なんて思うんだろうな……。


「ではせっかくお越しいただいたんですから、ライブのアーカイブを見てみませんか? 夕霧から重大な発表がありましたから」


「きっと私たちに恩返ししたいとか、お家を建ててあげるとかだわ!」

「ああ、そうに違いない! オレは恵麻のことを目にかけてやったんだからなぁ」


 どこまでも頭お花畑で、夕霧には悪いが吹き出しそうになってしまう。


『クソガキは外にでも出てろ! おまえを見てると萎えるんだよ!!!』


 ゲーム内で快人は樹莉亜の家を訪れたとき、まだ小学生だった夕霧の手を強引に引っ張り、家から追い出している。


『外で勝手に野垂れ死んでくれればいいのに』


 樹莉亜も樹莉亜で母親の役割よりも女であることを優先し、とてもまともな親とは呼べなかった。


「進藤社長お願いします」

「かしこまりました、善行お坊ちゃま!」


 俺がお願いすると社長はFire TV Stickのリモコンを操作し、壁際の大画面テレビから、つい先日のライブ映像が再生される。

 


 ――――みんなにご報告しなければならないことがあります! 今日でわたしは引退します!



 夕霧がなにかやりきったような晴れ晴れとした笑顔で引退を宣言していた。


 それを目の当たりにした快人たちの顔は……、


「は?」

「えっ!?」


 傑作だった。


 快人と樹莉亜はハトが豆鉄砲を食らったみたいな顔をして、状況が飲み込めていなさそう。


 しばらく呆然と画面を見つめていたが、画面が暗転したところでようやく樹莉亜が開かなくてもいい口を開いた。


「う、うそよ! 私たちを騙そうたって、信じないんだから」

「そうだ! こんなもの、おまえら芸能事務所ならいくらでも捏造できるだろ」

「これだから情弱は困るんだよなぁ……」


 いけね、つい本音が漏れた。


 情弱……俺の解釈では自分の都合の良い情報しか受け取らない奴のことをそう呼ぶことにしている。


「なんだと!?」

「スマホはお持ちですよね? そちらでXか、ネットニュースでお調べになってみては?」


 2人は慌てて、それぞれのスマホを取り出し、灰姫エマの引退ニュースを検索しているようだった。


 見ていて思う。


 つくづく救いようのない奴らだ。


 娘のことが心配なら、いつも検索くらいかけるだろうに……。


「な、なんだと……」

「う、うそよ……そんなの……」


 引退が真実であると悟ると2人の顔はみるみるうちに青くなる。


「どうされました? ご気分が悪いようでしたら、家までお送りいたしますよ。ああ、今ごろ借金返済を迫るこわ~いお兄さんが来てるかもしれませんが……」


「なんでそれを……」

「俺はお2人に申し上げましたよね? タレントの身辺調査は入念にしていると。もちろん、その家族も網羅してますよ。もう、お忘れですか?」


 ギリリリッ!


 快人は苦虫を噛み潰したような渋い顔をする。


 夕霧の努力の結晶で得た金銭をつきまとい吸血しようとする、まさにダニと言っていい2人は、すでに1000万もの借金を重ねていることが分かっていた。


「知ってて、引退させたんだわ! 恵麻の引退をいますぐ撤回させて!」

「残念ながら夕霧本人の意志が固いため、撤回は無理ですね」


 もう詰んでしまったことが分かり、がくんと肩を落として床に跪いてしまった樹莉亜。快人はソファーにもたれて、茫然自失で天井を見上げていた。



 それから30分も立たないうちに引き取り手の黒塗りの高級車がハイエースを伴い現れた。


「八乙女の若旦那、恩にきやす!」

「「「「きやす!!!」」」」


 俺に深々とあいさつを終えると強面のお兄さんたちは手慣れた手つきで2人をハイエースす拉致る。


「返せねえんなら、樹海逝っとくか?」

「「ひいっ!?」」


 かなりヤバい人たちから借金していたので、彼らに2人がいることを伝えるとフルコースのおもてなししてくれるようだった。



 ドナドナされてゆく2人を見送ったあと、進藤社長が俺に話しかけてきた。


「善行お坊ちゃま、終わりましたね」

「いえ、むしろ始まりです」

「おっと、忘れておりました。恵麻さんは転生……されたんですよね、はは」

「ええ、いまや超人気V Tuber成上るなの中の人です」


 顔出ししなければならないアイドルYouTuberと違い、V Tuberなら身バレしにくい。


 いや灰姫エマのファンにはバレバレだったんだけど、夕霧のことをひとつも関心のなかった快人と樹莉亜にはまったくバレてなかった。


 事務所のなかに社長と戻ろうとしていると夕霧が立っており……、


「ありがとう、善行くん」

「俺はなんにもしてないよ。進藤社長をはじめスタッフみんなは恵麻の才能に惚れ込んで、よくしてくれてるんだ。やったことといえば、俺はみんなに恵麻を紹介したくらい」


「でも転生したから、お金かかってるんでしょ?」

「まあね。V Tuber転生の段階で初期投資として、3Dモデリングや機材の導入で3000万ほどかかったけど、数日で回収できて、むしろ転生後のほうが儲かってるから……」


 進藤社長に報告が上がってなかったのは、V Tuber部門の責任者が忙しすぎたためだ。


「ホントに?」

「ああ……このまえのライブでも同接1000万人を達成しちゃって、伝説を打ち立ててるよ」


 もしかしたら、夕霧は今年中に年収1億に達してしまうかもしれない。夕霧のアイドル姿はもう見れないけれど続けていたら、あの毒親たちに際限なく絞り取られていたことは容易に想像できた。


 俺が結果的に良い方向に転んだとしみじみ思っていると、夕霧は俺に甘えてくる。


「あ、あの善行くん……今日もお部屋に行ってもいい……かな?」

「あ、うん……」


 なぜか俺が夕霧から絞り取られる生活が続いていた……。



――――【雅人目線】


 ジョロロロロ……♪


 トイレで用を足す度に見えちまうオレのバズーカは手術したものの、曲がりが完全に戻らずどす黒くて、キモいまんまだ。


 入院中、女の看護師が尿瓶を持って用を足すように促されたが、顔を見ると笑いをこらえてやがった。


 くそっ! これじゃ、女とベッドでいい雰囲気になっても笑われてしまうじゃねえか!


 周防に乗せられて、夕霧を分からせてやろうと思ったら、このざまだ。


 ぜんぶ周防が悪いんだ!!!


 ぜったいにあのクソ尼だけは分からせてやんねえと気が収まらねえ。


 しかし、それよりも今日、退院させられるってのにオヤジの野郎、迎えにも来ねえとかなに考えてんだよ!!!


「雅人、遅れてごめんね」

「なんだよ、遅いじゃねえか! オヤジはどうしたんだよ」

「それがね、数日前から失踪して戻って来てないの……」


 お袋が迎えに来たかと思ったら、オヤジが失踪しただと!?


―――――――――――――――――――――――

お待たせしました、スモウちゃんのざまぁがいよいよはじまるよwww 善行が直接、分からせたほうがいいと思う読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。

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