第65話 証明

 煌めく夜景のなか、夕霧とキスしていた。


 夕霧の肩口を抱いてゆっくりと離れると、途端に彼女の唇の柔らかさ、温かみが恋しくてどうしようもなくなる。


 夕霧は恥ずかしそうにキスした唇に指を当て、俺から視線を逸らしていたが、目を閉じたかと思うと今度は彼女のほうから、キスしてきていた。


 んんん……。


 抱きついて、俺をソファーに押し倒すような情熱的な口づけに驚くとともに引っ込み思案だった夕霧がちゃんと自己主張できるようになってくれたことをうれしく思えた。


 俺の胸に手を置いた夕霧は身体を起こして、教えてくれた。


「ばいきん扱いされていたわたしにかわいいと言ってくれたのは八乙女くんが初めてでした。だからわたしの初めては八乙女くんにもらってほしかったの……」


 これは夕霧の演技の稽古だ。


 本気だけど、一線を越えちゃいけない。


 そう思いつつも心も身体も猛ってしまって……。


 俺は夕霧をお姫さま抱っこでペントハウスからお持ち帰りしてしまっていた。階段から下りると夕霧は右手を俺の首にかけていた。


「キスして……」


 とろんと蕩けた目で俺を見つめ甘えてキスをおねだりしてくる夕霧がかわいくて、彼女の唇を無言でむさぼっている。


 俺たちはベッドに座ったのだが、ダブルどころかトリプルくらい大きなもので、慎ましく2人でベッドの縁にいた。


 前戯の真似事で夕霧の首筋を舐めると、


「う、ううん……」


 甘い吐息が漏れてしまうが、彼女は俺から離れて恥ずかしそうにする。


「いっぱい走って汗かいちゃったから、シャワー浴びたいな……」

「そ、そうだよな、じゃあ先に夕霧からシャワー浴びてこいよ」

「うん、ありがとう……八乙女くん」


 「先にシャワー浴びてこいよ」なんてぜったい言わないであろう台詞だが、演技と思うと意外とすんなり言えてしまった。


 やはり女優がかわいいから乗せられたんだろう。


 夕霧は奥のバスルームへと歩いていったのだが、その壁を見て俺は今更ながらギョッとする。


 そうだ、スイートルームのバスには壁がなく、その替わりにガラス張りとなっており、外からも中からもまる見えなのを思い出した……。


 調光ガラスといって、スイッチひとつで曇りガラスになる。


「夕霧、バスルームは曇りガラスになるから入り口でスイッチを――――」

「ううん、大丈夫だから……」


 夕霧にボタンの位置を教えようとすると彼女は首を横に振る。


「おっ、おい、それじゃ夕霧の裸が……」

「えっちな配信じゃ下着までだったから……これも演技のお稽古……だよね?」


 そうだった……すっかり忘れていたけど、彼女は承認欲求から微エロな配信をしていたのだ。


 どうしたほうがいいんだろうか?


 ここは夕霧の演技向上のためにガン見すべきか、それともそれとなく見るべきか……。俺は組んだ手のうえに顎を置いて逡巡しゅんじゅんしていた。


 そうこうしているうちに夕霧はすけすけの脱衣所でニットを脱いで籠へ入れる。まあ俺の邪な心を打ち砕くように後ろを向いてる脱いでたんだけど。


 それでも背中だけでエロかった。


 肌色多めのなかに一筋のピンク色の帯を見るだけで鼓動が高まるが、さらにキュロットのファスナーを下ろして、片足を上げて脱いでいた。


 ショーツから覗くおしりに、腰をくねらせ片足を上げてスカートなどを脱ぐ仕草は否が応でも、女を意識させる。


 夕霧は手を後ろに回して、ブラジャーを外したかと思うと手でたわわを覆うと、腕から横乳がこぼれ、俺は思わず息を飲み込んだ。


 そのままショーツを脱ぐと美しいもも尻が姿を現して、ああ……と俺は素晴らしい夕霧の女体に感嘆の声を漏らす。


 大事なところを覆いながらバスルームへ歩く夕霧のくびれた腰と適度にふっくらした太ももとふくらはぎに、たまらなく興奮を覚えた。


 チラリと俺のほうを向いた夕霧は恥ずかしそうに身を縮こまらせ、俺は俺で夕霧の裸を見たいにも拘らず、目を背けてしまう。


 だが……。


「なっ!? なにを……」


 夕霧はシャワーでガラスを濡らし、ボディソープを身体に塗りつけるとおっぱいをこすりつけ、まるでガラス磨きでもしているように俺を誘惑してくる。


 そういや演劇のテーマで男を誘惑する演技みたいな講義もやってたな。見て欲しいという承認欲求が配信ではギリギリのところで踏みとどまっていたが、俺だけには見て欲しいとあふれてしまったみたいだった。



 夕霧に続いて、俺もシャワーを浴びてお互いにバスローブを身にまとっていたのだが……。


 夕霧はベッドに腰かけ手で顔を扇いだかと思うと、


「ちょっと暑いかも……」


 と言って誘うようにローブの裾や襟をぱたぱたと開いたり、閉じたりして夕霧は俺をチラチラ見ながら、素肌を見せてくる。


 はだけたバスローブから、お風呂では蒸気とボディソープで見えにくかった夕霧の胸元がチラリと見えてしまう。


「……」


 夕霧は黙りこくって俺をじっと見つめてくる。脱がして欲しいと俺を誘っているのだ。俺は口のなかいっぱいに溜まった唾液を飲み込むと、隣に座る彼女をベッドに押し倒して、一気呵成に夕霧にしゃぶりついた。


「あっ、あっ、あううん! らめっ、らめぇ~~~~~っ!!! そんなぁぁ、いっぱい舐めちゃらめぇぇぇ……」

「んまんま、おいひぃよぉ、夕霧のここ……ほんにょり塩味が癖になりひょう」


「そこ舐めちゃ、き、汚いからぁぁぁ……」

「さっき洗ったばっかりだよ。それに夕霧に汚いところなんてない!」


 夕霧は快感と恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染めて両手で覆う。ぐしゃぐしゃにふやけるまで舐めに舐めると夕霧は腰をくねくねと悶えるようにくねらせていた。


「あうんっ! はぁ……はぁ……」


 足指の股をひとつひとつ丹念に舐め上げると夕霧は達したのか声出したあと、息を荒くしていた。


 ぐったりする夕霧のバスローブの胸元を開いて、彼女のおっぱいを見つめ、本能のまま吸い付いたあと、俺は自分と夕霧のバスローブの帯をほどいたのだが……。



 俺の手は止まっていた。



 お互いに生まれたままの姿を晒しているというのに。


 切なくなってしまったのか、夕霧は潤んでしまって泣いているようだった。永遠のように長い間、俺は夕霧とずっと見つめ合っていたような気がする。


 俺の頭のなかには若葉の姿があった。


「演技だから……もうこれで充分なんじゃ……」


 こんな中途半端な想いじゃ夕霧に申し訳ないと思い、この先に進むのは断ろうとしていた。


 だけど夕霧は俺に彼女と真剣に向かい合うことを求めてくる。


「かわいいって言ってくれたこと……うそなんですか? 八乙女くんがわたしを……抱いてくれなきゃ、自信なんて持てません! 男の子はかわいい子と……えっちしたいんですよね? だったら……お願いします。わたしと一夜をともにしてください……」


 夕霧の栗色の髪は撫でるとしっとりとしており、乾ききっていないようだった。


「本当にいいんだな?」

「わたしのなかに八乙女くんを刻みつけて欲しいんです。わたしのことを本気で好きになんてならなくてもいいんです。ただ濡れ場のお稽古を身近な八乙女くんに……」


 俺の問いに答えた夕霧。そこに今まで彼女が見せたことのない、強い意志が感じられた。


―――――――――自主規制――――――――――


 牧場の微笑ましい1コマ。

 牛さんたちから搾り立てのミルク。

 瓶のなかにミルクがたっぷり入ってゆくよ♡


―――――――――自主規制――――――――――


 俺のと夕霧のとが混ざり合い、シーツへとこぼれ落ちてゆく……。


 夕霧は涙を流しながら、笑って俺に告げた。


「もっと痛いのかと思ってたんです……でもむしろ気持ちいいというか、善行くんにいっぱいいっぱい突かれて、えっちな声をあげちゃってました……」


 そんな彼女が愛おしくて抱きしめる。


 賢者タイムで大の字で寝転がる俺に夕霧は身体を預けて、2人で休んでいたのだけど……。


「恵麻!?」


 夕霧はいきなりお掃除を終えると初々しい感想をくれた。


「ふふ、変な味だね。わたしの血と善行くんのが混じった苦い鉄の味。でも嫌いじゃないかも……」


 夕霧は俺の肌を舐めて、綺麗にしてくれていた。そんな彼女がかわいくて、愛おしくて髪をなでる。


 乱れた髪を梳いて、顔を、瞳を見るともう女優やアイドルと言っても過言じゃない美少女が俺にご奉仕してくれてることが夢を見ているみたいだった。


「善行くんがしたいだけ、抱いてください。今日だけはわたしの彼氏だから……」

「あ、ああ……」


 夕霧のリクエストがあった体位はすべて試し、夕霧に俺の置き土産の特製ミルクをプレゼントして……。


 以前と違い積極的になってくれた夕霧に俺は最後のプロデュースをしようとしていた。


―――――――――――――――――――――――

たくさんのご評価、感謝の極みです。

拾い上げでの書籍化は作者の作風だと尖りに尖りすぎて無理だと諦めました。

でもそれは読者さまにとってはそれは関係ないこと。作者からのお願いです。ちゃんと完結させられたら、次回作に目を通していただければありがたいです。

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