第61話 逮捕【ざまぁ】

「八乙女くん!」


 日下部から夕霧を守り抜いたことで彼女は俺の胸に飛び込んでくる。


「ごめん……怖い思いさせてしまって」

「ううん、八乙女くんが必ずわたしを助けに来てくれるって、信じてた。いつもいつもわたしがツラいとき、苦しいときに八乙女くんは手を差し伸べてくれるから……」


 そうは言ってもやはり夕霧の小さな身体は震えていた。が、俺の熱がゆっくりと夕霧に伝わっていくかのように、彼女の震えは収まってゆく。


 スーツを着た若い女性刑事は夕霧を気づかい、彼女にブランケットをかけてくれていた。


「あのこれよければ……」

「あ、ありがとうございます」

「すみません……、あとで署のほうでご事情お聞かせ願いたのですが……」

「はい」


「あのこんなこと言うと失礼になっちゃうかもしれないんですけど、彼氏くんスゴくかっこいいですね」


「か、か、か、彼氏じゃないんです。八乙女くんはわたしのクラスメートで……あの、そのスゴく頼りになるけど、わたしなんかじゃ……釣り合わなくて……でも、もし八乙女がわたしのか、かれ……なんでもないですっ」


 女性刑事に一生懸命返答しようとした夕霧だでたが、真っ赤になって最後は風船から空気が漏れるように熱い蒸気を吹き出して、両手で顔を覆っていた。


 夕霧の興奮が落ち着いたところで


「あなた、とってもかわいいから気をつけてね。じゃないといまみたいなストーカーじみた男も出てきてしまうから」

「……は、はい」


 ちらちらと俺のほうを見て、夕霧は照れた顔を見せる。どうやら女性刑事からかわいいと言われたことがうれしかったっぽい。


 雅人や日下部みたいなクソ野郎から狙われたことで、ようやく夕霧も自分のかわいさに気づいてくれたようだった。


 俺たちに女性刑事はあとで事情を伺いたいとひとこと告げて、仕事に戻ってしまう。


 廊下の壁を背に2人で腰かけ、先生たちが慌ただしく動くなか、俺たちだけ時間が止まったように俺たちのいる空間だけ切り離されたようになっていた。


「無事でよかったよ。もし夕霧の身になにかあれば、俺はキミのことを……あ、いや俺なんかじゃダメだよな。もう夕霧はそんじょそこらのアイドルじゃ太刀打ちできないくらいかわいくなったんだから……」


「ううん、そんなことないよ……あ、ありがとう……八乙女くん。わ、わたし……八乙女くんになら、わたしの初めてを――――」


 夕霧がなにか言おうとしたところで、大きく手を振って秋月先生が戻ってきたようだった。


「はぁっ、はぁっ、済まない。稲垣の奴を病院送りにしてたら、夕霧の姿がなくて……帰ってきたら、ポリ公どもがわんさか湧いてやがるってもんよ」


 秋月先生が警察官の横を通ると彼らが敬礼しながら、さっと避けて道を開けている。先生は街の浄化に寄与した正義の不良(?)と言えた。


 先生が戻ってきて、ものの数分もしないうちにこっちの不良は……、


 ――――日下部祐司、誘拐及び暴行の現行犯で逮捕する!


 学校に駆けつけた警察により手錠をかけられ身柄が引き渡された。


「うおぉぉぉーーっ! おれは周防に唆されたたんだぁぁーーっ! この税金泥棒どもめ! おれを捕まえるんじゃなくて、あの女を捕まえろよ!!!」

「うるさいぞ、抵抗せずにさっさっと歩け!」


 日下部は俺に足などを射抜かれ、足を引きずるように歩けなくなってしまったのだが、警察はもたもたして歩かない日下部を見て業を煮やし、奴の脇を2人がかりで抱えあげながら言い放っていた。


 日下部は俺たちのまえを通り過ぎるとき、うなだれた顔を上げ、鬼のような形相で睨んでくる。


「周防もそうだが八乙女! おれはてめえを許さねえぞ! なんでてめえばっか良い女を抱けるんだよ、世の中間違ってっぞ!!!」


「俺はみんなをおまえらみたいなクズから、守ろうとしていただけだ。ヤリ目でしかないおまえらとは違う! 彼女ヒロインたちが俺の周りにいるのは彼女たちの意志だ」


「チクショォォォォーーーーーーーーーッ!!! チクショォォォォォォーーーーーーーーッ!!!

チクショォォォガァァァーーーーーーッ!!! 」


 悔しさの雄叫びあげた日下部は警察官から「黙れ」と一喝されてしまう。そして、ずるずると足を引きずられ、学校の玄関に何台も並ぶパトカーのうち白塗りの国産高級車に乗せられドナドナされてゆく。


【俺の呪いの矢が刺さったまま、達者で暮らせ。無精子症にEDは俺からのささやかなプレゼントだ】


 俺は心のなかで、そんな日下部へ手向けの言葉を贈っていた。



 雅人も日下部も今は病院送りになり、学校には平穏が戻った。

 

 ――――なんで八乙女ばっかりモテるんだよ!


 ――――くそっ、みんなとヤッてるんだ!


 ――――ひとりくらい寄越せ!


 ――――うらやましい……。


 うちを出て若葉たちと登校していると男子たちが嫉妬と羨望の眼差しで俺を見てきていた。


 だが、みんなとヤッてるわけじゃない!


 そう声を大にして叫びたかった……。


「善行くん……檸檬を送ってくるね……」

「お兄ちゃん、また帰ってきたら遊ぼうね!」


 黒瀬はまた学校で会えるというのに、今生の別れかと思うほど寂しい表情を見せ、一方の檸檬ちゃんに「お姉ちゃんは、また会えるじゃん」と肩を叩かれ励まされていた。


 若葉と黒瀬姉妹に遠慮していたのか、夕霧はかなり後ろを歩いており、気になった俺は彼女に声をかけた。


「夕霧さ、そんな離れてないでいっしょに歩こう」

「で、でも……」


 夕霧は伏し目がちになり、時折チラッチラッと若葉の表情を窺う。


「……右は空いてると思います」


 若葉から出た妥協案……。


 内心俺をひとり占めしたいはずなのに、夕霧のことを案じる若葉。人の心が分かり、やさしさを見せた若葉のことが好きになってよかったとつくづく思う。


「じゃあ、両手に華っていうことで、2人と腕組んで歩こう!」

「なっ!? ちょ、調子に乗らないでください」

「わ、わ、わたしはしたい! 八乙女くんと腕を組んで……歩きたいです」


「ええっ!?」


 引っ込み思案だった夕霧は俺たちのまえではっきりと意思表示をしており、それを見た若葉は驚く。若葉が唖然としている間に夕霧はおっかなびっくりだったが、するりと俺の腕に彼女の腕を絡ませて、はにかんでいた。


「か、片方だけだとバランスが悪くなりますから、私も腕組みします」

「うん、そうしてもらえるとうれしい」

「は、はうん……」


 俺の素直な気持ちを伝えると若葉は白い肌を真っ赤に染めていた。



 学校が終わり、帰宅すると母さんが憤慨していた。


「もう! 子どものことがかわいくない親なんて親じゃないわ」


 夕霧をうちで預かると母さんが夕霧の母親に連絡してくれたのだが、理由を訊ねると俺にこっそり耳打ちした。


【あんなの、いてもいなくても構わない】


 母さんは夕霧に配慮して俺だけに伝えたあと、内容を察して寂しそうにする夕霧を見て、すぐさま彼女を抱きしめる。


「恵麻さん。もう、うちに住んじゃいましょ!」


 ぽんと軽く手を叩いて、さも名案みたいな雰囲気を出す母さんだったが、割と重たい選択を明るく言うところが俺は好きだった。


「……いいんですか?」


 夕霧は俺と母さんと若葉を見て顔色を窺うが、俺たちは彼女の問いに深くうなずいていた。


 こりゃ、夕霧の家に凸するしかねえよな!!!


―――――――――――――――――――――――

そろそろクライマックスです。ということは善行と夕霧の仲は……えちえちフィニッシュをご期待の読者さまはフォロー、ご評価お願いします♡

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