第55話 鬼畜どもに罰を【胸糞注意】

――――八乙女家。


「兄さん、おかえりな……さい」

「ただいま、若葉」

「お、おじゃま……します……」


 先に帰ってもらっていた若葉は言葉を一旦詰まらせたが、なんとか最後まであいさつを言い切る。前髪を上げ、かわいく変貌した夕霧を見て、言葉を失ったのだろうと容易に察しがついた。


 一方の夕霧は、うちの敷地内に入ったときは造成前の住宅予定地とでも思っていたっぽいが、すべて八乙女家の土地と建物と知ったときには「はにゃっ!?」と変な声を上げていた。


 俺はすっかり八乙女家の光景を見慣れたが、エントランスからして高そうな赤い絨毯、高い天井にはキラキラと光り輝くシャンデリア、階段の手すりなんかはシックな色合いの木に繊細な装飾が施されてある。


 下手な高級ホテルよりうちの屋敷のほうが遥かにゴージャスと言えた。


「わ、わ、若葉……さん!?」


 家の絢爛豪華さに驚くだけでなく、いつも名家のお嬢さまといった若葉がまさかメイドたちといっしょにメイド服を着て俺たちを出迎えるなんて思ってもみなかったようで腰を抜かしそうになっていたので肩を貸して、彼女の身体を支えた。


 うちの養女として来たとき、若葉は遠慮してメイドのようにお手伝いをしていたが、いまはメイド服姿で人を出迎えることはなく、俺だけに見せる特別な儀式と化している。


「「あわあわ……あわあわ……」」


 若葉は口のなかに手を入れ、夕霧はきょろきょろと挙動不審ぎみ……。


 なんだか慌てる2人もかわいいのでずっと見ていたい気もしたが、そうも言ってられないので俺の部屋へ来てもらうことにした。



「むうっ……」


 若葉が俺を睨んでくる……。理由は間違いなく、夕霧といっしょに下校したことだろう。


「どうして、兄さんはかわいそうな女の子を見ると捨てられた猫ちゃんのように連れ帰ってきちゃうんですか!?」


 開口一番、若葉の悲しみにあふれた声を聞いたのだが、本当にその通りとしか言いようがない。


 夕霧は汗まみれ……そういうことにしておいた。なのでいまはお風呂で汗を流してもらっている。部屋で若葉と2人きりになってしまい、彼女からお説教を受けてしまっていたのだ。


「じゃあ、若葉はかわいそうな子猫がいたら、なにも手を施さずに素通りできる?」

「できません!」


 きっぱりと答えた我が妹のやさしさにやっぱり彼女を好きになってよかったと感じた。


「俺がヒロイン彼女たちを助けたり、保護したりするのはそれと同じだよ」


 きゅっと唇を噛み締めて、俺から顔を背ける若葉に心が痛い。


「兄さんがモテるのは知っています。だけど、他の子と……あの、その……」


 指をもじもじさせ、途端に歯切れが悪くなる。


【私とだけえっちなことをしてほしい】


 固有スキルパパラッチで若葉の心のなかを覗くと素直な気持ちであふれており、どうやら俺が他のヒロインたちとえっちなことをしていることをどことなく把握しているようだった。


「ごめん、若葉……」

「兄さん……」


 本心を言葉にできずに若葉は身体を預けてきたが、俺はただ彼女を受け止め、やさしく頭をなでる。


 若葉に辛い想いをさせているが、夕霧もそれかそれ以上の過酷な運命が待っているだけに放っておくことができない。


――――【回想】


 廃部になった部室にポツンと置かれた机と椅子、カメラのまえで夕霧は下着姿になり、不自然な笑顔でダブルピースしていた。


『いまからドMエロ配信者のえなこちゃんがザー汁一気飲みしてくれるってよぉ! ドンドンパフパフ!!!』


 どこから集めてきたんだと思えるほどの量のどろどろとした白濁液がコップいっぱいに注がれ、夕霧のまえに置かれた。


 顔を青くして、後ろに立っている日下部を見る夕霧だったが日下部はデータの入ったスマホを見せて飲むことを強要する。


 愛する者のものなら多少飲めるかもしれないが、脅してきて関係を迫る奴のものなど、苦行でしかないだろう。


『んぐんぐ……お、お、おぇぇぇ……』

『吐いたら、雅人くんに動画送っちゃうよ、さあ、頑張って、飲んで飲んで! はい、一気、一気! えなこちゃんならできるって~』


 いったん舌をつけたものの、余りの不味さから涙目になり、コップへ吐き戻そうとした夕霧に日下部はにやにやと嫌らしい笑みを浮かべて、止めることを許さない。


『ほらほらぁ、まだ底に残ってっぞ! あれをしゃぶるように舌を使えや』


【わたしががんばらなきゃ、雅人くんの将来がなくなっちゃう!】


 何度となく吐きそうになりながらも雅人のためを思い、夕霧は日下部の用意した白濁液を飲み干した。


 俺は夕霧の健気さに思わず、泣いてしまいそうになっていたことを覚えている。


 だが『スクダイ』のシナリオライターは無慈悲。俺を悲しみの地獄に叩き落としてしまう。


『うはっ! ザー汁飲んで濡れるとか、マジ変態だな、おまえ。ははは』

『ち、ちがうっ! 汗だから……』


 日下部は嫌がる夕霧の下着へ手をつっこみ確かめていた。


―――――――――自主規制――――――――――


胸糞でごめんなさい。日下部にはきっちりざまぁが待ってますんで!


―――――――――自主規制――――――――――


 椅子でシていた2人。


『雅人よか、おれのほうがいいだろ?』

『……よくない……』


 日下部は夕霧に訊ねるが、雅人への想いが変わらない彼女は日下部に譲ることはなかった。


『なんだよ、その物言いはよぉ! あーおれ、マジムカついた』

『ひぐっ!』


 突然日下部が夕霧を締め上げるように腕を回し、言い放った。


『おっとここでゲストの登場だぁ! なんとなんとそのお相手は恋人の雅人くん。ああ、彼じゃない俺とヤってあんあん喘いでるとこを見たら、どういう反応するのか、楽しみだよなぁ!』


『えっ!? 雅人くんにはぜったいに言わない約束だったのに、なんでなんでなのぉぉーーっ』

『るせえ、約束ってヤツは破るためにあるんだよ、処女膜といっしょでなぁ!!!』


 するといつもなら、鍵が閉まっているはずの部室のドアが開いてしまう。


『感動のご対面~!!!』

『いやっ! いやっ! いやぁぁぁーーーっ!』

『お、おい……恵麻、おまえなにしてんだよ……。オレのこと好きじゃなかったのかよ!? 答えろよぉぉぉーーーーっ!!!』


『ちがうっ! ……これは……これは……』

『もういい! おまえを信じたオレが馬鹿だった……』


 肩を落として、部室を去ってしまった雅人に手を伸ばして、引き止めようとしていたが、日下部は夕霧を離さず、にやにやとしてやったりの顔をしていた。


『だってさぁ! はははははは、はっはっはっ!』


 ずっと日下部の腹の立つ笑い声が部室内に響いて、夕霧はただひたすら、すすり泣くというところで暗転したんだが……。


 こういうときだけは雅人の迫真の演技が光り、夕霧は雅人と日下部がグルだってことを後にドッキリのように明かされ、心がポッキリ折れてしまう。


 そのあとは輪姦、エロ配信やパパ活という名の売春、薬漬けという鬼畜エロゲ定番のパターンで、もう思い出すのも嫌なくらいだった。


――――【回想終わり】



 夕霧で味を占めた雅人はついに若葉にターゲットを定める。夕霧は若葉を守る最後の防波堤と言えたのだから……俺は若葉に悲しい想いをさせても、夕霧を見捨てることができなかった。


 もし雅人と日下部が夕霧に手出しするようなことがあれば、俺は間違いなく奴らを……社会的に抹殺する。


 幸い俺は奴らの弱みを握ってるんだからなぁ!


―――――――――――――――――――――――

たくさんのフォローとご評価、マ○トにありがとうございます。にも拘らず、お声の一つもないのは作者の力量不足……それはともかく2章を書ききりたいと思います。


暴れん坊御曹司から必殺始末屋稼業になりつつある善行ですが、若葉も恵麻も他のヒロインたちもしあわせにできるのか、ご期待ください。つか、不幸になるのはクソ野郎どもだけなんですけどねwww

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