第52話 告白

「あら~、八乙女くんまで遅かったのね」

「先生すみません……、秋月先生が不在で夕霧をひとりにしておくのも気が引けたんです」

「ううん、いいのよ。八乙女くんが授業をサボるわけないし、なにかあったのか心配しちゃった」


 夕霧が泣き止んだあと、教室へ戻ってくると俺が戻ってこない理由を訊ねられるも、きちんと説明すると一条先生は納得してくれた。


「せんせぃ、八乙女くんはわたしを見守ってくれてたんです……なにも悪いことは……」

「うんうん、分かってるわ。それよりも恵麻さんは体調、大丈夫かしら。無理はしないでね」


 先生は母親のようにやさしげな眼差しで夕霧を見つめ、ぽんと夕霧の頭をなでると、夕霧もうれしそうにはにかんでおり、そのあと彼女は先生にぺこりと頭を下げるととことこと歩き席へ着いた。


 席に着いた夕霧は足を交互にぶらぶら振ってにこにこしている。


 クソ野郎どもがたくさんいるなかで、ヒロインたちのやさしい世界を見るだけでより尊く感じてしまう。


 もし夕霧の容姿とエロい画像と動画の秘密がバレて、ひとりで眠ってる夕霧を放置なんてしてたら、それこそ雅人や日下部みたいなクソが彼女を犯しにきてもおかしくないんだから……。


 俺が腕組みして、頷いていると先生はちょんちょんと指で俺の肩を叩いて、呼び止めた。


「先生にないしょで夕霧さんとえっちしちゃうなんて、八乙女くんも隅に置けないわね、ふふっ」

「なっ!? 俺と夕霧は――――」


 ふうっと吐息を吹きかけるように先生は耳元で有り得ないことをささやいたので、驚いて先生に弁解しようとすると先生は俺の唇に人差し指を当てながら言った。


「冗談よ♡」


 うふっと笑って先生は俺を揶揄からかっていたのだ。


 人を雅人のように言うのは止めて欲しい……。


「せ、先生……ちょっと頭痛が……」


 と答えたのは俺ではなく、若葉だった。


「あらあら、若葉さんまで体調が悪くなるなんて……」


 頬に手を当て、先生は困り顔になるが、若葉は先生と俺の顔を交互に見て、必死でなにかをアピールしている。


「ん! ん! ん!」


 ついには唸り始めてしまった若葉がかわいくてたまらない。ライバルが増えてきたから、ツンツンしてられなくなってきたのかも。


「先生、若葉は俺が保健室に連れて行ってきます」

「そう? 自習にして、私が連れて行ってあげてもいいわよ」

「はわっ!?」


 ホームルームなのに先生は自習にして、俺の代わりに若葉を保健室へ連れて行こうとするので、若葉はいつものツンがどこへやら、挙動不審ぎみに慌ててしまう。


「うー、うー、うー」

「先生は授業のほうをお願いします。俺はやっぱり妹が心配なので……あとで補講でもなんでも受けます!」

「そう? 分かったわ。じゃあいってらっしゃい」


 俺は若葉を保健室へ連れて行くだけなのに、先生から新しい門出を祝うかのような笑顔で見送られ、教室を2人で旅立っていた。


 人気のなくなった廊下を歩いていると若葉がうつむいて立ち止まる。若葉は口を開いたかと思うと、その声のトーンは暗く、寂しさがあふれていた。


「に、兄さん……あまり他の女の子と長居していると変なうわさが立っちゃいます……」

「そうだな、じゃあ若葉と変なうわさを立てようかな?」


「ふぁっ!? な、な、な、なにをおっしゃってるんですか!」

「俺は若葉といけない関係にあるとか言われたら、むしろうれしい。若葉は嫌?」

「嫌……じゃないです……」


 慌てた若葉だったが、俺の率直な気持ちを聞いて、視線を反らしながらも素直な気持ちを打ち明けてくれていた。


 先生も策士だ。


 わざと若葉を煽るようなことを言って、俺たちの仲を取り持とうとしてくれたんだから。


「それじゃ、なにで俺のお姫さまである若葉を運べばいいかな? おんぶ? だっこ? なんでもいいよ、若葉の好きなの、言ってみて」

「じゃ、じゃあ……頭痛がするので腕組みして、兄さんに寄りかかりたいです……」

 

「分かった。おいで若葉」

「は、はい……」


 脇を開けると若葉は恐る恐る俺と腕を絡めて、ゆっくりと身体を預けてくる。


「素直になれなくて、ごめんなさい……ホントは兄さんのことが大好きなんです……」


 聞き取れないくらい微かな声でささやいた若葉の本音が聞けてうれしく思うと同時に若葉を寝取られないためとはいえ、夕霧や他のヒロインたちと二股、三股かけているような状態が心苦しい。



 俺も若葉のことが大好きだ。



 すべてのヒロインたちを救ったとき、俺は若葉にちゃんと告白しようと思った。


「えっ!? なんで秋月先生がいるんですか?」

「ん? 八乙女の妹か? って、また八乙女かよ。ずいぶんモテるな」


 若葉は秋月先生がおらず、俺と2人きりで過ごせるとでも思っていたんだろうか? 軽くショックを受けてしまったようで、結局頭痛薬をもらって飲んだあと直ぐに教室へと引き上げてしまっていた。



 放課後、俺は夕霧と図書室にいた。


 ――――みんな、えなこだよ。ゆっくりしていってね♡


《えなこちゃん、大人っぽい下着だね ¥500》

《脱いで見せてよ ¥1000》

《おっぱい大きいね! ¥2000》


 ピンク色のレースの下着姿でこちらに向かって語りかける。するとキモいスパチャが飛んで、えなこはありがとうを連呼していた。


 えなこの前髪はピン留めにより片目だけを晒し、口元はマスクで覆い、顔全体が見えない。それゆえにリスナーたちは、もっと彼女のことを知りたいという欲求をかき立てさせられてしまう。


 目を強く閉じて、スマホの画面を突き出した夕霧だったが、その画面には地味な夕霧とは真逆のセクシーな女の子の動画が流れていた。


 ひと通り、堪能……じゃなかった確認したところで夕霧はもう泣き出す直前の表情で俺に告白していた。


「わ、わたし……八乙女くんに言っておかないといけないことがあるんです……ナイショにしてたけど、わたし……わたし……自分に自信がなくて、でも誰かに必要とされたくて、えっちな写真とか、動画をあげてしまってるんです……。こんな馬鹿なわたしなんて生きる価値ないですよね……」


 こんなにも自分を追い詰めてしまうなんて……。俺は夕霧に率直な想いを告げようとしていた。


―――――――――――――――――――――――

一条先生の恋の個別指導によりちょっと素直になれた若葉たん。だが夕霧の攻勢もスゴい。

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