第48話 肯定感よわよわ女子
「はわわわ……わ、わたし、男の人に……くっついてるぅぅ……、あっ……」
俺の袖を掴んでいた夕霧だったが、ようやく事態を飲み込んだのか、グル目で左右に身体を振って混乱している。袖をパッと離して、俺から距離を取ったときだった。
夕霧はそのまま体調が悪くなったかのように膝から崩れ落ちようとしている。
「危ない!」
縮地法を使い夕霧の背を手で抱え、床に倒れる寸前の彼女の身体を受け止めた。夕霧を見るとどうやら、気を失っているのかもしれない。
そばで見ていた若葉に告げる。
「若葉、ごめん。どうも夕霧の調子が悪いみたいだから、保健室に連れて行ってくる。先生が来たら伝えておいてほしい」
「う、うん……」
俺が夕霧をお姫さま抱っこしているからか、若葉は納得したものの、どこか不安そう。
彼女を保健室へ運ぼうとしたのだが、
――――地味子のくせに生意気!
――――八乙女くんにお持ち帰りされたい……。
――――私も倒れよっかなぁ。
――――地味子にもやさしい八乙女くん素敵!
女子からそんな声が聞こえてくるが、体調が悪いわけでもないのに倒れるふりは止めてほしい……。
俺のことより夕霧だ。
地味ってだけで男子からもぞんざいに扱われ、女子からの受けも良くないなんて、夕霧のことがかわいそうに思えてくる。おまけにゲーム内では雅人に人生をメチャクチャにされてしまうんだから。
俺の腕のなかで眠っているような夕霧を見て、雅人たちから守ってやる! と決意を固くしたときに力が入ってしまったのか、気を失っていた夕霧は目を覚ました。
「……う、うん……や、八乙女くん!?」
「あ、気づいた?」
「はわわわわぁぁぁ……」
が、コテンとまた気を失う。
う~ん、この運び方で良かったのか考えてしまうが、これしかないとあきらめた。
男性への免疫力がないとは分かっていたけど、ここまでとは……。
一応、ゲーム内の情報からだとイケメン限定らしいのだが、男性に免疫がなく恥ずかしさを通り越して、気を失ってしまうとか、こちらもなんとか改善を図ってやんないと夕霧はちゃんとした人生を送れない。
廊下を歩いていると女の子を腕に抱えていることで前から歩いてきた他のクラスの生徒が口に手を当て、噂するなど周囲の注目を浴びるが、女の子が地味な夕霧であると分かると生徒たちは沈黙した。
「先生~! 秋月先生~!」
保健室に到着したのだけど保健室の主はいなかったので、カーテンを開けて勝手にベッドを使わせてもらう。
そりゃ、配信で人気でるわけだ。
そっと夕霧の身体をベッドに寝かせたのだが、地味な見た目にして、身体は肉づきもよく、率直に言ってえちえち……。
ブラウスの上からでも分かるお椀型のおっぱいが小高い丘を成している。
「ううん……」
無意識に艶めかしい声を出して、俺のまえで寝返りを打った夕霧だったが、横寝した彼女のくびれた腰とスカートの描く曲線は柔らかそうなおしりを魅力的に演出していた。
寝ている夕霧に失礼して、ウルフカットをもっと乱れた感じになって、目元が隠れた彼女の前髪をかき上げると、“超かわえろ天使ちゃんねる“の美少女えなこと同じ整った素顔が表れる。
はっきり言って、レイヤーどころか、アイドル、女優ってレベルのかわいさだぞ!!!
俺が彼女に対してすべきことは、自己肯定感を高めて、ヤバいエロ配信を止めさせること。認められないと思い込んで、リスナーの要望ばっかり飲んでしまい、過激になってゆく。
配信自体はなにも悪くないけど、限度ってものがある。
とにかく配信で自慰行為はやっちゃダメだ!
思わず夕霧に願うように彼女の手を握り、俺は彼女と雅人のゲーム内で起こったことを回想していた。
――――【回想】
「善行お坊ちゃんよぉ、ちょっとおれらに金貸してくんね? ガチャでお目当ての人権キャラが出なくて困ってんだ。なあ、あと1万あったら、天井だから頼むよぉ~」
クラス内では雅人のおかげで表向きはいじめがなくなっていたが、隣のクラスから髪を金色に染め、ネクタイも緩ませたどこをどう見ても素行の悪そうな日下部という男子生徒が善行に金をせびりに来ていた。
「も、もう貸せないよ……雅人くんが日下部くんにはお金を貸すなって言ったんだ」
「ああ? くそっ、稲垣の奴、八乙女に余計なこと吹き込みやがって!」
ガンと机の柱を蹴って悪態を垂れる日下部は善行から、金が借りられなさそうと分かるとまえを塞ぐ善行の太った身体を押しのけた。
「きゃっ!?」
善行の身体はよろよろと後退してゆくが、たまたまそこを通りかかった夕霧に当たってしまう。
「おっと危ねえ」
そこに遅れてやってきた雅人が夕霧の身体を受け止めた。善行はそのまま床に尻もちを打って転んでしまったが。
「!?」
そのとき雅人の腕に収まった夕霧を見た日下部は目を大きく見開いた。夕霧の顔を覆っていた前髪がめくれ、本当は美少女であることがバレてしまったのだ。
「あー、おれ用事思いだしたわ。んじゃ、金も貸してくんねー、クソクラスからさっさとおさらばしてやんよ!」
「日下部! 善行に謝れよ!」
「知るか! 勝手に八乙女が転んだだけだろ」
日下部はまるでダイヤの原石でも見つけたかのように小躍りして、教室をあとにしていた。
「なんだ、あいつ? つか夕霧、おま……!?」
「ご、ごめんなさいっ」
雅人も夕霧の隠された素顔を見てしまい驚くが、彼女は慌てて雅人から離れて、前髪で顔を覆っていた。
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身バレしちゃった天使ちゃん……不良と雅人にどう堕天使にされちゃうのかは明日にて。ちと夏バテ気味で筆が重たいんですが頑張れという読者さまはフォロー、ご評価を入れて励ましていただけるとうれしいです。
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