第40話 チート
「おれのみゆき?」
校門を出たところで村井から声をかけられたのだが、勝手に一条先生を彼女かなにかと勘違い発言に聞き返していた。
「そうだよ! おれは次のインターハイ決勝に勝ち、みゆきを抱いてやるんだ」
村井は拳を握りしめ、真顔で言ってのける。
あれか? 家庭教師がいい点取ったら、ご褒美あげるみたいな奴なんだろうか?
「それって、先生は同意してんのか?」
「してねえが、勝ったらみゆきはぜってーおれに惚れる!」
スゴい自信だ……。あんまり人を馬鹿にするのは良くないが、インターハイって言っても村井は予選敗退だからなぁ(棒)。
「そうか……ならせいぜい頑張ってくれ」
妄想につき合ってられないと俺はポンと村井の肩を叩いて、その場を去ろうとした。
「待て! そのまえに最大の障害であるおまえを排除する。明日、おれと勝負しろ! おれが勝ったら今後いっさいおれのみゆきに近づくな」
「……」
「なんだぁ? 勝負するまえからビビっちまったのか? だよな、なんせおれは県大会優勝なんだからよぉ!」
腰に手を当て胸を張って、がはははと笑いながら勝ち誇る村井だったが、あまりにもつっこむところが多過ぎで草も生えない。
「近づくもなにも一条先生は俺の担任なんだが?」
「うるせえ! とにかく明日、おれと勝負するんだ。負けたら約束守れよ」
「それはいいんだが俺が勝ったら、あんたも一条先生に近づかないってことでいいんだよな?」
「なっ!?」
動揺したのか、一歩退いてたじろぐ村井……。どうやら俺に負けることをまったく考えてなかったらしい。
「ありえねえ! おまえみたいな泳ぎのいろはも知らねえ、素人におれが負けるわけがない! とにかく逃げんじゃねえぞ!」
「分かった」
くしくも雅人と同じ状況になってしまっていた。
――――勝負当日。
「いったいどうしたって言うの!?」
俺と村井が勝負すると聞いて先生は俺と村井の顔を交互に何度も見て、状況を飲み込めていなさそうだった。
「な~に、ただの親睦って奴ですよ。なあ、八乙女」
「そーですね」
俺の名前をどこかからか調べてきたらしい。
そんなことはどうでもいいが、先生の手前、村井の言葉に呆れてしまう。立場の弱い者をいじめる奴と俺はとてもじゃないが親睦は深められそうに思えなかった。
――――八乙女く~ん、がんばって~!
――――頑張れ、八乙女ェェェ!
水泳部員たちが見守るなか、俺と村井はスタート台に立ったのだが、部員たちは誰も村井を応援していないことでも、慕われていないことがまる分かりってもんだ。
「八乙女くんは初心者だから無理しなくていいのよ。楽しむ感じで泳いでね」
「ありがとうございます、先生。楽しんできます」
先生は俺を心配して俺の手を両手で握って、励ましてくれた。
それを見た村井は歯ぎしりしているのか、ぷるぷると口元が揺れている。だが開き直ったのか、俺にマウントをとるかのように言い放った。
「逃げずに来たことだけは誉めてやろう! だが万に一つとして、おまえが勝つなんてことはない。世の中に奇跡などというものが起こらないことをおれが証明してやる!」
「なるほど奇跡が起こらないことの証明か……」
ああ、それには激しく同意する。
一条先生や村井たちに伝え忘れてたことがあったんだが、俺……中学時代はオリンピックの強化選手に選ばれてたりするんだけどな。
昔のことを自慢するとかダサいこと、このうえないし、先生あんなにも熱く優しく俺にマンツーマンで教えてくれるもんだから、言うに言えなくなってしまっていた。
スタート台に並んで立った俺と村井、奴は終始睨んできていたが俺はまったく相手にせず、スタートに集中していた。
「Take your marks」
ピィィィッ♪
先生がスタートの合図をすると、そのあと電子音が鳴って、俺たちは一斉にスタート台から飛び出していた。
えっ!?
俺はいきなり村井の姿を見失う。
ちらと後方を見て、納得した。
ああ……飛び込み時ののキック力が足りなさすぎて、村井は俺より遥か後方にいたのか。
「ぶふぁっ!」
ギリギリまで潜水を頑張らねえのかよ……。
俺が制限いっぱいいっぱいの15メートルまで潜ったのに、村井は10メートルそこそこで浮上していた。
あれだけ新入部員に息止めを強制させていたくせに早々に顔をあげてしまっていて、村井の指導方法につっこみしか起きない。
もうスタート数秒で勝負はついてしまい、俺がタッチ板に触れてから10秒以上経っても村井は戻って来なかったので、先にプールから上がらせてもらう。
ざわざわ……ざわ~。
「「「1分45秒!?」」」
「日本記録並みに速いんじゃ……」
すると一条先生たちは俺のタイム見てあ然としており、俺がみんなのそばに寄るとみんな一斉に俺に注目していた。先生は俺にタオルを渡してくれると、おずおずと訊ねた。
「八乙女くんって、初心者じゃ……」
「すみません、先生が俺に丁寧に教えてくれたもので、なかなか言い出せなくて」
「ああん、もう恥ずかしい……」
顔を真っ赤にして、早とちりを恥ずかしそうに手で隠す先生がかわいくてたまらなくなる。ぽりぽりとこめかみをかいた俺、先生とお互いに照れてる様子を見た部員たちがあははと笑っていた。
「なんだ、あの馬鹿げた速さは! 自由形200mで50秒を切るとかあり得ねえだろ! ドーピングでもしてやがのかよ!」
部員たちを押しのけ、和気藹々とした雰囲気をぶち壊しながら、ようやくプールから上がってきた村井は激しい身振り手振りで激高して俺をまくし立てる。
ドーピングはしてねえが、バグを利用したチートではあるな。
「どうだ? 納得いかないなら、もう一度泳いでも構わないが」
「くそ、舐めやがって!!! おまえが勝ったからって、こいつらが速くなるわけねーんだ。おれとこいつらが勝負して勝ったら、八乙女の入部を認めてやろう!」
「いやべつにあんたに認めてもらわなくていいんだけど」
「おれがドーピングを黙認してやろうって言うのにか!? ふざけんなよ! おれのコーチングに不満があんなら、テメーの指導方法ってヤツを見せてくれよな」
「分かった。俺が負けたら、いっさい先生のそばにも、水泳部にも近づかない。けどあんたが負けたら、2人のマネージャーとして学校にいる間、ずっと尽くせよ。それなら泣きの一回を受け入れてやる」
「はっはっはっ、その言葉忘れんなよ! 勝つのはおれだ!!!」
負けたくせに偉そうにする村井に呆れるしかない。まあ、ここでちゃんと立場ってもんを分からせないとな!
新入部員2人は無理無理無理って感じで首を振っていたが、俺は秘策があると2人をなだめ、勝負を受け入れさせた。
『スクダイ』のバグ技、オナ禁ブーストで往生際の悪い村井を完膚なきまでに叩き潰してやろうじゃないか!
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読者さまの応援コメントにより一条先生のえちえち衣装を思いつきました! ありがとうございます。
全裸待機してやるぜ! という勇者な読者さまはフォロー、ご評価いただけますと人妻女教師が乱れてくれると思いますw
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