第25話 美少女姉妹

 事故った……。


 気づくと黒瀬の唇と重なっていた。豪雨の雨音すら無音に感じてしまう。俺の唇に伝わってくるひんやりとした柔らかさ。


 若葉とは違う女の子とキスしてしまったうえに、黒瀬とはまだ付き合ってすらいないのに。


 黒瀬はまったく悪くない。むしろ悪いのは俺のほうだ……。若葉との関係をはっきり伝えないばかりか、誰とも付き合っていないなんて答えたから。


 だけどこんなにも早く黒瀬が俺に好意を抱いてしまうなんて予想外としか言いようがなかった。


 これは雪山で遭難したようなもので緊急事態であり、身体を温め合わなければ寒さで凍えてしまうんだ、と心のなかで若葉に謝罪していた。


 ひとつだけ救いがあるとすれば、まだ若葉とも付き合ってはいないことくらいだ……。


 唇を通した熱交換……俺の熱が冷め切った黒瀬の唇を温めてゆく。


 ちゅっ、なんて軽く皮膚が触れたものではなく、しっかりと唇同士が押しつけ合うようなガチキスを30秒……いや1分ぐらいしていたと思う。拒否すると雅人に走ってしまうとか考えると拒めなかった。


 黒瀬は俺の温かみを受け取り終えると離れ、ゆっくりと目を開ける。どこか、世の中を斜に見ていたような瞳はとても柔らかくなっていた。


「キスもしたことのないレンカノなんて、恥ずかしいでしょ」

「そんなことない。だけどキスしたことないって、まさかいまの黒瀬の……」


「わーっ! 恥ずかしいから、それ以上言わないでよ……」

「ごめん……」


 黒瀬の肌は寒さで青白くなっていたのに真っ赤になって、彼女は両腕を俺のまえに突き出し手を振る。


 なんだろう、この罪悪感。


 若葉に内緒で他の女の子とキスしたうえに、ファースキスを奪い、付き合ってすらいないのだから。


「キスってこんなにも身体中が温かいを通り越して、熱くなっちゃうんだ」

「黒瀬……?」


 肌に張り付いたワンピースを必死で脱ごうと頑張っていた。


「う~ん、う~ん。脱げない……」

「おっ、おい!?」

「脱がせて……ほしいの」

「いやそれじゃ、黒瀬の下着が……」


 俺が戸惑っていると黒瀬は俺に背中を向ける。彼女は「ん」とうなって、とうやら俺に背中にあるワンピースのホックを外してファスナーを下げるよう要求しているらしい。


 若葉の服を脱がす手伝いをした経験こそあるものの、身内以外の女の子の衣服を脱がす手伝いなんて、男ならどきどきして当然だろう。


 落ち着け、俺! 脱がしたからって、ここでなにかするわけじゃない。


「お、下ろすぞ……」

「うん……」


 ファスナーを掴んだ指が震える。この先のことを期待して緊張してるわけじゃない。寒さからの震えなんだと自分に言い聞かせていた。


 ファスナーが下りると張り付いた生地がゆっくりめくれ、黒瀬の背中の肌がうなじにかけて大きく露わになって、思わず息を飲むほど綺麗だった。


 淡いピンク色……。


 黒瀬は見返り美人図のようにこちらを向きながら、ワンピースの肩ひもに手をやり、腕を抜くと彼女のブラジャーが見えてしまう。


 高校生とは思えないセクシーさを俺に見せつけ、ゆっくりと振り向いた黒瀬は顔を真っ赤にして、視線を俺から逸らし、ブラジャーを手をクロスしながら押さえていた。


 それもそのはず、黒瀬のブラジャーは濡れており、すけすけになってしまっていたから。だが意を決して、彼女はその手をゆっくりと外していった。


 濡れて透けてしまった胸元が俺の目に飛び込んでくる。それと同時に凄まじい興奮が俺を襲う。


 ダムが決壊したような血流が一気に下半身に集まってしまったかのようだった。


 はっきり言って、ヌード以上にエロいのはなぜなんだと言いたい!


「まさかこれもレンカノのスペシャルサービスとかじゃないよな」

「ううん……ただ濡れていたから」


 黒瀬は曖昧にしか答えず、俺の手を両手で取った。かと思うとゆっくりと乳首が透ける胸元へ導く。


「妹さんより小さいけど……」


 黒瀬のおっぱいに触れると抱き合って温めていたときより、熱を帯びていた。


 再び目を閉じた黒瀬……。


 もう言わなくても彼女の気持ちは伝わってくる。あとはすべて俺に委ねるといった感じだった。



 ブィィィィィーーーーーーーーーーーン!!!



 俺は黒瀬とここで……そっとまた彼女と口づけだけなら許されるかと迷いが生じていたら、なにか蜂? 甲虫? どちらかよく分からないが大きな羽音が聞こえてきていた。気づくと外の大雨はすっかり晴れて、日の光が差している。


 羽音はどんどんこちらに近づいてきて、蜂だったら黒瀬の目のまえだが、彼女を守るためスキルを使うしかないと身構えた。だが蜂などではなく雨上がりのドローンの登場に拍子抜けしてしまう。


 ブィィィィン♪


 なぜかドローンは俺たちの目のまえでホバリングを続けており、不思議に思ったときだった。キランと日の光が当たり、ドローンのカメラのレンズに反射する。


 げっ!? 監視されてる!!!


 黒瀬といい雰囲気になってしまい、どきどきしていた俺からサーッと血の気が引いていってしまう。俺の部屋で若葉と勉強していたとき、参考書とノートに挟まっていた冊子を思い浮かんでいた。


 若葉が席を外したときに気になって冊子の表紙をこっそり見てみると……。



 ドローン免許講習会テキスト。



 その冊子を見つける数日前の休日のことだ。いつもなら若葉は俺に行き先を告げてゆく若葉が俺にひとこともなく、出かけていた。


 監視カメラ付きのドローンを操作しているのは間違いなく若葉だ!


 俺は思いきりジャンプしてドローンを捕まえるとカメラに靴下を被せて、放逐する。するとドローンは酔っ払いのように右へ左へ揺れながら、俺たちの下を離れていった。


「えっ!? なにが起こったの?」

「さあ? なんだったんだろうね?」


 わけが分かっていなさそうな黒瀬だったが、俺はとぼけておいた。


 それにしても我が妹ながら、俺をなにがなんでも見張りたいバイタリティには感心する他ない!


 それだけ俺は若葉に愛されているということだ。


 時計を見るとあと十数分でバスが来る時刻だったので黒瀬に服を着てもらい、俺たちの街へと戻ってくる。


 俺は黒瀬の仕舞ったクッキーのことが気になり、

帰る途中にケーキを買ってあげると……。


「ケーキまで買ってもらって申し訳ないから、家に寄っていって。うち……貧乏だけど」

「いいの? 俺は貧乏とか気にしないよ」


 期せずして、俺は彼女の妹と会えることを内心よろこんでいた。


 団地前というどこにでもありそうなバス停でバスを降りると築30年では済まなさそうな古い団地の3階に黒瀬の家はあった。


「エレベーターは……ないよな」

「ええ、そんな便利なものはないわ」


 手ぶらなら問題ないだろうが、買い物袋を抱えたままだと大変そうに思えた。


 鍵を取り出し、錆びて重そうな玄関ドアを開けた黒瀬は手招きして、なかへ入るように促してくる。


「あがって」

「いいのか?」

「ボロくて良ければ」


 ドアを開けてもらうと靴置き場には、とてもじゃないが2人で並んで入ることなど無理そう。俺が先にあがらせてもらい、靴を脱いでいると……。


「お姉ちゃんお帰りー!」


 ふすまを開けて出てきて、たったったと軽快に床板を鳴らし、裸足の女の子が俺のそばへやってきた。


「はぐぅぅーーっ」


 俺の背中にダイブするように抱きついてくる。


「お姉ちゃん、なでなでしてぇ~、えっ!?」


 女の子の抱きしめる手が緩んだので振り向くと、彼女はどうやら黒瀬と俺を間違えたらしく、黒瀬でないことにびっくりしているようだった。


「こらぁ! 檸檬……あれほど確認せずに抱きついちゃダメっていってたのに。たく、あんたって子は……八乙女くんに謝る」

「ご、ごめんなさ~い」


 俺のまえにいる美少女は黒瀬からクール要素を除いて、ロリ要素を加えた感じ。セーラー服を着ている彼女は黒瀬を元気いっぱいにしたようなかわいらしい顔立ちしているが、いまは黒瀬に叱られて申し訳なさそうにうなだれていた。


「俺は構わないよ。八乙女善行だよ、よろしくね檸檬ちゃん」


 檸檬ちゃんがきちんと謝ると黒瀬は檸檬ちゃんの頭を撫でて「よくできたね」と誉めており、誉められた檸檬ちゃんはうれしそうに笑っていた。


 なんなんだ……この素晴らしい尊さ。


 こんな仲睦まじい姉妹を地獄に叩き落とした原田と雅人には天誅をぶちかましてやりたいと思っていると……、檸檬ちゃんが俺にあいさつしてくれる。


「善行お兄ちゃん、よろしくね! お姉ちゃんがはじめて男の子を家に連れてきたってことは、お兄ちゃんは彼氏さんってことでいいんだよね?」


「「ふぁっ!?」」


 俺と黒瀬は檸檬ちゃんの突拍子もない言葉に2人で顔を真っ赤にしながら、戸惑っていた。


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