第26話 お風呂

「お兄ちゃんは彼氏さんってことでいいんだよね?

「「ふぁっ!?」」

「ねえ、どうなの? すごくイケメンさんだね!」

「ち、ちがっ、なに言ってんの」

「あー、お姉ちゃん赤くなってるし」


 学校ではクールなイメージだった黒瀬が檸檬ちゃんの屈託のない素直な質問のまえに、ぼーっと湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にさせていた。相手をやりこめることの多い黒瀬でも、妹にはたじたじらしい。


 なんかいいな、こんな仲の良い姉妹って。


 黒瀬は檸檬ちゃんの追及を逃れようとしたわけではないだろうが、物で釣る方向へシフトする。


「檸檬、これを冷蔵庫に入れておいて」

「もしかして、ケーキ!?」


 檸檬ちゃんは俺が黒瀬の彼氏かどうかということをすっかり忘れて、箱の中身に興味が移ったららしく黒瀬が頷き、檸檬ちゃんに渡すと箱を抱えて、バレリーナのようにクルッと円を描いて一回転していた。


 黒瀬が檸檬ちゃんにアルトリーゼで購入したチーズケーキやシュークリームなどが入ったケーキの箱を渡すと目を輝かしていた。黒瀬いわく檸檬ちゃんは甘いものに目がないらしい。


 もっと高いものを買おうかと提案したのだが、黒瀬から断られてしまった。庶民的なスイーツで充分幸せだから、あまり舌が肥えても逆にかわいそうということで……。


「お姉ちゃん、ありがとう」

「こ、こら。檸檬……恥ずかしいって……」


 檸檬ちゃんは黒瀬にひしっと抱きついて、まるで主人の帰りを待っていたもふもふのよう。


「こ、これは、えっと……」


 一方、妹のスキンシップでシスコンであることが俺にバレてしまい、黒瀬はかーっと顔が赤くなり視線を逸らして照れていた。


 クールな彼女も妹を前にするとデレた顔になる。彼女の素顔の一面をこうやって目の当たりにできたことだけで尊い。


「だけど買ってくれたのは八乙女くんだからね。ちゃんとお礼しよう」

「ありがとう、お姉ちゃんの彼氏さん!」


 ――――ブフォ!


 はぐらかしたはずの黒瀬は吹き出していた。


「私と八乙女くんが付き合って……私が八乙女くんの彼女で、八乙女くんが私の彼ピ……」


 黒瀬は終末世界の壊れたコンピュータみたいに独り言をぶつぶつ羅列していたが、その余所で檸檬ちゃんは俺をじっと見つめたあと、ツヤツヤして美しい黒髪を俺に見せていた。


 どうやら、撫でてと言いたいらしい。


「俺でよければ」

「うん、ありがとう! お兄ちゃんに撫で撫でしてもらいたいよ」


 同い年とはいえ、妹の若葉は表立って俺に甘えてくれることが少なかったので、素直に甘えてくれることがうれしく感じてしまう。


 若葉もこれくらい素直になってくれればなぁ、とツンデレな義妹を思い浮かべ、檸檬ちゃんの頭を撫でさせてもらった。


 俺に撫でられた檸檬ちゃんはネコのように目を細めて気持ちよさそうにしているので、それだけでうれしくなる。


 もふもふ系甘えたがり妹ってところか。


『ご主人さま、お帰りだにゃん♪』


 いかん、いかん。


 ふと、あまりのかわいさに檸檬ちゃんがネコ耳と尻尾をつけたメイド姿が脳裏に浮かんでしまった……。


 俺が妄想している間にデバッグ作業が完了したのか、正気を取り戻した黒瀬は檸檬ちゃんに訊ねた。


「そうだ。檸檬、お風呂は沸いてる?」

「うん! いつでも入れるよ」


 どうやら黒瀬は帰る途中にバスの中でスマホをいじっていたが、檸檬ちゃんにお風呂の準備をするように頼んでいたらしい。


 黒瀬の家のお風呂はゲーム内のスチルを見た限り、バランス釜という浴槽に横に設置されたガス給湯器で相当年季の入ったものだった。


 ちなみに浴槽内で黒瀬と雅人は……。


 まあ俺と黒瀬は檸檬ちゃんもいることだし、そんなことにはならないだろう。


「八乙女くん、狭くて汚いお風呂だけど、先に入って」

「あ、いや、黒瀬が先に温まったほうがいいんじゃないか? 凍えそうになってたし」

「ううん、もう大丈夫だから」



 ちゃぷ~ん♪


「ふい~、生き返るぅぅ」


 俺はお言葉に甘え、もらい湯させてもらっていた。スチル通りで古いお風呂であったけど、きちんと掃除がなされて黒カビが跋扈しているようなことはない。


 ユニットバスではないレトロなお風呂を堪能していると脱衣場からごそごそと音がして、浴室と隔てる磨り硝子のドアには人影が見える。


 身長からして黒瀬っぽいのだが……。


「八乙女くん。服、洗濯してもいい?」

「いや、もう乾いてるし、いいかな」

「そ、そうなの?」


 人影はやっぱり黒瀬で、俺の服を洗濯してくれるつもりだったようだ。


『背中、流してあげるね』

『ありがとう、心愛』


 マッサージされるように洗ってもらっているうちに気持ちよくなってしまった俺。


『あっ、ここも洗わなくちゃ……』

『いや、そこは自分で洗えるからぁぁーーーっ』


 まえにかけたタオルの膨らみに気づいてしまった黒瀬は石けんで膨らみをぬるぬるさせ……。


 人前だとクールに振る舞う黒瀬だけど、家に帰ってきたら、ちょっぴりえっちで世話焼きの奥さんとか、最高なんじゃないか?


 や、ヤバい、股間が。


 俺が浴槽の縁に両肘を置いて、にまにま妄想を膨らませていると……、


 シュルリ……シュルリ……。


 なにか服の生地が触れ合うような音がしてくる。それから1分も経たない間に大変なことが起こった。


 ギィと脱衣場と隔てるドアがいきなり開いて、黒瀬が左腕でかろうじて乳首だけを隠し、右手にタオルを持ち、女の子の大事なところを覆いながらお風呂へ入ってきたのだ。


「黒瀬!?」

「驚かせて、ごめんね。八乙女くんにはいっぱい、お礼しなきゃと思って……ねえ、身体洗わせて」


 雨に濡れたとき、俺に乙女の肌を見せてくれた黒瀬だったが、ほぼヌードなのはさすがに恥ずかしかったのか、透き通るような白い肌を桜色に染めていた。


―――――――――――――――――――――――

あー、これは乳搾りですね(棒)。

クールかと思いきや、ぐいぐいくる黒瀬さんw

しかも妹付き物件ならありか!?

若葉か、黒瀬どちらがいいか、コメントいただけるとうれしいです。あと、ついでにフォローとご評価も入れておいていただけると執筆の励みになりますのでヨロシコ!


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