第24話 雨のバス停

 若葉たちの監視の目を逃れ、俺と黒瀬は路線バスに揺られ、郊外のアウトレットモールまで来ていた。


 様々なブランドの店舗が入っており、比較的安価で商品を提供してくれる庶民の味方のような場所だ。


「どうぞ」


 黒瀬は俺に手を差し出していた。


「オプション?」

「ちがうぅぅ!」


 ぷんぷんと言うのが相応しい感じで黒瀬は怒ったのだが、クール美少女って感じの彼女が、学校では見せない屈託のない表情を見せてくれる。


「冗談だって。レンカノであっても黒瀬みたいな美少女とオプション料金なしに手つなぎデートできるとかうれしくってさ」

「ほめても、えっちなサービスはなしだからねっ」


「黒瀬と手をつなげるだけで俺にはえっち過ぎるサービスなんだけどなぁ」

「もう、八乙女くんのばかぁ……」


 心なしか黒瀬と交わす言葉もざっくばらんというか、表情が豊かになってる。


 改めて黒瀬の差し出した手を取り、恋人つなぎしてアウトレットモールのフロアを歩いていた。


 黒瀬の手はほっそりしていて指が長い。ネイルもバッチリ施されてあるが、女子が好みそうな鬼盛りではなく、薄紅色の清潔感のあるものだ。


「こうやって手をつないで歩いてると、レンカノじゃなくて、黒瀬がホントの彼女になってくれたみたい」

「なってあげよっか?」

「えっ!?」


「な~んてね。八乙女くんは私となんかじゃ釣り合わないよ」

「そうだよなぁ、黒瀬はかわいいもんなぁ……」

「逆だよ、逆! んもう、八乙女くんをびっくりさせようと思ってたのに」


 お互いに冗談を言い合い、くすくすと笑う。


 なんだろう、この適度な距離感がたまらなく心地いい。若葉も萌香も菜々緒も俺と親し過ぎて、身内って感じなんだけど、黒瀬とはつい最近知り合ったばかりですごく新鮮な気持ちでいられる。


 だがレンカノとはいえ、若葉に黒瀬と手をつないでるところなんて見られたりしたら、ヤバいことになりかねない。


 いないよな?


 浮気していているような感覚から、きょろきょろと辺りを見回す挙動不審ぎみの俺に、黒瀬が思い出したように訊ねてくる。


「若葉さんだっけ? 本当に綺麗だよね。お兄さんとしては心配じゃない?」

「へ~、黒瀬から見ても、若葉は綺麗なんだ」

「うん、彼女はちょっと別格だと思う。彼女、人見知りみたいだから、あんまり話したことないけど」


「本人はいつも私なんてかわいくないって言ってて、自己評価がすごく低いんだよなぁ……」

「ええっ!? あのかわいさで謙遜けんそんされたら、ちょっと嫌みに思えちゃう」

「黒瀬もかわいいじゃん」


「私はお化粧してるから……」

「かわいいは否定しないんだ」

「もう、八乙女くんのイジワルっ!」

「冗談だって。俺は黒瀬みたいにキリッとして整った顔立ちも好きだな」


「なっ!? ななな、そ、そんなこと言われたって、ガチ恋なんてしないから……」


 それくらいレンカノやってるなら言ってくる利用客はいると思うんだけど、黒瀬は俺の率直な好みを伝えると予想外に頬を赤く染めていた。


 一通りアパレルブランドを回ったりしたのだが……めぼしい服がないなか、悲しいかな男のさがで下着コーナーに目が行ってしまう。


 トルソーに着せられた青いブラとパンティ。


「へ~、八乙女くんも男の子なんだね」


 黒瀬は俺を軽蔑けいべつするどころか、くすっと口に手を当てて笑う。


「いやこれは……若葉に合う下着とかないかなぁ、と……」


 苦しい、実に苦しい。


 だが黒瀬は俺の言い訳に合わせてくれていた。


「そうだね。若葉さん、すごくおっぱい大きいもんね! ちょっと揉んでみたいなって」

「は?」

「あっ! 馬鹿にしたでしょ」

「してない、してない」


「女でも大きなおっぱいの女の子には憧れるし、揉みたいし、顔をうずめたいんだから」

「そうなの? それは黒瀬が特殊だからなんじゃない? 実は百合だったり」


「百合っていうより、純粋な憧れ。うらやましいなって」


 俺の目が自然と黒瀬の胸元に落ちる。


【B86 W56 H88】


「見比べたでしょ! 八乙女くんのえっち」

「ご、ごめん……」


 見た! スリーサイズまできっちり固有スキルパパラッチで。


「揉んでみる? 若葉さんより小ぶりだけど」

「えっ!?」


 俺が驚いて黒瀬の方を振り向くと、彼女は下乳に手をやり、ぽむぽむと揉んで目を細め口角が広がり白い歯を見せる笑顔でいた。


「引っかかったぁ、さっきのお返しだよ」

「あー、ちょっとドキッとしてしまったじゃないか! 青少年の純情を返せ~」


 黒瀬はごめんごめんと俺から早足で逃げたのだが、ジュエリーコーナーで立ち止まっていた。


「これ、若葉さんに似合いそう」


 黒瀬はショーケースに入ったシルバーのイヤリングをジッと見つめていた。だがプライスタグを見た黒瀬はしまったと思ったのか口に手を入れ、青くなってしまう。


 20,000円。


 確かに高校生には高級品だろう。


「おお! ホントだ。若葉に似合いそうだね。じゃあ、これにするよ」

「そんな簡単に決めていいの?」

「黒瀬のセンスを信じるよ」


 俺が黒瀬のアドバイスに従い即決すると、彼女はグル目になって慌てていた。


「私のセンス!? お化粧なんてぜんぶプチプラだし、服だってし○むらで揃えてるし……」

「センスは別だって。高いの着てても、絶望的なセンスの子もいるから。俺は黒瀬の服選びのセンスはスゴくいいと思う」


 黒瀬は照れながら「そんな~、そんな~」と同じ言葉をくり返していた。ショーケースの向こうにいる店員さんに声をかけ、会計を済ました。


「すみません、このイヤリング2セットありますか?」

「ええ、ございます。少々お待ちください」

「普段遣いと鑑賞用!?」

「まさか」


 俺は店員さんに袋は分けてほしいとお願いして、2袋を受け取ると、その内の1つを黒瀬に渡たす。


「えっ? えっ? どういうこと?」

「付き合ってくれたお礼ってとこかな」

「もうお金はもらってるのに……」

「レンカノはプレゼントを受け取っちゃダメな規則はないでしょ?」


「そ、そうだけど……こんな高いもの受け取れないよ……」

「じゃあ、レンタルってことで。俺とのデートのときはつけてきてほしいな」

「わかったわ。つけてくる、必ずね」


 若葉のために見繕みつくろってくれたのは確かだと思ったが、やっぱり黒瀬も乙女だからアクセサリーが気になったに違いないだろう。だからプレゼントしたんだけど……。


 もちろん、ずっと黒瀬を俺のわがままでデートに付き合わせるわけにもいかないから、原田たちから守ったあとはレンタルからだだで譲るつもり。


 目的を達して、モールの壁掛け時計に目がいくとレンカノのタイムリミットが迫っていたのでアウトレットモールを出たのだが、バス停まで歩いているときに雨が降り出してきた。


 ドッバァァァァァーーーーーー♪


 バケツをひっくり返したと表現するのがぴったりな豪雨で、2人で急いで雨宿りできそうなところに駆け込んだ。


「うわあーーっ、降ってきたぁぁーーーー!!!」

「もおぉぉ……なんで降ってくるのぉぉ……」


 しかしそこはエロゲや薄い本ご用達の田舎によくある木造の屋根付きバス停……。


 黒瀬はワンピースの裾をつかんで、ギューッと絞って生地が吸った水を追い出していた。


 薄着の黒瀬は小刻みに身体を震わせ、寒そうにしている。それでも身体は温まることなく、それどころか、無意識的になんだろうけど俺の肩に身を寄せ、カチカチと歯を鳴らして震え出しいた。


 俺はドン引きされる覚悟を決めた。


 マジ天使のエミリアたんがデカデカとプリントされたキャラTシャツが露わになる。


 プルオーバーのパーカーを脱ぎ、黒瀬に着せようとしたのだが、彼女は首を横に振る。拒否られたのかとへこみそうになるが……。


 黒瀬は引くどころか、俺の肩に身体を寄せてきたかと思うと肌を重ねてぴったりと寄り添っていた。


「八乙女くん、あったかいね。お父さんってこんな感じなのかな」

「どうなんだろうな、よく分かんないや」


 黒瀬の震えがまだ収まらなかったので、彼女の肩に手を置くと黒瀬は俺の胸に両手をついて、さらに身体を寄せる。


「私ね、レンカノやってるのに男の子と付き合ったことないの。変でしょ?」

「ぜんぜん、変じゃない。俺だって女の子と付き合ったことない」

「ねえ、八乙女くん」


「ん?」

「ここも温めてくれるかな?」


 黒瀬は人差し指で唇を押さえた。雨に濡れるまえは血色の良かった麗しい唇は寒さで紫色に近くなっており、彼女の言う通り温めてたほうが良さそうに思えた。


 目を閉じた黒瀬はゆっくりと俺に唇を寄せてきている。


【抱きしめて温めてほしい……】


 いやこれって、エロゲならぜったいえっちしてしまうパターンでしょ!!!


―――――――――――――――――――――――

美少女が寒さに震えている。温めますか?


→ はい

  いいえ


「はい」の読者さまはフォローを、さらにエロゲ展開をお望みの読者さまはご評価をお願いいたしますwww

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