第21話 口止め料【胸糞注意】

 窓の外を気だるそうに眺めている黒瀬。どこか冷めていて、大人びていた雰囲気の黒瀬を見て、俺はゲーム内での彼女の顛末てんまつを回想していた。


――――【回想】


 髪を短く刈りこみ汗をだらだら流し、上はポロシャツ、下はジャージを履き、胸には笛をぶら下げたいかにも体育教師然とした原田が、パイプ椅子に座らせた黒瀬にキモい顔を近づけ、問い質していた。


 原田の顔が迫ると黒瀬は眉根まゆねを寄せて、嫌悪感をあらわにしている。


「黒瀬ぇぇーーー。おまえの生活態度はなんだぁ? 授業中に寝るわ、携帯をいじるわ、教師に不遜ふそんな態度を取るわ……呆れてものが言えんぞ!」

「ものが言えないなら、そのまま黙ってて欲しいんですけど」


 原田が生活態度がなっていないなどと難癖なんくせをつけ、黒瀬を生徒指導室に呼び出していたのだが地頭じあたまの良い彼女に原田は簡単にやりこめられる。


「ぐぬぬ……メスガキのくせに調子に乗りおって」

「メスガキって言葉、それってセクハラなんじゃないですか? 用がそれだけなら、帰ります。私、暇じゃないんで」


 原田のネタ切れを悟り、黒瀬は席を立つ。


「あっ、おい! まだ話が……」

「なんです? あれば早く言ってください。さあ」

「くそっ、今日はもう帰れ!」


 渋々、黒瀬を帰した原田だったが……。



 放課後、黒瀬は急いで待ち合わせ場所で人を探していた。


「ああ、もうあのクソ教師、マジむかつく! おかげで待ち合わせギリギリになっちゃたじゃん」


 焦りながらスマホの画面に目を落とし、画像とうり二つの三十路過ぎで頭髪が後退気味の男を見つけると黒瀬は彼に向かって満面の笑みで手を振っていた。


「お待たせしましたぁー、ここあです。よろしくね!」

「ああ、ここあちゃん! 写真で見るよりずっとかわいいね!」


「そんなことないですよ。キビトさんこそ、写真よりずっとかっこいいですね」


 そのデートの終わりに事件が起こる。


「や、止めてください! レンカノはそういうサービスはしないんです。訴えますよ」

「そう言わないでよ。遅刻してきたこと内緒にしてあげるしぃ、評価も満点入れてリピーターになってあげるからさぁ。ねえボクとえっちしようよ」


 運悪く手癖の悪い客に当たってしまい、腰を抱かれキスされそうになり、ホテルへ連れこまれようとしていた。


「ぐわっ! な、何を……ボクの目、目がぁぁ」


 黒瀬はとっさにカバンの中から護身用の催涙スプレーを噴射し、難を逃れたのだが……。


 柱の影に隠れて、その様子を窺う怪しい者に黒瀬は気づいていなかった。



 その翌日、また黒瀬は原田に呼び出されていた。


「黒瀬ぇぇーー、おまえなんで呼ばれたか分かってるかぁぁ?」

「分かりません。用がなかったら帰してくれませんか? はっきり言って先生の顔は見飽きました」


「おうおう、ずいぶんなことを言ってくれんじゃねえか。だがこれからは毎日おれの顔が見たくなっちまうぜ、ひははははは」


 キモい笑いとともに原田は昨晩、黒瀬が客にラブホへと連れこまれそうになっていた写真を見せた。


「いかんな~、実にいかん。うら若き乙女がこのような淫行パパ活に走るなど許されるわけがない!」

「ちがう! 私はただレンカノのアルバイトをしていただけで……」


「黒瀬ぇぇーー、おれは鬼じゃない。おまえの心がけ次第で黙認してやることはできるんだ。その代わりと言っちゃあなんだ。口止め料ってやつが必要ってことぐらいガキじゃねえんだ、Did you get it?分かってるよなぁ?


 黒瀬は原田の言葉に首を縦に振ってしまった。



――――ラブホ。


「おら、さっさと股開けや! さもねえと無理やりぶちんでやっぞ。おれのは特別デカいから痛さマシマシだからなぁ、くひひひひ」


―――――――――自主規制――――――――――


ダメっ! 見ないで! 見たらダメなんだからぁ!


―――――――――自主規制――――――――――


 はっはっはっ、おれが黒瀬を女にしてやったぞ!まさか本当にパパ活やってなかったとか笑けてくんな。


 まったくJKの処女まんは最高だぜ!


 原田のクズ丸出しのモノローグがメッセージウィンドウに流れてきていた。こんなクズ野郎が教師だなんて、エロゲ世界はヒロインたちにとって、デストピアでしかない。


「ちょっと中はダメっつったのになにしてんの!」

「ああ? おまえ、自分の立場分かってんの? おれは教師でおまえは生徒。おれはお客さまでおまえはサービスの提供者。Do you understand?理解してますかぁ?


 原田の性欲は一度で収まるわけもなく、何度もいいようにされてしまっていたが、ようやく黒瀬が地獄から解放されようとしていたときだった。

 

「ほらよ、約束の金だ」

「はあはあ……た、足りない。なんで、なんでなのよ! 約束と違うじゃない!」


「済まねえな、手持ちがそれしかねえんだわ。ボーナス出たら、残りの分も払ってやるから、また頼むわ。ちなみにホテル代は引いといてやった」

「なっ!?」


 原田は何度も黒瀬を抱いて……しかも彼女の処女を奪っておいて、たった5千円だけ置いて、去ってしまった。原田を追いかけようにも息は切れ、腰も股も痛くて黒瀬はまともに歩くことができないでいた。



――――原田のマンション。


 それからというもの、原田はことあるごとに黒瀬を呼び出して、彼女をラブホに連れこんでいたのだが、すべてホテル代込みの金額しか原田は払っていなかった。


 そのため、黒瀬は提案していた。


 原田の自宅でいいから、ちゃんとお金を払うようにと……。


「くっくっくっ、よくきたな。まあ入れや」


 玄関ドアを開けて黒瀬を招き入れる原田だったが、リビングには写真立てがあり、原田と年の離れた若い配偶者、そのまん中には小さな子どもの三人が写っていた。


「たく、昨今のJKはまったくけしからんな。そんなにおれとのセックスが気持ちよくて、抱かれにくるとか、とんだビッチだぜ」

「ちがう! 来たら、残りの分を払うって言ってたから来てやっただけ」


「言ってろ言ってろ、そのうち、おれにどはまりして、逆に金を払いたくさせてやっからなぁ! くひひひひひひ……」


 黒瀬をソファーに座らせた原田は炭酸飲料を出したのだが、黒瀬は一口も手を出さなかった。それに業を煮やした原田はいきなり後ろから黒瀬の胸を揉みしだき始める。


「なにすんのよ!」

「ああ? おまえもそのつもりできたんだろうがよぉ。金はちゃんと払ってやるから、おとなしくしてろ、ひははははは!」


―――――――――自主規制――――――――――


くっ、こんなゲスにいいように扱われるなんて!


―――――――――自主規制――――――――――


 ゴリラみたいな原田の性欲がリビングだけのセックスに止まるわけがなく、寝室であるベッドでもくり広げられたのだが……。


「おらよ、取っとけ。釣りは要らねえからな、ひははははは!」


 やり終えると碌に休憩を取らせてもらえずに黒瀬は原田の家から追い出され、原田の玄関ドアのそばで気力を失い、そのまま座りこんだ彼女がこぼした言葉が俺の心に突き刺さってしまっていた。


 5回も中に出したくせに1万円だけなんて……。


 でも妹とおいしいものが食べられる。


 重たいものを背負ってる黒瀬だったが、そこに雅人が加わって、さらに悲劇が起こってしまうんだが……。



 回想を終えた俺は黒瀬へ目をやると彼女と一瞬目が合う。だが彼女はプイッとすぐに俺から目を背けた。


 家庭の事情もあり、ちょっととっつきにくいところもある黒瀬だけど、本当は不良でもなんでもないのに、家族を助けたいと生活費を稼ぐためにやっていたことが裏目にでて不幸になるのは間違ってる。


――――翌日。


 俺は原田に目をつけられるまえに行動を起こしていた。


「黒瀬さんだったかな? レンカノしてるよね」

「なっ!? なんで八乙女がそのこと知ってんのよ!」

「見ちゃったんだ、黒瀬さんが“クルカノ“に登録してるの」


 スマホの画面に映ったお化粧をして高校生とは思えないくらい大人びた黒瀬の写真を見せると、昼休みに二人で話をする方向でまとまったのだった。


―――――――――――――――――――――――

あー、明らかに妻子持ちですねぇ……クソ教師原田のざまぁをご期待の読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。心愛ここあちゃんと善行は仲よくなってもいいのかな? オッケーな方はご評価いただけるとうれしいです。

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