第4話 禁じ得ない

 高飛車な菜々緒はビシッと竹刀の先を俺に向けてきていた。


 菜々緒が俺に「その思い上がりをへし折ってあげます」と威勢よく言い放ったが、ゲームでは雅人にそう言い放ったあと、情けなく惨敗して女騎士よろしくオホ声だして、雅人にいいように弄ばれる。


 袴姿でプライドが高く凜としたたたずまいの菜々緒が落とされてゆく過程はユーザーの嗜虐心しぎゃくしんを刺激して、そのパートに関しては概ね高評価だった。



 勝負ということで家の敷地内にある道場に移動した俺たち。しかし善行の家はどんだけ金持ちなんだよと思ってしまう。プールは分かるんだ。それこそ金持ちの遊びとして、プールサイドでバーベキューしたりして、レジャーを楽しんだりできるから。


 でも息子が強くなりたいからといって自宅に道場をほいと簡単に作ってしまうとかあり得ねえ……。まあそんなありがたい親心もゲームの中じゃ、目の前にいる菜々緒に踏みにじられるんだけどな。


 菜々緒と若葉を伴い、神棚かみだなに一礼して道場内に入るといきなり菜々緒は俺に人差し指を差しながら言い放った。


「悪いことは言わない。ここで全裸で土下座して『菜々緒さま、申し訳ございませんでした』と全力で謝罪するなら許してやっても構わんが、どうだ?」


「はは、それは菜々緒のほうが怖じ気づいたんじゃないのか? 額の汗がスゴいぞ」

「う、うるさいっ! 今日は暑いだけだ」


 詰め寄る菜々緒だったが、俺は彼女の身体が小刻みに震えているのを見逃さなかった。小春日和というにはまだ寒く、素足で道場の床に触れるとキーンと脳天にまで冷たさが凍みてくるのだが……。


 菜々緒も星舟先生から師範代を任せられるくらいの実力者ではある。道場へ向かうとき、菜々緒はちらちらと俺の歩き方を見ていた。菜々緒も知ってるんだろう。



 “歩く姿が武“ってことを。



 いつもなら数分とかからずに防具をつけ終わる菜々緒だったが、今日はやけにもたもたしている。


「なんだ? 今日は菜々緒がもたもたしてるじゃないか。手伝ってやろうか?」

「ばっ、馬鹿にするな! ちょっと手間取っただけ……」


 太っていた頃の俺が、豚足みたいな手でなかなか防具をつけられず俺の不器用さを彼女は笑っていたが、まさにブーメランだった。


 防具をつけ終わり若葉が見守るなか、道場の真ん中で対峙した俺たちだったが、菜々緒は驚きの声をあげていた。


「どうして、面も胴……いや竹刀すら持たないとはどういう了見だ!? 貴様はやる気があるのか? 舐めているのなら帰らしてもらう」


「帰る? そんなことを言って、俺に負けるのが怖いんだろ? だからハンデだよ、これは。菜々緒は俺には勝てない」

「なんだ、その口の聞き方は! 仮にも私は父に代わって、貴様を教えにきた先生だぞ」


「先生? 俺は星舟せいしゅう先生に師事したはずだが?」

「ぐぬぬ……ヘタレの善行のくせに減らず口を。父が先生なら、娘の私も先生と敬うのが筋というもの。その曲がった根性叩き直してやるっ!」


 先生というより兄弟子、いや姉弟子がいいところだろう。はあ……プライドが高すぎて、それをぽっきり雅人に折られて、性奴隷オナホと化す女騎士の典型みたいな菜々緒は冷静さを欠いてスゴい剣幕で俺をにらんでくる。


 それに俺は星舟先生から娘の曲がった根性を直して欲しいと頼まれてるんだから。


「怪我しても私は責任を取らん!」

「どうぞ、ご勝手に」


 菜々緒は最後通牒とともに俺の喉元を素早い動作で突いてくる。


 パネェなぁ……。


 怪我したら、とか言いつつ防具のない喉を突いてくるとか鬼畜かよ。


 “当たらなければ、どうということではない“という3倍速く動ける少佐の言葉をリスペクトしつつ、菜々緒の突きを前進しながら、避けた。


 菜々緒は驚いて、下がりながら間合いを取ろうするが、俺が彼女の小手に触れながら、追従すると気圧された彼女は壁を背にする。


 まさに手も足も出せない菜々緒に向かって……。



 ドンッ!



「おいおい、どうした? 今日は菜々緒が俺の先生なんだろ。これじゃ、俺が菜々緒に稽古をつけてるみたじゃないか。もっと先生らしい鋭い竹刀捌きを見せてもらいたいもんだな、はは」


 壁ドンしながら、俺はプライドの高い菜々緒を詰った。


「おのれ、おのれ! 善行の分際で私を愚弄するなど許されん。一生口の聞けない身体にしてやるっ」


 と、威勢よく啖呵たんかを切った菜々緒だったが、彼女の竹刀が俺に当たるどころかかすりすらしない。


「ぜいぜい、はぁはぁ……な、なぜだ……ほんの少し前までは私の足下にも及ばなかった善行がなぜもこんなに成長してる……」


 俺をぼこぼこにして、ストレス解消していた優等生である菜々緒の裏の顔、だが今日はいいように俺にもてあそばれ、ついには息を切らして菜々緒はとうとう道場の床に両手をついて跪いてしまう。


「菜々緒先輩……水分を……」

「触るなっ!!!」


 そんな菜々緒を心配して、若葉が気づかいタオルとスポドリを渡そうとしたのだが、菜々緒は若葉の手を振り払ったとき、若葉の顔に菜々緒の手が甲が当たり、きゃっと若葉から声が漏れた。



 ブチッ!



 そのとき瀬戸大橋みたいな巨大な橋梁きょうりょうを支える極太のワイヤーが瞬時に破断するような音が俺の脳に響いた。


 単純に菜々緒を分からすためだけだったので俺から手を出す気はさらさらなかったが、偶然とはいえ、俺の大切な若葉を傷つけたことに凄まじい憎悪の念が湧く。俺はいい……だが若葉を傷つける奴は女であっても容赦しない。


 竹刀を杖替わりに立ち上がろうとしていた菜々緒に向かって、俺は躊躇ちゅうちょなく拳を振り下ろす! 菜々緒は俺の剣幕と拳の勢いにビビり、彼女の端正な顔つきが恐怖で歪んでいた。


「兄さん、止めて!」


 俺の腕をひしっと抱きしめるようにして、グーパンするところを若葉が制止する。


「ひっ!?」


 ロウソクの炎を瞬時に消すような拳風が菜々緒の前髪を揺らし、彼女は顔面が真っ青になったかと思うと、びちゃびちゃと音がしてきていた。


「「えっ!?」」


 俺と若葉は菜々緒の足元を見ると道場の床には、黄金の聖水がぼたぼたと菜々緒の履く袴から垂れてしまっていた。


「あらら、菜々緒先生は先生なのにおもらししちゃったんだ」

「み、見ないでぇぇぇ……」


 俺がスマホで録画していると気丈だった菜々緒の姿はなく、ふぇぇぇーーーんと声をあげ、女の子っぽいぺたん座りで泣きじゃくってしまっていた。


「分かった。失禁したことは黙っててやる。だが代わりに俺の言うことをなんでも聞くんだ」

「け、けだものっ!」


 プライドの高い菜々緒はふくよかな乳房を腕で隠しながら、俺をにらんだ。


「勘違いするな、菜々緒は俺の趣味じゃない」

「……」


 俺は雅人じゃないんだ。美少女なら見境なくエロいことをすると思われては困る。


 手出しされないと分かってくれたのか、菜々緒はゆっくりと頷く。これで菜々緒は高校生にもなってお漏らしした事実を知る俺や若葉に二度と逆らうことはないだろう。


―――――――――――――――――――――――

某所でこちらの新作を相談したら、ドン引きされちゃいましたw でも排卵日って、エロ用語なんですかね? 不妊の女主人公が「不妊の私は排卵日を待ちわびる」なんてタイトルだったら、どうでしょう? ぜんぜん違う印象を受けると思います。

おっと脱糞してしまいました、違う脱線、脱線。運営さまに叱られない程度にえちえち頑張りますので良かったらフォロー、ご評価お願いいたします。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る