第7話:回復の光
「そんな...何よこれ...」
ダメ...身体が動かない..
目の前に突如現れた、巨狼。
巨狼から放たれる威圧感で、シーラの身体は完全に硬直していた。
『立ち去れ。人の子らよ。』
頭に直接流れて来るような声。
その声だけで、巨狼が自分より強いのだとわかる。
巨狼の声からは、圧倒的強者の余裕を感じ取れたのだ。
「あんだがテンロウ様か。悪いがここを通らせて貰いたい。麓にあるメルナ村に用があるだけなんだ。決してあんた達の縄張りを荒らすつもりは無い。」
『ならぬ。ここは我らが山狼族の生活圏。そこに足を踏み入れた以上、来た道を戻るか。もしくはここで朽ち果てるかの二択だけだ。』
テンロウ様だって否定しなかった。って事は、恐らくこの巨狼がテンロウ様で間違い無さそうね。
本当になんてプレッシャーなの...指先すら動かせないなんて...
中腹で狼の群れと対峙した時は、それほど身の危険は感じなかった。
自分が狼達より、圧倒的に強い事が何となくわかっていたから。
だが、今の状況はそれとは逆の状況である。
圧倒的な差。目の前に居るテンロウ様は、それ程の強者のオーラを纏っていたのだ。
アレンの方を見てみると、腕を前に突き出し、魔鉄創成を発動していた。
あれは...魔鉄創成? 製鉄魔法をどうしてこのタイミングで...?
シーラは理解が出来なかった。
なぜアレンがこのタイミングで、製鉄魔法であるはずの魔鉄創成を発動したのか。
一般の攻撃魔法より、多くの魔力を消費するだけじゃなく、目の前の巨狼を倒せる大きさの鉱物を創り出すとなると、どれだけ魔力が多くても補いきれないはず。
それならば、今は魔力を温存し、相手の出方を見る方が良いと考えていたのだ。
そんなシーラの心配を余所に、アレンはそのまま1本の剣を創り上げた。
「よし、完成だ!」
その剣は異様な魔力を纏い、白く光輝いている。
普通の剣じゃない事は、一目瞭然だった。
どういう事!? 魔力が込められてるなんて...
サイズ的に言えば、剣を創る事自体は可能だ。
ただし、魔鉄創成で作った剣は、重い割に斬れ味も悪く、使い物にならないはずだった。
その為、魔鉄創成で鉄塊を創り出し、加工する事で剣にするのが一般的なのだ。
シーラが驚いた理由は、その剣が自分の持っている剣よりも、圧倒的に上等な物に見えたからである。
それ程の物を創り出すとなると、人間には不可能な量の魔力が必要なはずなのだ。
それをアレンは難なく創り出してみせた。
最早シーラには、理解が及ばない領域だった。
「シーラ! そこでじっとしてるんだぞー!」
「え、えぇ...わかったわ」
「よし! それじゃあ、行くぞ。」
そう言うと、アレンの姿が一瞬で姿が消えた。
周囲を見渡すが、どこにもアレンの姿は見えない。
どこに行ったのかわからずテンロウ様の方を向くと、既にアレンがテンロウ様の背後を取っていた。
速いなんてものじゃない。本当に一瞬だった。
地を蹴る音すら聞こえなかったのだ。
そのまま剣を構え、横向きに勢いよく剣を振り切り、斬撃を放つ。
シーラはその動きに見覚えがあった。
それもそのはず。シーラが中腹で使った【緋炎ノ斬撃(スカーレットブレイク)】と同じ動きなのだから。
剣先から放たれた斬撃は、真っ直ぐテンロウ様の左後ろ足に飛んで行き、そのまま直撃した。
『ぐぁぁぁぁあ!!!!!!』
あまりの痛みに絶叫するテンロウ様。
斬撃が直撃した瞬間、大爆発を起こし、テンロウ様の左後ろ足を吹き飛ばしたのだ。
その爆発はとてつもない威力だった。
50m以上離れてるシーラの元にも爆風が届き、吹き飛ばされてしまう程に。
「きゃぁぁぁあ!!!」
120mは吹き飛ばされただろうか。
爆風が収まったが、全身が痛い。
吹き飛ばされた時にぶつけたみたいだ。
シーラは痛みで重く感じる身体を起こし、周囲の状況を確認する。
すると遠方で、地に沈むテンロウ様と、アレンが立っているのが見えた。
あの剣、魔法剣なんてレベルじゃない。
中腹で使ってたあの魔法といい、さっきの斬撃といい、とても人間業とは思えないわ。
彼は、本当に何者なの...?
疑問を胸にアレンの元へと駆け寄るシーラ。
テンロウ様は、重傷を負ってはいるが息はあるようだ。
「アレン、さっきの斬撃は...」
「破壊ノ斬撃(ディストラクションブレイク)の事か? シーラの緋炎ノ斬撃(スカーレットブレイク)を真似してみたんだ。」
「真似してみたんだって、そんなに簡単に出来るような技じゃないはずよ。それに爆発だって」
「あぁー...この剣、全属性を付与してあるんだ。斬撃を飛ばした時に、そのまま属性が斬撃に乗ったみたいでさ。当たった瞬間に属性間のバランスが崩れて、爆発が起きたみたいなんだよな。あははは」
「あははは、じゃないわよ! 危うく死ぬところだったじゃない!! それにしても全属性を付与出来るなんて、本当に何者なの? とても人がなせる技じゃないわ」
「まあ...それよりもさ! これどうしたら良いかな」
アレンはテンロウ様の方を向いてそう言った。
テンロウ様は片足が吹き飛び、息も絶え絶えになっている。
今すぐ手当をしなければ、命が危ないだろう。
「それよりもって...仕方ないわね。とりあえず私が応急処置をするから、アレンは水を汲んで来てちょうだい。」
「あぁ! わかった!」
アレンが水を汲みに行くのを確認したシーラは、両手をテンロウ様の方に向けて、魔法を発動する。
「回復の光(ヒールライト)!!」
手から光が放たれ、テンロウ様の傷口を覆っていく。
すると、徐々に傷が回復し始めた。
「間に合ったみたいね」
回復の光(ヒールライト)は怪我をした者の自己回復力を活性化させる回復魔法だ。
その魔法の特性上、助からないレベルの致命傷を負ったり、既に亡くなっている者には効果が出ないのである。
欠損した部位を復活させるような事は出来ないが、傷を塞いだり止血をする事も出来、消費魔力も少ない為冒険者の間で重宝されていた。
アレンの帰りを待ちながら、シーラは回復を続けるのであった。
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