第4話:初めての依頼



ダイロンとの話が終わった後、冒険者登録の説明の続きをしてもらう為に、エレナと1階の受付けに戻ってきた。


ここの責任者であるダイロンが、俺の事を受け入れると言ったわけだから話も終わりかなと思っていたのだが、それはそれこれはこれという事で、説明はしっかり受けなきゃいけないらしい。

なんでも、冒険者は最初が肝心だとか。


昔は、今ほど冒険者に対する説明もマニュアル化されていなかったみたいで、沢山のビギナーが命を落としたらしい。

依頼書を勝手にくすねて、依頼者の元に直接受注しに行く冒険者が後を絶たず、結果的に自身の力量以上の依頼を受けて、命を落とすというのが通例であったとか。

それを防ぐために、ランク制度が設けられたみたいだ。

冒険者の生命を最低限守るのもギルドの役目、だからこそ最初の説明だけはしっかりと行いたいという。


「というわけで、アレンさんは冒険者になったばかりなのでEランクからとなります!受けられる依頼はEランクと1つ上のDランクとなっているので、よろしくお願いします!冒険者ランクが上がると受ける事が出来る依頼のランクも上がって行くので、頑張ってくださいね!」


「なぁ、質問なんだけど。冒険者ランクを上げるにはどうしたら良いんだ?いきなりランクを2つとか上げる事って出来るのか?」


「ご自身と同ランクの依頼を50回、1つ上のランクの依頼を25回達成する事で、ランクアップになります!他にも大きな功績を残した方は、ギルドで功績の内容を精査した上で、特例でランクアップする事がありますね!その際、飛び級で上がる方もいらっしゃいますがごく希な事ですので、地道に依頼をこなして行く方が確実だと思います!」


「なるほどな!じゃあ、とりあえずは真面目に依頼をこなしていくしかないか!!」


「はい!!応援してますねっ!もしよければ、早速1つ依頼を受けてみてはいかがでしょう?しっかりと準備するのも大切ですが、善は急げとも言いますし!」


「あぁ、そうしてみるよ!やりたい依頼が見付かったら、ここに依頼書を持って来ればいいんだよな?」


「はい!ここに依頼書を持ってきていただいて、この依頼受注表にサインをしていただければ受注完了となります!」


「わかった!色々とありがとう!」


エレナに挨拶した後、そのまま真っ直ぐ掲示板の方に向かった。


掲示板を見てみると、上はSランクから下はEランクまで様々な依頼が貼ってあり、その総数は500件じゃきかないだろう。


エレナによると、掲示板に載せてはいないがSランク以上の依頼もあるようで、そのレベルの依頼を受けられる冒険者は限られてくるらしい。

仮に1人で受けるとしたら、SSランク冒険者か最高ランクであるSSSランクの冒険者じゃないと、受注許可すら貰えないみたいだ。

ただし、Sランク冒険者が複数人で結成した、所謂パーティーになると受ける事が可能らしいが、Sランク冒険者自体そんなに多くは無いので、たまにしか受注されないようだ。


と言っても、俺のランクはまだEランク。

なりたてホヤホヤの冒険者では、SランクどころかAランクの依頼ですら、当分先の話になってくるだろう。

善は急げってエレナは言ってたが、急がば回れという言葉もある。

焦ってDランクを受けるのではなく、真面目にコツコツとEランクの依頼を受けるとするか!


えーっと...ゴブリンの血液1体分の納品に、薬草集めと鉄鉱石採掘の手伝い?

Eランクの依頼は、どれも簡単そうなものばかりだな。

物足りなさは感じるが、まあ最低ランクの依頼なわけだし、これが普通なのかもしれない。

さて、どの依頼にするかなぁ。

アレンが依頼を選ぼうとした、その時。


「ちょっと、どういう事よ!!!!」


女性の声と共に、受付台に手を叩き付ける音が鳴り響いた。

どうやら、受付でちょっとしたトラブルが発生したらしい。


「えっと、ですから!この依頼はゴブリンの巣の殲滅で、一応Dランクの依頼ではありますが、最低2人で挑む依頼になっているんです!Cランク以上の冒険者の方でしたら、お一人で依頼を受ける事も可能なのですが?シーラさんはまだDランクですので、お一人では受注出来ないんです!」


「だから、そこを何とかならないの!?ってさっきから聞いてるんじゃない!!」


物凄い剣幕で、女の子がエレナとは別の受付の女性に凄んでいた。

身長は165cmくらいだろうか?綺麗な赤毛の長髪で、端正な顔立ちをしている。

年齢は16、17歳ってとこだろう。

口調は荒いが、身に付けている装備にどこかの家紋が入っている。


人間社会で言うところの、貴族ってやつなのかもしれないな。

少なくても、そこそこ身分の高い家の出身なんだろうけど。

あれじゃまるで、産気づいた赤毛の雌火竜だな....


見かねたアレンは、女の子と受付の女性に声をかける。


「なぁ、2人居れば良いんだよな?Dランクの依頼って事は、残りのもう1人がEランクの俺でも問題無いって事だろ?」


驚いた表情になる2人。


「えっとぉ、はい!そうですね!一応Eランクの方でも大丈夫です!」


受付の女性がそう答えると、エレナも会話を聞いてたのか心配そうに話しかけてきた。


「でも、アレンさん大丈夫ですか...?初めての依頼ですしEランクの方が良いのでは...」


「こう見えて腕っ節には自信があるんだよ、俺。こっちの子が良いなら手伝いたいなって考えてるんだけど?えーっと」


さっきの2人の会話で名前は聞こえていたが、めっちゃ聞き耳立ててんじゃん!キッモ!って思われるのも嫌だったので、わざと知らないフリをしてみた。

こう見えて、メンタル弱い系ドラゴンなのである。


「シーラよ。私としては手伝ってもらえるなら、願ったり叶ったりって感じだから異論は無いわ!」


真っ直ぐこちらを見つめながら、答えるシーラ。

初対面で名前も知らない俺の事を、不思議と信用してくれてるみたいだ。


「よろしくシーラ。俺はアレン、よろしくな!」


シーラに軽く自己紹介をした後、俺達は受付に顔を向ける。


「という事でシーラと俺、2人でこの依頼を受けたいと思う。良いか?」


「え、えぇ!それでしたら問題は無いので、受注を許可します。この依頼受注表にサインをお願いします。」


サインをして無事に依頼を受注したシーラと俺は、早速出立する事になった。

ギルドを出る際、エレナが心配そうにこちらを見ていた気がしたが、多分気のせいだろう。

ギルドから出た俺達は、詳しい挨拶は道すがらでする事にして、とりあえず互いに入用の物を準備した後に正門前で落ち合う事にした。


「入用の物って言っても。正直何を用意すりゃいいのかわからん!」


でも、これでようやく俺の冒険者としての活動が!!いや、俺の人生がスタートするってわけだ!!

長かった...ここに来るまでめちゃくちゃ長かった!!そんな気がする!!


まだ人の身体になって1日とちょっとしか経っていないが、ドラゴンとして火山で暮らしてた数百年間よりも長く感じる。

久々に感じる充実感。


そうだよ!これだよこれ!!俺はこれを求めてたんだ!!


街中で腕を上げながら、ガッツポーズをするアレン。

そんなアレンを街の人達が変な目で見ていたという事実を、彼はまだ知らないのであった...なんなら今後も知らないのである。


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