エピローグ


 あれから一ヶ月半が経過した。

 俺は相変わらずクラスではぼっちでいることを好む。ラノベを読みながら。

 もう夏休み前なのか、皆半袖のカッターで、周りは夏休みに向けて色々な準備に入っているような雰囲気だ。そんな空気を黄昏れている。

 ただ以前と変わったのは以前よりも髪型や服装を気にするようになった。髪もカットし服装もシワがないとかボロでないかとかは気にするようになった。お陰で最近は家でも妹と衝突することが少なくなった。少しリア充らしい外見になったからな。以前より。

「内野、西原とは進展あるか?」

 クラスメートが絡んでくる。以前、俺は周りから睨まれていたが本人の口から友達認定されて以来、男子どもはそれを受け入れるしかなくなった。寧ろ俺のお陰で西原さんが明るくなったり一層可愛い表情を見せるようになったので以前よりは良い印象になっている。

「西原もお前のお陰で本当に明るくなったからな、見てみろよあれ」

 俺らは西原さんの方をみる。

「春香ちゃん、フリーズしているよ」

「えへへ、そうかな」

 西原さんはあれ以来、直ぐに友達が複数出来た。津村らのグループで過ごすことが多くなった。休み時間、昼休み。何時もグループで弁当しているのを見る。以前からしたら考えられないような成長ぶり。

 クラスの人気は津村派、西原派で完全に二分化している。

 西原の方を注目し続ける。

「今日ね、私、内野君と放課後行くの。カフェに。この前もね、彼ったらうちの家来て可愛い姿して」

「春香ちゃん、そんな声デカいと内野君に聞こえちゃうよ」

「そんなに私気にしてた? 内野君のことを」

「いつもそうだ! 春香ちゃん本当天然」

「そう言うのはシークレットにするものなの! 口軽いのが欠点なんだから」

「英語の授業とか、私達が立ち上げたESS同好会てディベートの練習しているあの表情とは正反対。本当にだらしない姿と大人っぽい姿の落差さが激しすぎ」

 津村らは西原さんを仲良くなるやいなや早速ESS同好会立ち上げ、英会話の練習をしているらしい。皆西原さんの語学力に惚れ込んだらしく英語の勉強を授業外でも興味持ったとか。西原さんの帰国子女力、本当に高すぎる。また須々木先生の株を上げるのに貢献していると言えるが。

 あれだけ口軽いと二人の仲はクラスで認定されてる、だから俺のことはもう男子には嫉まれない。諦めるだろう流石に。この点においては良い仕事してるぞ西原さん。

「おい、内野。お前今日西原と過ごすんだろ。西原泣かしたりしたら本気で顔殴るから」

 後ろからパワハラ紛いのことを言ってくるのは決まって元浦。もう西原さんは諦め、陸上部の後輩にアタックするらしいとの情報が。あれ以来も素直ではない。西原さんとの仲は求めてもまだ因縁は残ってる。でもその因縁ももう大したことないし負け惜しみ。

「ったく、もう。内野には勝てないや」

 そんな俺への砂足をかける元浦。相変わらず負けず嫌いな性格は前と同じだ。

 ——英語の授業でも西原さんの英語の受け答えも最近は明るいことが多い。俺も西原さんのお陰で最近は流暢な会話が出来ている。やはり女友達は作るべきだと思った。男子より。俺最強だな。

「じゃあ今日はこれでおしまい。明日はこのページから始めます——」

 須々木先生の授業が終わった。クラスには帰路を急いだり部活に向かう雰囲気でワイワイし始める。

「内野君、お待たせ。今日は約束通りカフェに行こう!」

 西原さんが嬉しい態度を示している。

「約束通りな、行こう」

 一度はフラれた相手、でも紆余曲折を経て今は二人で過ごす時間が多い。

 友達以上恋人未満とはこのことを言うのだろう。だから俺は西原さんが不快にならないように身だしなみをしっかりした。津村にもアドバイスを貰いながら。でもないと西原さんを不快にして元浦に殴られるしな。

「春香ちゃん、今日内野君とデートなの?」

 西原さんの友達が馴れ馴れしく聞いてくる。

「違うわよ、声でかい!」

 西原さんは顔を赤くする。

「いっつも内野君のことを語るのに?」

「違うわよ。今日は二人になりたいだけ!」

 やはり西原さんは子供っぽい。友達が出来ても。そして仕草が可愛い。そう言うお茶目な態度を皆受け入れている。優しいなこのクラスの女子は。

「内野君、今日は春香とデート?」

 津村が後ろから声をかけてくる。もう下の名前で呼んでる。

「春香ね、相当内野君のこと気にしていたみたいだよ。今日もカフェに行くんでしょ。私もあそこ行ったことあるわよ。学生多い割には落ち着いているし廉価だし」

「五月蠅い。大声で言うな」

 俺も恥ずかしくなって津村に言ってしまう。

「あの、冴恵ちゃん。ちょっと五月蠅いんですけど……」

 西原さんが顔を赤くしている。

「ゴメン。声大きかったね。色々応援したくてつい」

「はあ? 冴恵ちゃん無神経」

「西原さん怒らないで、これから行くのに」

「内野君はもっと黙ってて」

「何で俺まで巻き添えなんだ?」

 俺たちは漫才しているように見えてしまっている。

「でも、津村だって俺たちのことは気にしてくれてると思う」

「は?」

「何だよその態度、ぎこちないよ」

「バーカ」

 俺は西原さんに馬鹿にされてる、以前より馬鹿の仕方が上手い。柔らかい自然体だ。

「二人ともケンカしてるの? ケンカするほど仲がいいって言うしね」

「うるさい!」

 二人揃って声を挙げた。津村は笑っている。

「仕方ないね。二人で楽しんで来て。それに春香。先週のあの件、アレ内野君に見せて良いからね。私の方はOKよ。というより私達だけどね」

「津村、アレっていわれても分らないんですが……」

 何のことだろうか?

「内野君は気にしないでね。後で春香から説明があるから。私達は特別に許すからね。でも約束してね。他の男子にはこのことは言わないこと。分ったとしても。他の男子にバレると大変なことになるからね」

 津村が小声で俺の耳元でつぶやく。

「え、恥ずかしいな……」

 津村は西原さんに何を見せたいんだろうか?

「冴恵ちゃん嫌い。デリカシーないし」

「ゴメンゴメン」

「でも内野君はもっと嫌い、変態だから」

 完全に俺は加害者みたいになっている。こんな事が軽く言える程今はクラスで上手くやれてるんだろう。安心だ。

「じゃあ、冴恵、内野君。楽しんで来て」

 そう言いながら津村は他の女子グループと関わり始めた。俺と西原さんはその場に取り残された。

「冴恵ちゃん、少し強引だからね。恥ずかしいけど覚悟決めた。行きましょう。内野君」

 ——西原さんは照れくさそうしながら教室から出た。俺もそれに続いて出ようとする。でも男子の目線は感じない。無言で教室を後にした。



 学校から少し離れた喫茶店。大手チェーン店ではあるが良心的な価格で商品を出す、いわば学生御用達の店だ。

 この店舗なら俺でも値段が届く。今日は俺が奢ろう。

 店内の二階席に俺と西原さんが向かい合わせに座る。店には他校のカップルとか女子グループとかで騒がしい。少し恥ずかしい気がする。

 俺はアイスコーヒー、西原さんはオレンジジュース。相変わらず舌はお子様のようだ。

 俺は椅子にくつろぐ。

「何とか落ち着いたな」

「ここなら恥ずかしくないね。あれ以来、内野君と話すのも苦にはならない」

 西原さんはこう言う場所でもニコニコする。以前のようなギスギス感はもう露もない。自然体が出来ている。

「もう、お兄ちゃんはやめような……」

「そうね。でも相変わらず私達は小学生向けの児童本は好きだよ。今のああ言う小学生向けのシリーズ本は大人や高校生でも読めるように作っているんだよ」

「西原さんの友達も似たような好みなんだね」

「案外ね。冴恵ちゃんは物語本が好き。私は高校生向けの洋物のファンタジーとか薦めてる。私の友達も実はオタクだから。そう言う系の本とかも好きだよ。そう言う本の感想とか和訳とかもESS同好会で議論してる」

 西原さんって何気にオタクの気持ちが分るんだな。

「俺はあくまでも男向けラノベ専門。腐女子なんか興味も無いからな」

 男オタと女オタは合わない。

「それよりも津村が言ってたアレって何なの?」

「アレね。冴恵ちゃんはデリカシーない所があるから恥ずかしい。でも内野君にはこのことは報告が必要だからね」

 さっきからアレとか恥ずかしいとか意味が分らない。

「絶対、クラスの男子には言わないでね」

 そんなに見せたくない物なのか? 何だろう。

 西原さんはスマホを取り出し、操作をする。恐らく写真だろう。

 西原さんは照れながらスマホを見せた。そこには二人の水着姿の女子が映っていた。

 明らかに誰かは分かった。西原さんと津村だ。西原さんはオフショル系のフリフリのビキニ姿でトップスは胸を隠し、腕まで広がるフリフリで肩まで生地が強調されている。ボトムスはスカート系のフリフリ。一方の津村はオレンジを強調としたビキニでポニテ姿。津村の胸は大きく、トップスがはみ出そうで大きな谷間が出来ている。男子の手でも掴みきれない程の迫力がある。そして西原さんは持参したあの大きくて幼い浮き輪を抱えてる。浮き輪だけは子供っぽい。津村の方も浮き輪抱えてるがそっちは大きな赤い花柄の可愛い中高生向けっぽいもの。本当に浮き輪だけは対称的だ。

「これって、プールに行ったと言うこと?」

「そうだよ。念願叶ってね。冴恵ちゃん達と東京マリンランドに行ってきた」

 ——約束は果たせたようだ、安心する。それにしても西原さんのこの水着姿は美しい。

成人女性に間違えるほど大人っぽさが強調されている。同じ場所で小学生向けの水着を着用しお兄ちゃんお兄ちゃん言ってた幼げな姿からは全く想像できない。

「成人女性みたい、西原さん」

「それ言われた。私と冴恵ちゃんで歩いてたら、私は大学サークルの先輩ですかと。冴恵ちゃんが凄くはしゃぐから後輩と思われてしまったわ。派手な色だからそう見えたのね」

 西原さんにかかるとどんな水着でもどの年代の女性にも対処出来る外見だ。流石西原さんの美少女ぶり。

「こら、冴恵ちゃんの胸ばっかりじろじろ見ない。いくら大きくても」

 西原さんにまた変態認定されてしまった。

「でも浮き輪は子度っぽいけどそれだけがナンセンスだね」

「五月蠅い。この浮き輪も子供向けでも成人女性でも全然恥ずかしくないキャラです。そう言う浮き輪なの、結構成人女性でもこの類いの浮き輪つけてる人いっぱい見た。それに、水着だけど冴恵ちゃんと色々選んで見つからなくて海外にいるママに相談したら凄く喜んでくれた。ママのお下がりだけど送ってくれた」

「お前の親凄いバイタリティあるな」

「私のママね、本当に子供っぽい。ハチャメチャだし、本当に呆れるところがある」

 爆弾発言だ、西原さんも子供っぽいぞ。それより子供っぽいってどういうことだ?

「この写真ママにも送ったわ。そしたら凄く喜んでくれた。友達が出来たのねと。両親ももうすぐ二週間ほど夏休みで日本に帰ってくる。その時に冴恵ちゃんらに会いたいって。そんな私を何時も気にしてくれるママは頑張り屋で仕事はスマートに出来る。私はそんなママを心の底から尊敬しているわ。幾ら子供っぽくても」

 親子の信頼関係も厚いようだ。本当にやるな西原さん。

「さて、ここまでだね。写真は。本当はまだあるけど内野君には見せない、えっちだから」

 そう言いながらスマホを即座にしまい込んだ。まあ仕方ない。だから津村とかもアレとか言って分らないようにしていたんだな。確かに男子にバレたら大変だ。津村は気配りが上手いよな。

「私ね……言いたいことがあるの……」

 西原さんがかしこまっている。何の前触れなのか?

「冴恵ちゃんもデリカシーない所はあるけどさっきの写真のこととか色々気遣いは上手いし、この時のためにわざわざ配慮してくれたんだよ」

「どうしたんだ、急に」

 西原さんは首を下に向けて小声で話そうとする。

「私ね……この夏休みに、もう一度内野君と二人で東京マリンランドに行きたい……」

 もう一度行きたいってどうして?

「今度はね……私の……彼氏として」

 俺はドキッとした。

「そ、それって、もしかして……」

 俺はまだ信じられなかった。

「内野君はプール抜きで、偽兄妹抜きで接したけど私にも優しいし、私の事分ってくれるから安心できる。私ね、彼氏が欲しかったの。友達と同じぐらい」

「俺で良いのか?」

 西原さんは俺の方を見てにこやかに笑う。

「うん、内野君が好きになった。一度フッた自分が恥ずかしい。もちろんLoveね。Likeではなく。あの水着着てLoveを極めたい。そして前行けなかった洞窟のプールに行こうね」

 どうしていいかは分らないが、俺は照れくさくなった。

「俺でよければ……もちろんだよ」

 これでカップルだ。人生何があるか分からないな。

「嬉しい、両想いだね。でも調子乗って変なことは考えないでね。親が帰国したらほぼ確実に内野君も両親に呼び出しを喰らうかもね。私は一度フッて弱みを握られ偽の関係になってそこから本当の恋愛関係になるなんて、運命はいたずらだらけだね」

 こんな子供っぽい、でも本当に可愛いクラスメートを彼女にして一緒にプールに行けるなんてリア充度一気に上がった。俺は西原さんに喜ばれるような体になろう。ランニングはこれまで通り続けて。でも西原さんの許容範囲でオタクは続けていく。オタク向けの媒体は楽しいから。リア充になっても。

 そう思いながら俺はアイスコーヒーを飲み干した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

帰国子女の美少女西原さんは、小学生に変装してプールに行きたい @sumiyosinatsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ