第11話 俺は、クラスの天敵リア充男子に復讐を果たす
翌朝、俺は校門前にいた。
誰も登校しない七時頃、校舎玄関にタフな姿でいた。体育の授業で使うジャージ。いわゆる体操服。元浦も朝練のはず。うってつけだ。
「彼奴、本当に来るのか?」
——俺はそわそわしている。準備は出来ている。と言う間に元浦が部活の服装で来た。
「どうか、覚悟決まったか?」
嫌らしい態度でニヤつきながら俺を見下す。
「何で朝から体操服なんだよ? 何か呆けてるのか?」
「俺は今でもランニングが日課だからね」
「馬鹿な事してるな。陸上部辞めてランニングか。まあお前居場所ないからな」
やはり嫌みたっぷりだ。
「それよりどうなった? どうする? 西原のこと」
俺は弱きの態度を取る。悟られないように。元浦は自信たっぷり。
「俺は前にも言ったけど、手粗なことはしたくない。俺はまだあの恥ずかしい写真は友達同士にしているからな」
何とも勝ち誇った言い方。
「さあ、どうする?」
「何?」
一旦弱きにつぶやく。
「まだ分からないのか、言っただろ。絶交して写真消すのか、写真は残す代わりに知り合いにとどめるか」
「俺は、後者だ。知り合いでも西原さんとは関わりたい……」
「決めたな。じゃあ写真は消さないぞ。仲良くはしないと約束するか?」
来た来た。トラップを準備する番。
「でも、仲良くしたいんだ。あの時西原さんと写真は撮った。その証拠も全て出すし、俺はこの写真を消すから元浦、どうしてもお願い……」
これなら文句ないだろ。
「全部写真くれるのか。まあ良い覚悟だ。そこまでしてくれるならお前も本気だな。でも内容は俺が考える、先ず態度を示せ」
「どの程度、許してくれる?」
「それも考える。先ず写真をよこせ」
勝ち誇った態度を出している。やはりまだ気付いてないし、このタイミングに同意してもらい第一関門はクリアーした。
「俺のスマホ出すから、そっちも出してくれ」
ここから第二段階だ。
「何でだよ」
「きちんと送付したのを確認したいんだ。かなりまずい内容だから確認したくて」
「良いぞ。きちんとしてるな。お前が取った写真を早く見せろよ」
俺はスマホを出し、マリンランドでの写真を元浦に見せる。西原さんの水着での笑顔、浮き輪につかまり頬を膨らませているところ、二人でジュースを飲んでるところなど何枚も用意した。これだけあれば問題無いだろと思う。
「それにしても、西原はかわいいな。小学生の水着着てても似合うわ。元が凄く美人だからな。やっぱり隠し撮りではなく素顔見て最高だわ。良い写真だ。お前本当に犯罪だな。成人になったら手が後ろに回るぞ、お前の犯罪のためにこんなかわいい水着着てくれたんか、西原も本当にこんなロリコンのために可哀想だな」
何だこいつ、俺のことを貶すがニヤついて見てるだろ。こいつもロリコンだな。
「じゃあ、スマホ出して」
そう言いながらお互いにスマホを出し合い、元村に写真を一式送付した。
俺のスマホは送信中だ。
元浦のスマホから着信しましたとメッセージが来た。
どうやら受信は成功した。
今だ。この瞬間に全てをかける。
俺はとっさの行動に出た。
俺は瞬間的に、元浦のスマホを奪い取った。
元浦は一瞬怯んだ。この数秒の怯みが重要だ。
「何するんだ! 返せ! お前何様だ!」
その瞬間俺は二つのスマホをポケットにしまい込み全速力で校舎の外に出る。何とか二百メートルは全速力で走り抜く。そこからだ。
元浦は短距離型。百メートル走は得意、二百メートル走が限度。そこまで体力を消耗させればもう勝ち。二百メートルに全てをかける。
俺が全速力で駆け抜けると後ろから元浦が追っかけてくる。
こうあってほしかった。俺の罠だ。とにかく元浦は長距離が苦手。だからバテるまで追い込んでやる。俺はそのために毎日体を鍛えていた。西原さんにも風呂で堅い体を認めてくれた。嬉しかった。元浦は俺が陰で努力してたなんて知らないだろうな。
「お前、何汚いことしているんだ!」
元浦は全速力で俺に詰め寄る。確かに元浦は速い。隙を与えても直ぐに追いつて来る。少しだけ元浦に追い詰められた。
俺は元浦を後ろで見ながら挑発する。
「ヤダよ、スマホを取り返してみろ!」
俺は元浦を挑発する。二百メートルは越えた。ここからが俺の本領発揮だ。ここから俺はマイペースでの走りに変えていく。元浦は瞬発力を使い果たしたせいか、足が乱れ始める。
「ここまでおいで、短距離得意の元浦よ!」
俺は元浦を挑発している。
元浦の走るペースは極度に落ちる。ここからは元浦に合わせる形で走り抜いていく。
やっていることが小学生と同じ。人の物を奪い取り逃げ出す。相手を翻弄する。
——もう学校が見えなくなった。俺は道路を走り抜く。途中歩道橋も渡り、川の土手まで向かっている。
「おい、お前、やることが汚いぞ!」
元浦が声を挙げる。
「お前だって、俺たちのプール姿を盗撮したくせに何が汚いんだよ! それはこっちのセリフなんだよ! お前も立派な犯罪者だろ!」
今まで元浦に馬鹿にされてたうっぷんを全てぶつける。一気に言いたいことを言い続ける。とにかく顔を真っ赤にして俺に追いついていく。しかし長距離になれてない走り方をしている。走り方見てて分る。
「おい、どうした、長距離は苦手か? 陸上部で何練習してきたんだよ? 真面目に練習してたら追いつくだろ? それとも部活辞めた俺よりも練習をろくにしてないんだろ?」
元浦は図星なんだろうな? 五月蠅いとか黙れとか大声が空しく響き渡る。
——四キロぐらい走ったところで元浦のバテ方は強烈になっていく。俺はまだ大丈夫だ。
努力は報われた。毎日走ったことは無駄ではない、無駄どころかどんでん返し。こんな形で元浦を追い詰めるなんて夢にも思わなかった。
「学校に戻るぞ!」
最後の挑発をかける。俺はまだ大丈夫だ、ここから最短のルートでの学校の道を知っている。その道をひたすら引き返していく。
次第にラッシュ時間になる、道路は車や歩行者が多くなる。上手く交わしつつ校舎に近づいていく。
「まだ追いつかないのか! 全力で走って追いつて見ろ!」
生徒の通学中の前で元浦を挑発した。これがやりたかった、どれだけ元浦は俺に恥を掻かせたか。こうして生徒のまで元浦の見苦しい姿を露わにしている。
元浦は完全にバテている。津村の言うとおり、こいつは都合の悪いことは逃げる質なんだろうな。
——校門の前まで来た。通学する人で賑わい、多くの生徒に見られる中で恥をかきながら元浦を追い詰めることに成功した。
「おいどうした、陸上部での成果はそんなモノか? 追いつけなかっただろうがよ」
いい気になって俺は元浦を怒鳴りつける、周りは注目している。
元浦は、皆に見られ、恥かいている屈辱を味わってるんだろうな。プライドもズタズタなんだろうな。見下してた奴にこんな追い詰められるなんて考えもしなかっただろう。
でもいい、それが今まで俺にしてきた事なんだから。俺は余裕を持ってスマホを取り出し元浦の恥ずかしい姿を撮影した。元浦はもう恥と追いつけない屈辱で俺を構えないんだろう。この姿は大きな弱みになるだろう。
これでいい。借りは返した。
——ちょうど校舎の玄関まで来た。俺はここで足を止めた。元村もハアハア言いながら追いつくのがやっとであった。
俺はこのまま校舎内に入り、元浦をさらに追い詰め教室まで追いかける。皆にこの姿を見られてる。
「教室まで追いかけてみろよ!」
俺はそう言いながら一段抜かしで軽快に上がっていく。俺のクラスは二階だ。階段を上ればすぐだ。何とかクラス内まで辿り着いた。
——教室に入り、足取りと止める。元浦も追いつく。
「この野郎、俺に、恥を、掻かせ、やが、っ、て……」
元浦は凄い息切れしながら俺に言う。皆が見ている、これでいい。俺は毅然とした態度。まだ体力は残っている。毅然とした態度を取る。
「元浦、俺に何してきたか分かったか。俺の気持ち分った?」
俺は、そう言いながら奪った元浦のスマホを返す。元浦に差し出した。
元浦はふて腐れ、悔しまぎれに奪い取る形でスマホを取り、俺を睨んだ。
「俺に恥掻かせやがって! もう怒った。写真をばらまいてやる!」
登校してきたクラスメートが元浦に注目する。
「やるならどうぞ。やってみろよ。この黒板にでも貼り付けろよ」
俺は堂々とした態度で睨みを利かせ元浦を見つめる。
「俺は良いよ。お前に、クラス全員にロリコンとか変態呼ばわりされても」
「お前、バカだな、開き直ったのか?」
「うん、そうだよ。早くやれ。貼り付けろ、例の写真。でもな……」
「でもって、何だよ……」
俺はこの言葉が言いたかった。
「この写真で西原さんが傷ついたら、お前のこの恥ずかしい写真も陸上部に、全校生徒に報告してやる。良いのか?」
俺は静かながらに、力強く自分のスマホで元浦のみっともない姿を差し出した。元浦がさっき校内で息切れしてた姿を。
「こんなの陸上部にばらまいたらお前は恥掻くぞ。お前こそ陸上部に入れなくなるかもしれないぞ」
「隠し撮りかお前! 汚いぞ」
元浦が本気で大声でキレた。
「汚いだと? それはそっちのセリフだ。俺と西原さんを東京マリンランドで盗撮なんかしやがって! よくあんなこと出来たな? あれバレたらお前は手が回るかも知れない。あそこは厳しいからな。報告してやって良いんだぞ。それに比べたらこっちの方がマシだ」
元浦は言い返せなくなった、これだけ責めてるのに。
「俺の方が、俺の方が、西原のことを想ってる。お前なんかより魅力的だ」
元浦のムキな態度に俺はカチンと来た。
「お前は、西原さんの何が分るの?」
「俺は西原に好かれるために、努力してきた、勉強も。運動も。とにかく出来ることを伸ばすために努力してきた、西原に好かれるために……」
「お前のことが分った、かっこつけたいだけ……」
元浦は、その瞬間、歯を食いしばり、俺に突っかかろうとした。
そして俺はその拳を右手で食い止めた。
「何なんだ、お前。俺に恥掻かせる気か?」
「お前は、西原さんが好きじゃないんだ。西原さんのステータスが好きなんだよ」
またしても図星だからなのか、突き上げた右手から元村の力が抜けていく。
「じゃあお前は、西原さんの好きなものは何だと思うか?」
元浦は悔し紛れに暴力的に答える。
「好きな物って何だよ?」
「じゃあ言い方を変えよう。西原さんはああ見えて悩んでるように見えるか?」
「はあ? 悩んでるわけないだろ。彼女は完璧なんだよ」
「やっぱお前は西原さんの事を上辺しか見てないな……」
これで分った。元浦はやっぱり自分の立場を利用するために西原さんを彼女にしたい。こんな奴に彼女なんかにさせたら西原さんは可哀想だ。
「じゃあもう一度聞く。西原さんは凄く悩んでるんだ。ずっと寂しかったんだ。彼女帰国子女だろ? その間やり残したことがあったんだ。ボランティア一緒にやってて彼女の悩みとか辛い部分とかに俺は向き合ったからな」
「そんなの嘘だ!」
俺は怒り心頭だ。
「嘘じゃない! お前は何も知らないんだ!」
クラス中に響く大声を出してしまった。周りは益々注目している。
「じゃあ、西原は何が好きなんだよ。答えろよ……」
力を抜きつつ、元浦の目を見て冷静に答える。
「小学生女子だ」
「何それ、小学生女子って。西原は何か勘違いしているんじゃないのか。お前のせいで」
想像力が無いわこいつ。まだ俺が丁寧に説明しないと分からないのか。
「小学生女子になりたかったんだ……そしてやり残したことをしたかったんだ……」
「何がだよ?」
「そう言うことなんだよ。お前なら分るはずだ。お前がやろうとしていることがまさに西原さんが一番やり残したことだ」
周りのクラスメートが注目する。だから西原さんの水着のことは言わない。口が裂けても絶対に黙る。元浦なら想像できるだろう、ここまで言えば。俺は自分がロリコンだとか変態言われてもいい。だけど西原さんは。
「ボランティアでも、西原さんは小学生と関わるのを凄く楽しみにしてたんだ。もの凄く楽しそうだったんだ」
「そんなのウソだ!」
まだ元浦は強情張るのか、ここまで言えば元浦が可愛そうになった、想像力のなさに。
「ウソじゃない。証人として須々木先生に聞いてみろ。小学生と関わるのが凄く楽しそうなのを見てたわ! 西原さんの笑顔を見せたのは俺と須々木先生の前だけだ!」
俺はまたしても本気で怒鳴りつける。その時西原さんが突如俺たちの前に現れた。
「もうやめて! 今の話聞いていた!」
——血相を変えて、西原さんは大きな声を出して俺たちに向かって叫んだ。
周りのクラスメートは更に固まってしまう。あの西原さんが、大声出して自分から積極的に声を出すこと自体本当にあるのか。
「私が、私が悪かったわ!」
西原さんは早口で俺たちに向かって言葉を発した。
徐々に登校してくる半分近くのクラスメートが西原さんを見つめる。
「私、内野君に酷い事をした……」
少しずつ落ち着きながら話してくる。
「……大丈夫か、西原さん。俺、凄く酷い事言ったのに!」
周りのクラスメートは完全に黙り込んでいる。
「私は、大丈夫……昨日は風邪引いただけ。一日考えてて、翌日に熱出した。でも私はもう大丈夫だから!」
顔を赤くしながら、病み上がりの表情で一生懸命取り繕う西原さん。
「私ね、内野君にそっぽ向かれて分ったの……私、内野君を利用してしまった……あんな恥ずかしい役をさせて、私のわがままのために、そりゃあ怒るよね……」
何か勘違いしている、西原さんは。
「ちがう西原さん、誤解だよ。俺はただ西原さんを喜ばせたかっただけ。楽しく一緒に過ごしたかっただけなんだよ! 俺がどうなっても!」
何言ってるのか周りには分らない。一体何が? 何おかしいこと言ってるの? 周りからヒソヒソ声が聞こえる。皆混乱している。二人の状況に対して。
「どう考えても、私が妹に変装するのおかしいよね。私は、小学校の頃に渡米して、どうしても小学校でやり残したことをしたいために、身勝手なわがままでお兄ちゃん役をさせてしまった。あんな恥ずかしい立場をさせて言われるんだったら、私お願いしなければよかった! どうしてもあんなに怒ってしまったんだもの。当然よね……」
西原さんは自分がしたことをクラスメートのまで暴露する。
「西原さんは悪くない! 悪いのは俺だ! 俺がロリコンだから!」
段々クラスは登校してくる人で増えてくる、クラスほぼ全員俺と西原さんの態度に注目している。ここまで大声で言われたらもう隠し事ではなくなった。
「お兄ちゃん? 西原さんに彼奴何させたの? おかしい?」
そんな話が聞こえてきた。
「私はどうしても小学校の時にプールに行って水着を着たかった。どうしても私は小学生向けのかわいい水着を着ることに我慢できず、内野君にお兄ちゃん役をやらせてショッピングセンターで水着を買うことに付き添ってもらい、プールにも行った。そんな恥ずかしいことをして色々クラスメートから内野君だけ色々言われたりすればそりゃあ怒る。私がバツを受ける。もうこの関係は終わりにする。内野君、本当にごめんなさい……」
——西原さんは全てを暴露した。本当に良いのか西原さんの高校生生活は。段々西原さんが可愛そうになってきた。
「何言ってるの? 俺がロリコンだから西原さんにあんな水着を着せさせ、プールに行ったんだよ。俺は西原さんを幸せにしたかった。ボランティアで一緒に活動して。それだけなんだよ。俺は西原さんと一緒にいたい!」
「……私ね、本当に楽しかった。内野君と楽しめて悔いは無い。もう私は自分で自分を見つけていく。友達も自分で作る。苦手なクラスメートにも自分から話していくから。それと内野君とは友達から、一からやり直したい」
元浦が罰悪そうな顔つきをしている。俺の方を見て悔し紛れな顔をしている。読みが外れたんだろう。予想外の展開になったこと、自分の持ってた弱みが本人に打ち砕かれでもうどうにもならないんだろう。
もう元浦の負けだ。俺はこれ以上何も言わない。それよりも誤解している西原さんを説得させたい。俺はゆっくり西原さんに話しかける。
「西原さん、俺、やっぱり一緒にいるのが楽しかった……そんな偽兄妹とかでなく、心の底から楽しかった。一時的に失ってた人と楽しむ感覚を教えてくれた。俺は西原さんに本当に救われた。だからこれからも純粋に仲良くなりたい。ただそれだけ。津村の件も一緒に話せば分ってくれる。だから……」
精一杯西原さんに言った。
西原さんの涙腺は崩壊しそうだった。
——そんなところに津村が登校してきた。津村はきょろきょろしている。
「おはよう。どうしたの輪になって」
津村が来た。絶好のチャンスだ。皆が注目している。俺は心を決めた。
「津村、おはよう。昨日のアドバイスありがとう。俺の方は、元浦の方が何とか解決できた。でもな……」
俺は覚悟を決めて言う。元浦はもう完全に縮まっている。
「俺の方はいい。前を見てみろよ。何か言うことないか……」
津村の目先には目をしょぼしょぼさせた西原さんがいる。皆注目だ。
「俺は津村との約束を守った。西原さんも昨日はタダの風邪だったみたい。安心して。だから津村も言うべきことをしっかり言えよ」
津村は沈黙した。状況は掴めたそうだ。二人の目線は合っている。もう津村もこれ以上は隠しごとが出来ないだろう。クラス全員が沈黙した。
——津村は腹を決めて、話しかけようとした。皆が注目している。
「西原さん……」
津村は震える声で話した。
「私、今まで隠しててゴメン」
西原さんは沈黙する。
「皆にも隠しててゴメン」
クラス全体がまた沈黙する。
「私は……」
津村は、覚悟を持って話す。
「中学時代、いじめられていました……」
その本人の発言にまたざわめく。津村の口元は完全に震え上がっている。
「私は西原さんが小五の夏海外転勤した後、またクラスで一人ぼっちになりました。小六になってもずっと。中学生になって何とか友達グループは出来ました。でも私はクラスで失敗してしまった。それがボス格の女子に嫌われて私はずっと虐められました。トイレで殴る蹴る、水をかけられ、クラスで無視、誰も分ってくれない。それから人が怖くなり私は家から出ることが出来なくなりました。そして登校拒否をしました、どうしても学校に行きなさいと親から言われ、中三の時に学区を変えて通うことにしました。その時に内野君に出会いました」
また周りが謎めいた表情をする。津村は振り絞り、今にも泣きそうな表情になる。
「内野君は陸上部のエースで勉強もトップ、そんな内野君に憧れて同じ学校に行きたい、もの凄く勉強頑張ってこの学校に入学しました。そして自分を変えたい、そう思いフードコートでアルバイトしました。それで皆と接することが出来て、私は色々しんどかったけどファッションや髪型の勉強もして、クラスでも皆とどうしたら仲良く出来るかとかも考えてきました……」
人は努力すれば変わる、津村は本当にしんどかったんだ、このクラスで再開してこんなに頑張ってたのに俺は何で冷たい態度取ってきたんだろ。恥ずかしい。
「私はこのクラスで西原さんと再会しました。私は西原さんに嫌われたらどうしよう、昔の自分に戻ったらどうしよう、過去の姿をさぐられたらどうしようと恐れて西原さんを避けていました。だから、私は内野君と西原さんが接触することを進めて突き放しました」
——段々津村の声が涙声になっていく。そして西原さんの涙腺が崩壊した。
「……でも、本当は西原さんと仲良くなりたい、一緒に楽しいことをしたい……私はイジメを受けた過去を恐れ、暗かった過去を恐れ西原さんに酷い事をしました。私は西原さんの気持ちに応えることが出来なかったことを、内野君に思い知らされました……」
津村も後悔しているんだろう。素直になれず、過去を恐れてたことを。もう津村の目からも大粒の涙がこぼれ落ちている。
「ごめんなさい。西原さん……私、本当に西原さんを傷つけた。私でよければまた小学生の時みたいに好きなことを共有し、楽しい時間を過ごしたい。私も努力する、だから、もう一度西原さん……仲良く……なろ、うね……」
津村は涙でもうマトモにしゃべれない。津村は無理をしていたんだ。明るく振る舞い、クラスメートに誰にでも接するようにしていた。でも本当は少し不器用で涙もろくそして一人の人を大事にする、そんな優しい穏やかな津村なんだ。中学生の時の無理をしない、自分らしい、そんな懐かしさを感じるような一人の女の子のように見えた。
「津村さん、何で謝るの……」
西原さんも涙を落としながら泣いている。
「津村さん、悪いのは全部私だよ。私、津村さんとの約束を破ったんだから……楽しみにしていたプール、行く事が出来なくなった。それどころか、内野君を利用して自分だけプールで楽しんで来たんだから。それにイジメや登校拒否してた過去があったなんて、そんなことに寄り添えなかった私が悪い。謝るのは私の方なのに……」
二人はこれでもかというほど泣きじゃくってる。
「西原さん、全然悪くないよ。海外転勤、羨ましかったよ。西原さん、凄くしっかりしてるよ。内野君から全て聞いたよ。親の海外転勤を応援して国内で一人でも生活が完璧に出来てそれで英語もペラペラ。凄く成長したよ。逃げてばっかりの私より……」
二人とも自分の罪の深さ、互いを褒め合い自己否定に走ってしまってる。もう止めることが出来ない。
「もう一つ津村さんに謝りたい。フードコートで嘘つきました。私服が苦手だから小学生が着るような服装と言ったけど、あれは私が小学生になりきりたくてわざとしました。内野君にまで兄役になってもらって。内野君、津村さん、本当にゴメンナサイ。私は津村さんとも内野君とも仲良くなりたい。津村さんとは昔のようにまた仲良くなりたいと内野君にも相談した。また図書館行ったりプールに行ったり、沢山いろんな事をしたい……」
西原さんは声高に言う。そして笑顔になる。そして津村は西原さんを抱きしめる。
「うん、行こうね。カフェでも図書館でもプールでも。そして西原さんと一緒に英語の勉強もしたい! もう一度小五の夏からやり直そうね!」
津村の顔は完全に子供みたいになっている。西原さんの涙で津村のカッターとベストは涙まみれになり、津村の涙で西原さんの髪の毛は濡れている。
——とても温かい空気がクラス中を覆っている。
そしてクラスメートの女子が拍手をした。
すると女子全員が拍手し、男子も徐々に拍手をしていた。このクラスは優しさと温かさに包まれている。一人つまらなさそうな元浦と、何も話せなくなって混乱している俺以外は全員拍手をしている。その元浦の表情も諦めがついていたような表情だった。もうこの空気では自らの敗北を認めたのだろう。
「二人とも、言いづらいことをよく皆の前で言ったね。頑張ったね」
——津村の女子のグループの一人が二人に近づきとても温かい声で励ます。
「私もね、西原さんと仲良くなりたいと想ってたんだよ。顔も綺麗だし、身だしなみもしっかりしているし、英語もしゃべれる。そんな西原さんと私達仲良くなったらもっと私達は楽しくなるって」
「そうだよ。このクラスには冴恵を虐めたり西原さんを仲間はずれにするような人は誰もいない。皆本当に仲良くなりたいと思ってたし、私も本音が言えて凄くうれしいよ。冴恵、よく辛い過去に打ち勝ったね。そんなことなら無理せずちゃんと打ち明けてくれたらよかったんだよ。私達は冴恵の味方だしね。もしそれでイジメに遭っても私達は冴恵を守る」
周りの友達の涙腺も崩壊寸前だ。
「いいんだよ。冴恵は無理して陽キャラになったり綺麗になろうとしなくても。素の状態の優しい穏やかなそんな冴恵が好きなんだよ」
友達らも優しく津村と西原さんの髪の毛をなでる。女子はこういう時にとても優しく出来る生き物なんだなと思った。
温かい時間が流れ続けていた。
——教室の扉を開けて須々木先生がやって来る。
「はーい、皆おはよう!」
皆が津村と西原さんを注目している姿に須々木先生は唖然とした。
「皆どうしたの、何かあったの? 津村さんと西原さんを囲んで」
「先生、ちょっとした寸劇の練習をしていたんです! 二人は」
男子生徒が勢いよく須々木先生に言う。もう二人とも泣き止み津村も何時もの明るい表情を取り戻していた。
「どうしたの二人とも。何で泣いてたの? 涙の乾いた後が目立ってるよ」
「ちょっと良い事がありました。安心して下さい。良い事なので。何時ものようにホームルーム始めて下さいね!」
一人の女子生徒が声をかけ、何時もの空気に教室は戻った。
もう西原さんは大丈夫だ、これからは津村たちと共に楽しい学校生活を送ることが出来るだろう。
「そう言えば、内野君も元村君もジャージ姿だけど二人とも何かあったの? もしかして寸劇の練習に関わった?」
須々木先生の突っ込みは強烈だ。そう言えば着替えてなかったな。俺も元浦も今日は一日ジャージ姿で授業を受けた。マジで他の先生からも笑われたり目立ったりしたけど。やっぱり俺は周りが見えてないな。笑うところではないけど。
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