第8話 俺は偽兄として、偽妹と一緒にレジャープールを楽しむ


 ガチャン。早朝の臨時バスが目的地に着きバス出口の扉が開いた。

「着いた!」

 都心から電車を乗り継ぎ一時間弱、最寄りの郊外駅ターミナルから発着する臨時バスに乗り到着した東京マリンランド。

 入口前のバス停からの外観は、まるで巨大体育館みたいだ。この中が温水レジャープールだろう。その奥には遊園地らしきアトラクションも見える。

 既に家族連れや若いパリピらしき人で朝早い開始時間前から既に行列。

 俺と西原さんはその行列に並んだ。

「春香、本当に無邪気な服装チョイスしたな。今日のために」

「うん、お兄ちゃんもこう言う服装好きでしょ」

 今日は朝からスイッチが。トップスは桃色を基調としたフリフリのシャツで、胸元に英字のロゴ入りの子供服。ボトムスは青いハーフパンツ。この服を着用しても西原さんにはぴったりだ。本当に無邪気な小学生そのものだ。

「早く入りたいな、待てない」

 西原さんは子供みたいな笑みでうずうずしている。完全に周りにいるガキと同類。

「お前はガキか」

「お兄ちゃんって。もうじろじろ見ないでよ。妹をじろじろ見るなんて怪しいよ」

 こんな時にまで時折ウザ絡みする西原さんが可愛い。

「そう言えばチケットは?」

「あるよ。もう前売り券買った。これ」

 西原さんは俺に前売り券を渡し、立て替えていたお金を渡した。気が利く。

 ここまでの電車バスの中でも兄妹のフリをしながらの移動なので色々話題や態度などに結構苦労した。西原さんはもうその時から子供になり切った無邪気な態度だった。

 ——そう言ってる間に、行列が動き出した。

 大行列だが、進むのも早く、ゲートを通り抜けていった。ゲートはつい最近事件があったせいか手荷物検査が厳しかった。

「完全に成田空港のゲートと同じだ、厳しさは」

 西原さんはそうつぶやいた。経験があるからそう言うように言えるんだな、なるほど。周辺も見回りが十分に厳しい。俺たちの偽兄妹姿も怪しまれないかどうか滅入るが。

 ゲートをくぐり抜ければ、直ぐにプールの入口。そして地下の更衣室に向かう。

「じゃあ待ち合わせはここで」

 それを言って更衣室に各々向かった

 ——更衣室での着替えは男の方が早い。少し早かったか。しばらく待つことで西原さんがやって来た。

「お兄ちゃん、お待たせ!」

 西原さんはあどけない、まるで子供のような笑顔で俺の方を見た。マジで可愛い。犯罪的に。西原さんが本当に小学生女子に見える。以前ショッピングセンターで購入した無邪気な水色のワンピース姿。俺の理想的な妹の姿。俺の脳内では百点満点だ。

 西原さんの手には右に小さなポチバック、左には以前見かけた大きめの浮き輪を持っていた。

「早く行かないと、直ぐに場所取られるよ」

 西原さんの無邪気さに気を取られ、俺は西原さんを先頭に階段を上っていった。



「うわー! めっちゃ海みたい!」

 マリンランドは、年中解放の屋内プールからなるエリアと、夏期営業の屋外プールの二種類のエリアから成り立つ。まだ夏前なので屋内プールのみの営業である。

「あ、流水プールと増波プール! こんな所で遊んでみたかったよお兄ちゃん。この場所開いてるから早く取らないと!」

 俺たちは無料席を確保した。だが休日のせいか次々に埋まっていく。ドンドンお客さんが入ってくる。

「浮き輪も膨らまそう!」

 西原さんはそう言うが、無料の空気入れはもう既に大行列。更に言えば大きな浮き輪やシャチなどの乗り物など手間かかるのを皆膨らましている。

「並ぶのはしんどいな、口で膨らませようか?」

「えー、これ大きいけど? お兄ちゃん膨らましてよ」

 ぐいぐい迫る西原さん。まったりした目つきで俺にすがっていく。本当にこの表情、王道の妹の表情。うちの妹とは正反対。こんな表情は彼奴には出来ない。まさに天使。

「もう、仕方ないな、春香は」

 俺は西原さんの持っている大きな可愛い浮き輪を口で膨らました。

 ふう、ふう。

 俺は力一杯膨らまし、膨らみ切るまでには息が切れていた。

「結構疲れるな。これ。どうやって何時も膨らましているの?」

「私いつも息で膨らましているよ。膨らますのはしんどいけどそれでも膨らまし切ったら凄く気持ちいい。口で膨らますのは好き。お兄ちゃんは膨らますのは早いね」

 え、この空気栓、西原さん口をつけたのか。それわざと俺を仕込んでないかと疑う。それとも間接キス? あり得ない。これは本当にデートを意識しているのか?

「何赤くなってるのお兄ちゃん。早くプールに行きましょう!」

 ちょうど遊泳開始の放送が流れ、俺たちはプールに向かった。

 ——俺たちは歩いている途中、西原さんの水着姿に目を奪われる。

 西原さんがあの時選んだ水着、似合っている。中身は高校生だが童顔なのでジュニアサイズでも似合っている。水色のストライプの無邪気な色合いと、小学生にしては大きな胸、それを強調する胸元のリボン。刺激が強すぎる。周りを歩くビキニの女子高生なんて目じゃない。全国の兄貴もこんな可愛い妹を連れてプールに連れて行けるなんて夢にも思ってないだろ。実現したらラノベ百作品は作れるぞ。

「何じろじろ見てるの?」

「可愛すぎ。来て良かった」

 西原さんはまたしても頬を膨らませる。

「お兄ちゃん、こんな姿見たかったんでしょ。私の願い叶えてくれたんだから今日はお兄ちゃんを徹底的に虜にしてあげる」

「そうだな春香、入るぞ!」

 俺の方から、プールへ飛び込んでいった。

 ——俺が引導して入った、この屋内で最も大きな造波プール。

 屋内がすっぽり入りそうなほど大きく、造波の周りに流水プールが囲うように流れているので分かりやすい。

 俺が膨らませた浮き輪に西原さんを乗せて、その浮き輪の輪郭につかまって浮いている。西原さんと至近距離で見つめ合う。

「何、じろじろ見すぎ……」

「いやいや」

 俺は西原さんに詰め寄るが、興奮のあまりうまくしゃべれない。

「お兄ちゃんもこの浮き輪気に入ってるじゃない」

「そりゃあ春香が気に入ってるから。この絵柄マジで可愛いし」

「そうでしょお兄ちゃん。かわいい水着に浮き輪。最高!」

 ぎこちない。緊張しているのか刺激が強すぎるのか。絵に描いたような、ラノベに綴られるようなパーフェクトな妹だ。二次元ではない。

 互いに顔が赤い。なんで偽兄妹なのにこんなに意識するんだろう?

 そのときだった。

 大きな波が押し寄せた。ザップーン!

 あまりにも大きな波に、西原さんが浮き輪から転落してしまう。

「うわああ」

 俺は迷わず西原さんの手を持った。ザップーン。

 俺まで西原さんと一緒に手を引いて水中に潜ってしまう。

「うう、苦しい!」

「プッハーッ!」

 何度も波が高速で押し寄せる。大きくまた浮き輪から転落してしまう。流石マリンランドの設備。周りの人の興奮ぶりが凄い。俺と西原さんの声がかき消されてしまう。周りは人と浮き輪で凄い密集。

 俺たちは浮き輪に捕まっては何度も何度も流され、西原さんの体と接触してしまう。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん」

「ぷは、春香。また流されてしまう、ウワッ」

 西原さんの肩に触れ両手で肩を持ってしまう。そして揺れ動いてる。西原さんは浮き輪につかまっている。西原さんの瑞々しい体をもろに触っている。

「お兄ちゃん、変態にもほどがあるよ!」

 春香を押し倒し捕まる、肩にとどまらず、もうお腹の辺りとかを抱きかかえてしまう。水着越しの凄く柔らかい感触を感じる。

「もう私が見動きが取れない、また転けるぅう!」

 次の大きな波で西原さんはまたドボンと波に呑まれる。そして浮き輪に捕まる。

「幼女大好き変態お兄ちゃん! でも良いんだよ、妹だから」

 西原さんの顔は赤く照れている。完全に妹を演じてる。これが他人ならもう完全に監視員に捕まり手が後ろに回ってる。そんなことも西原さんは許容してくれている。神だ。西原さんの水着もじろじろ見続ける。生きてて良かった。

「波、止まったね」

 増波プールの波が止まった。それと同時に一斉にプールから人が引く。

 色とりどりの浮き輪と鮮やかな老若男女の水着、その鮮やかな色が目に入らないほど西原さんの水着とその体の感触が残っている。破壊力が半端ない。周りはリア充にサングラス姿のパリピだらけでも全く気にならない。

「この変態、次のプールに行きましょ!」

 ぎこちない姿から、造波を機に俺と西原さんの偽兄妹仲は深まった。流石は造波効果。



 次に俺たちがやってきたのは、流水プールだった。

 いつのまにか西原さんの方から俺の手を握るようになった、西原さんは無邪気に右手で浮き輪を持ち、左手で俺の手を握る。マジで西原さんの手は柔らかい。俺は気付けば生まれて初めて同年代の女の子の手を握った。

「妹に手を繋いでもらうお兄ちゃん、傑作だね!」

 西原さんは冷やかしにまで来る。

「うん、妹最高!」

 ドボン!

 俺と西原さんはよそ見してプールに落ちた。手を握ってたので俺も一緒にドボン。

「そこの兄妹、前を見て歩きなさい!」

 監視員に怒られてしまう。

 でも気にすることはない。さっきの造波プール同様、西原さんが浮き輪の真ん中に座り俺が後ろから押していく。

「わーいわーい」

 無邪気に浮き輪越しにはしゃぐ西原さん。俺は流れに従い、西原さんの手を握り西原さんを前に引っ張っていく。水の流れで西原さんを押すのに力は要らない。

 今度は俺が浮き輪につかまる。浮き輪はふにふにして気持ちいい。

 可愛いキャラクターと西原さんの温もりにくすぐられる。

「お兄ちゃんったら、せーの!」

 西原さんは無邪気に浮き輪をひっくり返す。

 ドボン! まただ。今日何回目だろ、まだ朝なのに。

「お兄ちゃんのえっち! また私の体を触ってる!」

「分らなかったんだよ!」

 俺は西原さんの水着越しの体をあちこちに触れ、胸と尻以外の部位をひたすら触っていく。西原さんの事を至近距離で見つめても怒られない。これだけ触っても西原さんは嫌な顔しない。それどころか俺のことを受け入れてくれてる。兄妹ではなくもう彼氏彼女だろ、ここまで過激なことしていれば。こんなきわどい兄を妹は許してくれるのか。本当に心が広すぎるよ、この偽妹は。

「お兄ちゃん、流水プールでえっちな事しまくり! 私は気が広い妹だから、血が繋がってるから許すけど私の方も許してよ!」

 何をしてくるんだろう。すると西原さんが、浮き輪を持ち上げ、俺をその輪の中に入れようとした。そしてその輪の中に西原さんと俺が入ってしまった、超至近距離で密着した状態で。

 西原さんは、輪の中で口を曲げて妹らしきしぐさをした。上目で俺の方を見上げる。

「理想の妹になれたかな? これ着てこの浮き輪つけてると本当に小学生になり切ってる感じになれるし、変身少女に憧れる幼年の女の子の気持ちも分ったわ」

 俺と西原さんの距離は近すぎ。輪の中で流れ続ける。西原さんの胸は大きく、いくら強靱な小学生向けのワンピースと可愛い幼げなリボンの隠れてるところから谷間が見える。凄い過激だぞこれ。もう男性ホルモンもどんなに分泌されてるだろう今日。

「春香、妹上手すぎ」

「うん、嬉しい! 私の本当になりたい姿になれた気がする! お兄ちゃんへのサービスはまだまだするよ」

 時折、妹を演じる割には、俺が性欲に飢えている、高校生の同級生としての俺への満足感も満たしてくれる、西原さんは本当に心の広い天使。でもそれは逆に西原さんが逆に何らかの寂しさを感じてる、そんな寂しい西原さんは俺のことを性欲で満たす事で満足させようとしてるのか。それに西原さんの笑顔がもの凄く愛しい。 

 この笑顔を守りたい、幸せにしたい。自分が必要とされてないとこんなことは出来ないからな。それが嬉しい。西原さんは俺が守る。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん——」

 西原さんは何度も俺に甘えてくる素振りを見せる。

「春香、上手すぎ。もうお兄ちゃん本当に脳死しそうなほど麻痺してるよ。春香の無邪気な姿に——」

「脳死させてあげる」

 西原さんはギュッと俺の両手を握る。浮き輪の輪から出て、西原さんの手を引っ張り、再度流水に流されて行く。

「脳死したらダメだよ。お兄ちゃん」

 西原さんとこんな形で長い時間、流水プールに流されてた。その後は再度造波プールで遊んだり、ウォータースライダーに並んで速さ競争をしたり、はしゃぎつくした。

 俺たちは、遊び尽くした後、まだ唯一行っていない室内の地下洞窟に向かう。どっちももの凄い刺激で未だに体はしびれてる。こう言うスペースで、二人で過ごしたら何の発見があるのだろうか?

 ——地下洞窟は、カップルだらけだった。

 偽兄妹で入るにはあまりにも勇気がいる場所。変な事したら絡まれる。西原さんが危なくなる。それだけは避けなくてはならない。無邪気な西原さんを守るんだから。

「こんな雰囲気だと、入りづらいね……」

「うん、兄妹で行くところではないね。カップルが行くところだよね……」

「何かもう遊び尽くしたね、時間も時間だし今日はこれで帰ろうか」

 俺たちは十分に遊び尽くした。西原さんの幸せな顔をありったけ味わうことが出来た。もうお腹いっぱい。

「じゃあ、着替えて帰ろう。あまり長居するとバスが混むしね。内野君」

 西原さんも、もう偽兄妹の無邪気さは完全に消え、今日はもう遊び尽くした満足感に覆われていた。その後は無言で更衣室に向かい、着替えた後もほぼ無言状態で帰っていった。



 帰り道。

 俺たちは、行きと同じターミナル駅行きの臨時バスに乗って元行った経路と同じルートで帰っていった。

 俺は色々悩んだ。

 確かにこの時間は幸福そのものだった。念願の小学生の水着姿の元片思いの女子と二人でプールに行けたのだから。

 だけど、これで良いのか? 明日からはまた普通の生活が始まる。俺は良いにしても西原さんはどうやって一人で過ごしていくか。問題無く過ごせるか。俺といるときはあんなに楽しそうな表情を見せていたんだから。思えば。

 このままなら西原さんとの関係が終わってしまう。西原さんはもう俺のことは必要じゃないのかと思ってしまう。

 ——帰りのバスはそれなりに混んでいる。そう言う車内のせいか、ずっと無言が続いている。

 ターミナル駅について、帰りの電車に乗り継ぐ。席に座っても話題が見つからない。ぎこちない焦りを感じている。

 ——電車が発車し、何とか西原さんに俺のほうから声をかける。

「ねえ、西原さん……」

 もう偽兄妹の関係は終わっている。西原さんの服装は幼くても。

「今日……本当に楽しめた?」

 西原さんも何か難しそうな表情をしていた。

「うん……最高だったよ」

 作り笑いをしながら俺の方を向いていた。

「何かさ、俺たちって初めにあの市民プールで西原さんの秘密を知ってしまって、互いの満たしたいことに応えて今日まで過ごしてきたけど、今日のプールを持って一通り終わってしまって、それから関係が壊れるのが怖くて」

「いいや、内野君。終わりではないよ……」

 これだけ楽しんで、キラキラした願望を果たせて、まだ何か満足できないのか?

 それにしても西日がキツい。西日を受ける窓ガラス越しに俺たち二人の陰が色濃く車内底面に映し出された。

「確かに、私は念願の想いを内野君に一緒に行動して叶えてもらったけど、私、本当は津村さんと一緒に行きたかった。だって約束したし、私それを軽んじて内野君を頼ってしまったから。今思えば少し後悔している」

「じゃあ何で津村と仲良くなる努力しなかったんだよ。今更だけど。折角同級生として再会出来たのに……」

「私だって、友達作れる性格だったらもうとっくに関わっていたわよ! 私は昔から友達作りは苦手。内野君が今年一緒のクラスになって、ぼっちだと分ったから私は内野君に関われると思った。お互いに弱みもあるから。だから話しやすかった」

 西原さんの声が力む。

「俺だって……昔はそうではなかったけど自信家だった……高校入学して本当に挫折だらけ」

 俺はまたネガティブな考えに取り付かれる。

「俺だって西原さんを失うのが不安だ。こうしてクラスメートと友達になり、互いにぎこちない関係だったけどこうして話せてる……最初は利害関係や弱みの関係だが、段々と西原さんを知って尊くなった。友達として大事にしたいと思い始めた。だから……」

 また黙り込んでしまった。

「津村さん、この前私を何か避けてるような感じだった、態度が上辺のようだった。もしかしてまだ怒ってるのか? 私が津村さんを置いてけぼりにして渡米したこと。そうだとしたら本当に謝りたい。せめて——」

 西原さんの態度が本気になる。人に感心なさげの西原さんが。

「以前津村と口論してしまった。昔のことを探ったらかなり怒ってた。逃げるように。そのあたりに何かあるかも知れないんだ……」

 津村に昔何があったんだろ、中三のタイミングで転入してきた訳だし。まさか前の学校で何か嫌なこととかあったことは間違いない。

 西原さんはまた黙り込む。何か考えてるようだ。この間話すことが出来ない。何とかしてまた話題を探す。

「俺は今日、西原さんの幸せそうな顔を拝めた。何か人を喜ばせることが出来たことにもうれしさを感じている」

「それ、どういうこと? 私として、それとも妹の立場として?」

「もちろん前者。今日の笑顔を見て愛しさを感じた。色々恥ずかしいことをしたけど、それ以上に西原さんと仲良くなりたいと思い始めた。偽兄妹とかプールではなく、どうやってこの関係を維持しようかとか思ってる」

 もうここには性欲とかはない。

「本当は、海外に行きたくなかった。津村さんとも仲良くなったのに」

「どういうこと?」

「パパもママも海外に行きたい。海外で仕事したいって言ってた。両親は企業の同期入社で職場結婚。どっちも海外転勤とかを夢見て知り合い、磨き合った関係。そんな両親見て私は文句など言えなかった。両親をずっと応援してた、その想いで津村さんを置いてけぼりにしてしまった……」

 西原さんは寂しそうな表情で俺を見つめる。

「水着とプールの思いは果たせた。でも肝心の津村さんと仲直りしたい……」

 俺のことをまだ頼りにする西原さん。どうしても力になりたい。放っておけない。

 ずっと一緒にいたい。俺たちはカップルではないけどこうして友達からでもいい。クラスメートにバレてもいい。恥ずかしい思いをしても良い。

「俺たちの関係は始まったばかりなんだ。もうプールのことは忘れてこれから一緒にどうしたいかを考えよう。津村の件も西原さんが言うなら俺も協力するよ。何かの誤解だろうと思うから。津村は決して悪い奴ではない。今日明日は無理でも少しずつきっかけを」

 段々と自信がついてきた。さっきまでぎこちない関係だったけど少しずつ西原さんの事を分っていきたい。

 ——そう考えてる間に、次の乗換駅に到着した。ここはJRと私鉄の乗換駅。俺たちはその駅を降りて乗り換え通路を通り、その私鉄路線のホームに向かう。

「この駅で乗り換えたら、お前は急行列車だったよな。俺は普通列車だけど」

 さっきより落ち着いた態度が出来た。言いたいことを腹割って思いっきり話すことが出来て満足している、西原さんの態度も少し柔らかくなった。

 急行列車が入線してきた。土日なのに混雑した列車に西原さんは乗る。

「今日は内野君、楽しかった。津村さんの事、時間はかかるけど少しずつ出来ることをしていきたい。明日からゆっくり考え直していく。ありがとう、じゃあね」

「今日は楽しかった。ありがとう。西原さん」

 西原さんは笑みを浮かべながら、閉まったドアの窓越しに俺の目を見つめる。そして列車は発車していく。

 決意は固まった。西原さんを今以上に幸せにする。





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