第7話 俺は、クラスの美少女と二人っきりの昼休みを楽しむ


 翌週。あのショッピングセンターの件以来、西原さんとの関係は一層深くなった、週末は津村の件で驚き整理がつかなかったが、今では落ち着きやり取りもスムーズだ。津村はもうクラスでも俺らに絡んでこないし秘密は守ってくれたようだ。助かった。ありがとう。

 ——ある日の休憩時間、西原さんからLINEが来た。

『内野君、今日も一緒にお昼行かない?』

『うん、今日もね』

『何処にする?』

『そうだな、中庭の裏がいい』

『あそこなら、人少ないしね』

『そうだよな』

『クラスの至近距離なのに話しづらいね』

『そうだな、西原さん可愛いし男子と仲良くすると立場なくなるからね』

『気遣ってくれて嬉しい』

『じゃあ後で』

 至近距離にいるのに、回りくどい。仕方ない。

 変に近づいたら、元浦にまた因縁つけられる。周りには気を遣う。

「今日もありがとうございました!」

 ——四時間目の須々木先生の厳しい英語の授業の後は待ちに待った昼休み。今日は俺が当てられてアドリブでの意見のスピーチ。拷問のような質問も西原さんのお陰で以前よりはスムーズな会話が出来ている。助かったよ。

 ——俺と西原さんは昼休みに分かれて行動する。今日は学校の校舎の裏側にある中庭。人通りも少なく、二人でこっそり昼食をするにはぴったりの場所。先に俺が向かった。

 少し待っている間に、西原さんが来た。

「内野君、お待たせ。待った?」

「ううん、そんなに……」

「クラスじゃ話せないね……」

「確かにね。こういう所だから話せる」

 俺たちは、中庭のコンクリートの突き出しの所に腰掛けた。本当に誰もいない。

 ここなら何を話しても大丈夫そうだ。

「内野君、よかったら食べない?」

 西原さんが差し出したのは手作り弁当だった。本当に良いんだろうか? クラスの中では絶対に出来ないだろうな。間違いなく殺される。

「西原さんって自分で作ってるの?」

「うん、一応。作らないときも多いけど今日は二人で食べようって約束していたら前もって準備しておいたよ」

 西原さんはこういう時は手を抜かない。

「うん、食べてみるよ……」

 俺は鼓を開けた。

「西原さんらしいな……」

 西原さんが作った物は、王道のおかず。ではなくサンドイッチらしきもの。

 トマトやレタスに照り焼きの肉が挟まった少し大きめのサンドイッチ。二個入っていた。

「内野君、この前照り焼き料理、美味しく食べてたから……」

「そういう所良く気にしてくれてたね」

「だって、食べてもらうんだからね」

 普通なら白飯のはずだがどうしたんだろうか?

「西原さんは、パン食なの?」

「うん、あまり、冷や飯は好きではない……」

「アメリカとかそうなの?」

「あっちだと、米飯は温かいモノが出る事が多かった。パンでも冷めても美味しいように調理していた。私は米飯よりパンの方が好き……」

 自分の好みがありながら、人の好みも考えてくれている。子供っぽい西原さんも、そういう所は大人の対応。あまりにも落差があるな。

「う、うん、よく考えられてるよ……」

「いただきます」

 俺は、サンドイッチを手に取り、がぶりと食いついた。

 西原さんは、俺の方をキラキラした目で見つめる。見つめられると食べづらくなるがこんな環境はここだけだ。まさに天国だ。

 パンを噛みしめた。中にはレタスのシャキシャキ感とトマトの甘酸っぱさ、そしてこってりとした照り焼き醤油の味がほとばしる。

「どう、美味しい?」

 西原さんはいい顔をしていた。こんな顔、クラス内で見れたらどんなに西原さんは楽しい学校生活を送れてるだろうか。何か切なさを感じた。

「うん、美味しい」

 そう言いながらガブリガブリと食べた。

 西原さんの方も見たが、そっちは野菜とチーズだけのサンドイッチだった。

「西原さん、ヘルシーだね」

「だって週末プール行くんでしょ。あまり食べたら太る」

 体のことは気にかけているようだ。

「水着だって、可愛いの買ったんだから。あれでも胸のせいでギリギリのサイズだからこれ以上下半身に肉はつけられないしね」

「西原さんは十分細くきゃしゃだけどな」

「私、あの水着着たとき本当に小学生女子に見えてた?」

 切り返しが結構キツい言い方。

「うん、見えてたし、もう小学生そのもの」

 俺は西原さんをひたすら褒める。

「そう言ってくれると嬉しい。私、週末はいっぱい内野君の大好きな姿に変身してあげるからね。あれ私も家で着て風呂とか入ってるけど、もの凄くウキウキした気になる。風呂の中で浮き輪も膨らませて楽しんでる。着てると本当に生まれ変わったようになるし、もの凄く快感を感じてる、風呂がこんなに楽しいとは思わなかった」

 またスイッチが入っていた。それにしても最近津村は俺らと口を聞かなくなったし、益々何らかの怪しさを感じる。あれだけ西原さんと仲良くなりたい言いながら何か放置されたような気がする。もしかして西原さんへの何か後ろめたさがあるかとか、一瞬そんなことを考えてしまった。

「ねえ、今何考えていた?」 

 俺の方をじっと見続ける。ここで津村のことを話すのはマズい。互いにぎこちない。今は良いムードになってきたのに。

「いいや、週末のことを考えてた。以前、温水プールに行った時、あまりにも衝撃的な姿を思い浮かべてた。あれはあまりにも破壊力あったしな。それ以上の破壊力だと思うよな。西原さんのかわいい水着は」

「そう言ってくれると嬉しい! 内野君のベストな姿になる!」

 西原さんの笑顔を見たい、喜ばせたい。こんなに俺が必要とされてるとは夢にも思わなかった。フラれたことがまるで嘘のよう。

「そう言えば聞いてなかったけど、今はまだ六月。屋外プールはまだ開いてないけど何処に行きたいんだっけ?」

「そりゃあ、東京マリンランドよ。あの明流野の。ここからだとちょっと遠いかも知れないけど」

「あそこリア充とかパリピが行くような所だぞ」

「あそこぐらいしか大きいレジャープールはないのよ。家族連れも多いんだよ。子供向けのアドベンチャーゾーンもあるし。そんな中なら恥ずかしくないよ。昔からずっと行きたかったし。もう行っても良い年齢だしね。こう言う形で」

 偽兄妹で行くのは色々思うことも思うけど、まあ仕方ないか。西原さんのかわいい水着を拝めるんだし。

「すごいお金かかりそう」

「いいわよ、ここも私が持つ。私のわがままで同行するんだから」

「悪いよ。弁当は作ってもらうわ、以前あんな喫茶店で奢ってもらうわで。それぐらいなら俺もお金あるから」

 ——西原さんの話題はプールの話ばかり。そんなに楽しみなのか。完全に態度が出てる。

「ごちそうさまでした、美味しかった」

 昼食を終えたら、クラスメートに見つからないよう別行動。

 西原さんが先に中庭を後にすると、俺は別の方からフラフラしながら教室に戻った。何とか今日もセーフだ。西原さんの水着姿が楽しみだ。









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