第2話 俺は、クラスの美少女のマズい姿を見てしまう

 

 週末の土曜日。

 今日は両親はオフのため、常に早番で組んでいた仕事の疲れがあるせいか、両親揃ってリビングでくつろいでいる。椅子に座りながら、他愛のない会話しながら、土曜の時事報道を見ながら。

 ——そんな朝の時間が俺にとっては感じ悪い。

 今日も妹は張り切っている。俺はラノベの続刊を朝から読みふけ、ダラダラ過ごす。でも何もしないのも感じが悪い。今日の土手はリア充とか家族連れとかで黄色い明るい声で溢れるんだろうな。ランニングしても俺の最大のダメージとなる。

 ああ、体を動かしたい。家にいてても仕方ない。

 そう思いながら、俺は押し入れから中学時代に使っていた「3―3 内野透」と記名の所に書かれたスクール水着を取り出し、洗面室からバスタオルを取り出し身支度を整える。

 そんなところにまた悪魔のように妹が俺に絡んできた。

「お兄ちゃん、またプールに行くの? そんなに泳ぐの好きなら水泳部に入部したら良いのに、何で転部しなかったの? 陸上部やってたら転部が効くのに」

「俺は、一人で自分の体を鍛えたい」

「もういい加減に、自分だけの世界に閉じこもるのやめて現実見た方が良いよ」

 妹はウザ絡みしてくる。これだから生意気盛りのリア充女は嫌い。

「俺の勝手だろ。自分自身で鍛えることで得られる物もあるんだよ」

「でも一人の練習は限界があるんだよ。仲間と刺激し合わないと成長しないのは、少年漫画の王道ストーリーでしょ——」

「一人の天才って物もあるの」

「へー、お兄ちゃん。そんな天才なんだ? じゃあ自由形のタイム図ってよ。私に泳法教えてよ!一緒にプール行くから」

 どこまでズケズケ言うんだこの妹は。

「お前のように人にズケズケ言うような奴には教えたくない。それにお前の水着姿なんて全く興味も無い。どうせ学校指定の競泳水着しか持ってないんだろ」

「お兄ちゃんキモ過ぎ。私が競泳水着しかない? どんな妄想しいてるの? ヤダヤダ本当にオタクはこれだから嫌だ。兄妹でなければセクハラで犯罪ね、今の発言」

 面倒くさすぎる。

「もういいだろ。そんなリア充には俺の世界なんて分りやしない、お前はリア充部として青い青春を過ごしておけ」

 妹はため息をついた。

「まあお兄ちゃんの人生だからいいけどね……」

 俺はまた怒って洗面室を飛び出し、家族を避けながら一目散に家を出た。

「何だよ妹は。ちょっとレギュラーに選ばれたされたからって調子乗りやがって!」

 妹は成績も良く、リア充の中のリア充部とも言われるバスケ部。ああやって勘違いしてる奴は将来、オタクとかクラスで勉強や運動が出来ない奴を見下す人間になっていく。元浦とかのように。今の妹は元浦と同類。ぶつぶつ文句言いながらプールに向かった。



 家から電車を乗り継いで十分程度で目的地へ。この市には何カ所か市営温水プールがある。一応政令指定都市だから。今日は市内で一番大きい温水プールで今日は泳ぐ予定。

 ——この温水プール、毎週末は土曜は子供が無料のせいか子供同士、家族連れの利用者が目立つ。リア充はあまりいない。一人で泳ぐチャンスだ。

「今日は、かなり込んでるな……」

 混んでれば混んでるほどここではありがたい。別の意味で。

 ここまで家から離れた距離なら先ず同級生は来ないだろう。そう言う意味でも家から遠いというのは有利だ。何をしても法に触れない限りは問題無いし。今日はどのようにしてプールを楽しむか考えていた。

 入口に並び、入場券を買い入場し、男子更衣室で用意したスクール水着と水泳帽を身に纏い早速温水プールの中に足を運んでいく。

 プール内。開放感ある天井、明るく陽射しが差し込む一面張りのガラス。そして中は蒸し暑い湿った風に覆われ、朝日がガラス越しに水面を照らしまばゆい光が反射する。

「絶好のプール日和だ!」

 そう思いながら、シャワーを浴び二十五メートルプールのレーンに向かう。

 このプールは大きく三つ。

 二十五メートルプール八レーン。四レーンは競泳目的のレーン。ここは競泳そのものの練習を目的としており、水泳部所属の大学生とか個人利用が多い。残る四レーンは自由開放。ここはエアロビクスや水中歩行など健康維持のために利用する人が多い。ジジババばっかり。ここは入る気もないや。そして残るは二十メートルプールと幼児用プール。こっちは言うまでもなく遊泳を目的として使用されている。

 主に子供や家族連れが多くまだ泳げない子供や、二十五メートル泳ぎ切れない子供などが利用している。ビート板だけでなく浮き輪の利用も認められており、小さな浮き輪を身につけた幼児が泳ぎの練習をしたり、たまに小学生女子とかが大人用の大きな浮き輪を持ち込んで数人でまたがって遊んでる姿が見受けられたりもする。

 何で俺はプール毎に利用する人を逐次観察しているんだろうか? 俺は完全に変態モードになってしまったのか? ここはリアルの世界。気をつけよう。俺。

 ——勢いよく水しぶきをあげながら二十五メートルプールの競泳レーンに入水した。ここから勢いよく泳ぐ。

 自由形、背泳ぎなどをひたすら繰返す。中学校までに教わった泳ぎ方で。

 俺にはバタフライとかのような高度な泳ぎ方は出来ない。水泳部ではないんだから。ひたすら陸上部で培った足の力を使って精一杯泳ぐ。何とか退部しても日々のトレーニングのお陰で満足できるようなスピードは維持できている。水泳部に入らなくて良かった。恥ずかしいから。

 ——泳いでるときは何も考えない。一目散に泳ぐ。この瞬間がたまらない。だって走っているときは周りの雑音を気にしないといけないが、水中は雑音など全く聞こえない。誰もいない夜に土手をランニングする以上に落ち着く。プールなら人と競争することもなく、人と関わることもなく、自分の世界観だけで泳ぐことが出来る。それは完全に引き籠もりの妄想だ。でも俺は運動しているだけ他のヒキオタとは違うけど。そう思いながら何往復も泳いでいった。

 ——ちょうど一時間ぐらい連続で泳いだせいか疲れ始めた。適度な運動をしたと思い、一旦水から上がってプール周りを適当に歩き回る。

「今日は競泳レーンにめぼしい人がいなかったな……」

 何やってるんだ俺。思考が変態そのものだ。

 競泳水着の女性と一緒に一つのプールで泳げるなんて考えるだけでも最高だ。ラノベの世界にハマって水着回が大好きな俺らしい考えだ。逮捕されるぞ。気をつけないと。

 プールというのは本当に麻薬みたい。こんな俺でもリアルに虜にしてしまうから。水着症候群になる。おまけに自分の履いているスクール水着自体が瑞々しい。タグの所に中学時代の記名があるから、あの時の、中学時代の甘酸っぱい自分に変身できる。中三のあの輝かしい自分に。スクール水着は本当に魔法のような力がある。

 俺は二十メートルプールに向かう。

「今日は大漁だな」 

 ニヘラと笑ってしまう俺のしまりのない態度。今日のこの日は高学年の子供が何組も泳いでいる。色とりどりのタンキニとかワンピースとかカラフルな水着を色とりどりにちりばめたように。

 俺はこの中で泳ぎたい。そのような女子に挟まれながら。

 勇気を持って二十メートルプールにドボンと入る。周りは家族連れの小さい子供の泳ぐ練習をしている様子、男子小学生のふざけた遊泳姿、そして一部の女の子達が浮き輪を持って泳いだりなど無邪気な姿で溢れている。

 ——それにしても今日はいつも以上に活気づいていると思った。陽射しが強くなりガラス一面から陽射しがプール内を照らしまるで常夏のような雰囲気だ。

 高学年女子の子達がワイワイ浮き輪につかまり、または水をかけ合いはしゃいでいる。そんな女の子をチラ目で見ながらフニャフニャ水につかってただの男のフリをしている。その瞬間での眼中に入ってくる光景がまさに天使だ。

「この空気最高。二次元の世界では実感できないリアルの女の子を横目で見える。可愛く無邪気。こんな子を彼女に出来ればいいのに……」

 ヤバイ妄想に入ってしまった。プールから抜け出せない。出ようにも出る事が出来ず小学生女子の方ばかりを気にしてしまう。完全に体がそう言うモードになっている。

 その目先にめずらしくスクール水着を装った女の子がいた。よく見るとその女の子は青く大きな浮き輪、直径一メートルぐらいありそうな浮き輪で浮かんでる。その浮き輪の柄は皆がよく知ってる、世間的に許されている可愛いキャラクターの浮き輪であった。この年齢の子でも恥ずかしくなく使えそうな。そう言う浮き輪の柄がただですら怪しいスクール水着姿の幼さを一層引き立てている。もう一人の女の子も浮かんでて、その子はセパレートの水着を装っている。

 俺はスクール水着の方の小学生女子を注目しにやけてしまう。

 ワイワイしてて凄く楽しそうな表情ではしゃいでいる。浮き輪を使いながら。こっそりと何度もその女子達に近寄った。ラノベに出てきそうな絵に描いたような女の子。

 もう少しこっそり近寄ってスク水の女の子を見る。小学生にしてはかなり胸が大きい。Dカップくらいありそうな胸。強靱な生地も胸の辺りが窮屈そう。如何にも年頃の女の子を表している。

 胸元に小学生らしく名札が書いてあるのを発見した。それなりの大きさで胸元に

「6―2 西原」

 と、6の数字は5の数字の左下の所に線を加えて5年生の時のものをそのまま6年生まで使い古しているものであることが分かる。この年代の女の子は成長が早いから6年生になると本当に窮屈になっていたな俺も。と思っていた。どんなけロリコンなのと甘酸っぱい小学生の水着事情に虜になってたんだよ。西原ってあのフラれた同級生と同性だ。珍しく。

 そう見とれてる間にその子と目が合ってしまった。

「え?」

 女の子は一瞬びっくりした表情だった。

「まさか、何で……」

 俺と目が合うと徐々に俺の方を見て完全に怯える表情になっていた。

「何でって、誰なの? 俺何も知らないけど……」

 何で怯えてるのか分らない。何か悪いことした覚えがない。

「ヤダヤダ……助けて・……」

 何も悪いことしてないし、じろじろ見てないぞ。どうしたんだ? え、西原って、まさかとは思うけど。

「も、もしかして・・・同じクラスの……西原さん?」

 恐る恐る声をかける。

「私じゃない、ちょっと……」

 怯えて何も出来なく完全に縮まってる。その時だった。

「何しているんですか。そこのお兄さん。見つめすぎですよ。変態です!」

 付き添いの女の子が大声をあげた。

「私行くわ、ちょっと怖い、今日ありがとう」

 そう言いながらその女の子が浮き輪を持ちながら即座にプールから上がり走って逃げていく。プールの監視員が慌てて俺の方に向かってやってくる。

「ちょっと、この人女の子のこと変な目で見ていました!」

 その女の子は監視員に大声を出した。完全に俺は犯罪者扱いだ。周りの家族連れらは完全に俺の方を注目している。

「どうしたんですか! 何かあったんですか?」

「この男の人が少し、私達を見つめて……」

「そこの男の人! 何したのかは分りませんが、ちょっと話を聞きます! 上がって監視室まで来なさい!」

 何で俺が悪者扱いされてるんだ? 分らない。

 俺は立ち会っていた女の子と一緒に、監視室に連行されてしまった。

 西原さんとか言う女の子はもういない。あの子マジで同級生の西原さんと瓜二つだ。



「——そう言うことだったんですね」

 監視室で事情を説明したら、何とか理解してもらえた。本当に心臓が止まりそうになってしまったが何とか難は逃れた。

「今ね、プール内で小学生女子とか見つめる変態とかが本当に多いの。このプールでも先日手が回った男性もいたから、態度には気をつけなさいよ。悪気はなくても」

 監視室から解放され、女の子と共にプールに向かった。

「事情は分ったわ。貴方が悪い人でないことは。あの子は今日知り合ったばかりで一緒に楽しんでた。何処の小学校とかは語らなかったが同い年で楽しかった。私はもう少し一人で泳いでいくから、じゃあね」

 そう言いながら女の子は去って行った。気分が良くない。後味が悪い。もう今日は泳ぐ気なくしたから即座に帰ろう。

 更衣室でシャワーを浴び、着替えてる途中も色々思った。あの子はまさかうちのクラスのあの西原さん? 容姿は似てるがまさか、ってことはないよな。もし本当に西原さんだったら何で小六のスクール水着を敢えて着用しているのか? 泳ぐならもう少し高校生らしい水着とかは持参してないのか? そもそも西原さんがプールなんか行くような性格なのか?

 ——どうしても腑に落ちない。後味の悪いまま俺は更衣室を後にした。

 プール出入口に向かいゲートを通った目先に、何と! あの西原さんがいた。しかも何かを待っているような態度で。罰悪そうな顔つきで見つめていた。やっぱり西原さんだ。

 西原さんの服装は高校生らしい私服姿。ギャップが大きすぎる。そして大きな浮き輪の空気を抜いていた。

「やっぱり内野君だったようね。話あるからちょっと来て」

 間違い無くさっきの水着のことだろう。分かりやすい形で待ち伏せしていたのですぐ分かる。流石にあんな小六女子のゼッケン姿を見られたらマズいだろう。俺がクラス内で拡散すると思ったんだろう。でも俺はぼっちだからそこは安心して良いけど。

「分ったよ。でも何であんな水着……」

「いいから……ちゃんと話すから……」

 怒った表情で半強制的に誘うようにして階段を西原さんは上っていった。俺もそれについていく、西原さんは引き続き浮き輪の空気を抜きながら。



 三階アトリウム。いくつかの椅子が並んでいる。そこからガラス越しにプールの全景が見える。相変わらずプールは多くの客で賑わってる様子が分る。自然の光がさっきより一層まばゆく差し込んでいる。

 俺たちは椅子に腰掛けた。西原さんが空気を抜ききった浮き輪を鞄にしまい込み恐る恐る俺に話す。

「見てしまったのね」

 西原さんの表情は緊張している。俺をフッた時とは逆で何か弱みを握られてるような弱々しい表情。

「見てしまったって、あの水着のことか?」

「うん、そう。私、あの水着意図してやっていたの。まさかこんな形でクラスメートに見つかるなんて想像もつかなかった……」

 震えながら話す西原さん。そもそも話すことに慣れてなさそうだ。まさかよっぽどのコミュ障なのか? 俺もコミュ障だが。

「意図的って、どういうこと?」

「私ね、プールで遊ぶことが昔からの夢だったの。知ってるとおり、私は帰国子女。小学校五年生の夏に両親と共にアメリカに転勤して、日本で言う中学三年の十五歳まで過ごした。

高校入学したときは日本で、両親と過ごしたけど、今年になって両親はまたアメリカに再転勤。お前はもうしっかりして生活をしても問題無いと言われたから私を置いてアメリカに行ってしまった。今は一人暮らし。好きなことを精一杯出来る、門限とか土休日の監視とかないから思い切ってずっと行きたかったプールにこうして行ってるの。ここぐらいしか遊泳できる所がこの市にないから……」

 淡々と西原さんは話していく。

「……プールが好きだったんだ……そうには見えなかったが」

 また西原さんが黙りこむ。

 話が続かない。今日のこの件を黙って欲しいことは俺でも読み取れるが話が出来ない、続かない。俺以上に話すのが苦手だそうだ。でも授業はほぼ完璧なのに、受け応えも。

「話って、今日の事を黙って欲しいとか?」

 俺は無理にでも話を展開するが、西原さんがついて来れない。ビクビクしているので俺主導で話していく。

「……まあ……そうなんだけど」

 西原さんは、両手に力を入れる。

「もちろん、黙って欲しいこともそうだけど……」

 顔色をうかがうように俺に話しかける。

「思えば、私……内野君に酷い事を言ってしまった……」

「酷いって、あの失恋のことか?」

「うん、そう、まさかこんなことになるとは思わなかった」

 俺でも今の会話から西原さんが今日の事件を隠すために、自分を守るために、俺への失恋を撤回すると言ってるのが分かる。こんなことになるとは思わなかった。そこまで先を読めていない。俺は一体何だろう? 利用されてるのかと勘ぐる。

「自分の立場守るために、撤回とか言ったんだろ。そう言うのやめようよ、もう少しマシな建前とかないのか?」

 俺は言ってしまった。空気の読めないコミュ障でも分る、西原さんの本音は。

「私、空気読めないね。話しても嘘はつけないし、人との距離も取れないし」

 西原さんは、更に自分自身を責める。

「もういいから、俺だって、お前の一言でずっと傷ついていた。元々俺は自分に自信があった。西原さんは可愛いし、クラスの男子にもモテるだろ。本当に俺は西原さんと付き合えると思ってたんだよ」

「可愛いって、どういうこと?」

「西原さんは、髪も綺麗だし、勉強も頑張ってるし、クールでも秘めた物が凄いし……」

 西原さんのご機嫌を取ろうと俺も西原さんを褒める。でもこれは本当の事だ。

「私、そんなにちやほやされても嬉しくない……帰国して日本語もおかしくなったし、昔から人との会話や遊ぶのが苦手で、友達もあまり出来なくて……」

 言いたいことは理解出来るがぎこちない。友達は欲しそうなのか。

「私、友達作りが凄く苦手。高校入学しても同性の友達作りが出来ない。私が頼れる人もいない。男子に優しくしてもらって告白されても嬉しくはない。男子との距離はもっと分らない、下手に関われは相手を傷つける。だから彼氏もいらないと思った。だから私は内野君を始め、全ての男子を断ってしまった」

 俺もクラスで頼れる人がいないのは同じ。津村が時折絡むだけ。

「じゃあ、こうしようか?」

 俺が言い出す。

「俺も西原さんも頼れる人がいなくぼっちだ。でもこうして話すことが出来ている。俺は実は今相当寂しい。俺を救って欲しい」

 西原さんは、迷わず答える。

「うん、いいわ。私、男子でも女子でも誰でも仲良くしてくれる友達が欲しかった。内野君をフッて学校生活を傷つけてそれでも受け入れてくれるのが分かる。私を。それなら私も内野君を受け入れたい」

「先ずは友達からだね、俺も友達が欲しい」

「昔はいたの?」

 単純な質問だらけだ

「昔は勉強も運動も自信があった、高校入学して色々惨めなことがあって陸上部もやめて、今はぼっちにまでなってしまった」

 そう言えば、あのスクール水着はコスプレしているようにしか見えない。名札つけて小学生に変身したような感じがする。破壊力が半端ない。

「じゃあ俺から聞くが、あれはわざと小6の名札で小学生に変装したのか?」

「いいや、私、あの水着しかない。小5の夏のプール授業で来ただけ。それ以降、押し入れの中に。だから5を6に書き換えた」

 やはりそうだった。

「それなら、もう少し真面な高校生らしい水着を買えよ。オシャレなのではなくても、そこの売店でも競泳水着とか売ってるぞ。あれマジで小学生に間違えられるぞ」

 西原さんは小柄で童顔のあどけない顔。おまけに幼児体型。だからランドセル背負わせればマジで小学六年生と外見が変わらなくなる。まして、あの名札つけてれば本当に小六女子そのもの。流石スクール水着の名札の破壊力。色々ラノベ読んでてもスク水とか名札はよくシーンで出てくるが、リアルの世界で名札で小学生と間違えるのは始めて。でも西原さんは胸が大きい。あの胸では小学生には見えないが。

「私、競泳水着とか買う勇気も無いから……だから小学生の時の物を使うしかなかった」

「でも、6―2とかはやめような。マジであれはオタクの俺でも引くわ。それならまだ名札とか外した方がよかったぞ」

「私は高校生だけど、体の成長は小学校高学年で止まってしまった。そのまま着れるから使い続けた。高校生になれば友達が出来て皆で買い物に行くとなれば当然おしゃれな水着とか選ぶだろうから。私にはそんな友達もいないし……」

 西原さんは何考えてるのか? 競泳水着もここで購入しない、名札も外さない、恣意的に小学生を演じているようにしか俺には見えないぞ。本当にコスプレイヤーだぞ。あんな小学生の名札をしてスク水着用するのは有明で年二回行われる巨大イベントでしか見かけないような姿だぞ。謎だ。

 とりあえず、話を続ける。

「まあいい、これからは友達としてよろしく。クラスの中では関わるのが難しいなら、放課後とかにでも知り合えればいいよ、仲良くしてくれたら今日の事は黙るよ」

 西原さんは少し微笑んで

「嬉しい。ありがとう。これからもよろしく」

 鼻息をする西原さん。言動がやや子供っぽい。体も心も。まるでコ○ン君みたいだ。大人っぽく振る舞うにしても所々にぼろが出ている。

 俺たちは、LINEを交換して、周囲に気付かれないようにして別々に帰宅した。クラスメートにバレないようにするために。

 明日からの学校生活が少し楽しみだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る