第5話 シルヴァの店、人手足りず
結果は言うまでもなく、大成功だった。
狙い通り、せっかくだから料理を食べていこうという人達で店は一杯になった。
そして料理自体は美味しいので、リピーターも増えていった。
懸賞による集客効果があったのは、明らかだった。
「凄いですね。今日も満員だ」
「嬉しい悲鳴じゃよ。こんなにたくさんの人に料理を食べてもらえるとはのお」
「良かったです。それにシルヴァさんの料理美味しいですからね」
「幸道。ありがとう」
「いや、俺は大したことはしていないですよ」
「だが問題が増えてきてのお」
「問題ですか?」
「忙しすぎて困っておるんじゃ。ちょっと人手が欲しくて、誰かを雇いたいと思っておるんじゃよ」
「あー、まあ確かにこの人数をシルヴァさんだけで乗り切るのは、厳しいですよね。料理を作れる人ですか?」
「まあできれば料理ができる者がいいんじゃが、ワシとしてはワシの作る味を出せる者がいいからの。一から教えられる者だとありがたいの」
「つまり初心者でも歓迎という事ですか」
「そうじゃな」
俺はホールの仕事があるから、さすがに料理までは手が回らない。
やはり誰か必要か……。
そんなことを考えながら仕事をしていると、常連のジョージさんがやってきた。
「こんにちは」
「おう、幸道。いつものくれ」
「はい。肉料理とビールですね」
「忙しそうだな」
「ええ、そうなんですよ。手が回らない。誰か人を雇いたいんです。一から教えるので素人でもいいんですけど」
「そういう事なら、商店街とギルド掲示板に募集を張り出すのがいいんじゃないか」
「そうですね。ちょっとシルヴァさんとまた相談してみます」
そんな会話があり、その日も激務が続いた。
ようやく店も落ち着いたころ、シルヴァさんに掲示板に募集を張り出してみてはどうかという提案をした。
そしてすぐに募集を始めることにした。
応募してきたのは、五人だった。
シルヴァさんが面接をした結果、選ばれたのが二人だった。
「幸道。紹介するよ。明日から働いてもらう事になった、アビスとジェシカだ」
「あれ?ジェシカさん?どうして?冒険者じゃなかったんですか?」
「いやー、へっぽこすぎて稼げないからさ。転職だよ。冒険者は、副業でたまにやるつもりだよ」
「なるほど。で、そちらの方が……」
「アビスです。よろしくお願いします」
アビスと名乗った子は、中性的な雰囲気を持つ子だ。
「えっと……女の子?」
「はい。何か問題ありますか?」
「いえ、ありません」
一応最初に確認しておかないとな。
「ジェシカは料理。アビスはホールを手伝ってもらうつもりだ。明日から皆で頑張ろう」
「はい」
「よろしくお願いします」
「頑張ります」
皆が気合を入れて、新メンバーによる初日の営業日がやってきた。
営業初日。この日も早くからお客さんが大勢来ていた。
人を雇ってくれて良かった。さすがにこれは、俺一人でホールを回すのは無理だ。
「アビスさん。わからないことがあれば何でも聞いてください」
「メニューは全て覚えました。問題ありません」
「凄いね。たった一日で」
「記憶力には自信がありますから」
どんどんお客さんが入ってくる。
「肉料理」
「魚料理」
「ビール」
「魚」
「肉」
「肉」
「魚料理」
「ええーと……」
「肉魚ビール魚肉肉魚ですね。かしこまりました」
俺がテンパっていると、横からアビスさんが注文を聞いて、厨房に伝える。
「ありがとう。助かったよ」
「いえ」
俺よりも余程有能じゃないか、アビスさん。
なんだか悲しくなってきた。
アビスさんは、それからもマシーンのように正確無比にミスなく働いた。
俺、いらない子なのでは……。
一方でジェシカさんは、その日はひたすら卵を割る作業ばかりだったらしい。
初日が終わり、閉店する。
「ふう。皆さん、お疲れさまでした」
「お疲れさまでした」
「お疲れさまでした」
「皆、明日もこの調子で頼むぞ。ほら、今日の分の報酬じゃ」
「ありがとうございます」
「やったー!!これで生活なんとかなる」
アビスさんが報酬を受けとって涼しい顔をしている。
ジェシカさんの喜び様は、物凄いものだ。生活よほどきつかったんだろうな。
こうして四人でシルヴァの店を切り盛りしていって数日が経過した。
ある日の事だった。
ジェシカさんが明らかに元気がなかった。
「ジェシカさん。どうしたんですか?元気がなさそうですけど」
「うん……。実はさ、親友の冒険者がさ、モンスターに襲われて、パーティーとはぐれて行方不明になってるんだ」
「ええ!?」
「パーティーの人達は、命からがら逃げて帰って来たんだけど、あのモンスターの大群だから生きてるのは絶望的だろうって」
「そんな!!仲間を見捨てたんですか?」
「そんなものだよ。即席パーティーだったからね。皆、自分の命が一番大切なんだよ」
「そんなっ……」
「私が作った料理を食べに行くの楽しみにしてるから腕磨いておいてよって話したばかりだったのに。うっ……ううっ……ひっく……」
「それは辛いですね」
「冒険者だから危険は付き物ってわかってたんだけどね。でもいざ死んだって聞かされるとね」
「そうですか……」
「私、あの子がいたから生きてこられた。クエストに誘ってくれて、ギリギリの生活でなんとか生きてこれたんだ。命の恩人なんだよ。アーシアは強い。きっと迷子になってるんだ。だから私、アーシアを探しに行くつもりなんだ」
「探す?危険なダンジョンに潜り込む気ですか?」
「うん」
「危ないですよ、やめてください」
「私もへっぽこだけど冒険者だから」
「…………わかりました。足手まといになるかもしれませんが、俺も行きます」
「え?」
「ダンジョンは行った事がないですけど、女の子一人で行かせられない」
「幸道」
「それに一人より二人で探す方が見つかる可能性が上がる。俺、運だけは持ってるんで、もしかしたらアーシアさんを見つけられるかもしれません」
「ありがとう」
「他にも協力してくれそうな人を探してみます」
といっても、俺が知ってる冒険者といえばジョージさんくらいのものだ。
ジョージさんが店に来た時に声をかけてみた。
「そりゃ男しては、放っておけねえわな。よし、俺も手伝おう」
「ありがとうございます。今度、肉料理奢らせてください」
「お、約束だぞ」
ジョージさんは快く引き受けてくれた。
そしてついにダンジョンに潜る日がやってきた。
異世界懸賞生活~懸賞マニアは転生し、異世界に懸賞という概念を作る~ 富本アキユ(元Akiyu) @book_Akiyu
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