第4話 食事無料券、当選者発表
一週間が過ぎた。今日は運命の抽選日である。
抽選会場は、シルヴァの店。
俺はジョージさんに言って透明の大きな箱を用意してもらった。
その中に届いた大量の応募手紙を入れていくのである。
「凄い量が届きましたね」
「おお、本当にすごいのお」
「数を数えながら、箱の中に入れていきましょう」
「ふむ。そうじゃな」
数えていった結果、応募総数は二百八だった。
「凄いです。二百八人もの人が少なくとも、シルヴァの店の存在を認知することができましたよ」
「おお。凄いのお」
「後はどれくらいの人が実際に来るかですね」
「ふむ。楽しみじゃ」
俺達は、抽選会場として事前に店の外に舞台を作っていた。
ここに見物人を集めれば、店の中に人が入りきらないなんてことにはならない。
外には椅子とテーブルも臨時で用意し、万が一お客さんが料理を食べていくことにしたとしても、対応できる。
料理やホールを手伝ってくれるボランティアの人もジョージさんが集めてくれた。
「やれることはやった。準備万端だ」
そして時間は、午前十一時五十分。抽選十分前になった。
見物人が大量に訪れていた。
「す、すごい!!こんなにも人がワシの店に来ているなんて初めてのことじゃ」
「これは食べていく人も大勢いるはずですよ。忙しくなりそうだ」
「凄いぞ、どんどん人が集まってくる」
シルヴァさんだけでなく、ジョージさんも興奮していた。
正午。抽選の時間がやってきた。
俺は舞台の上に上がった。
「皆さん。こんにちは。シルヴァの店。お食事券無料チケットプレゼントキャンペーンにご参加頂きありがとうございます」
「わーー!!!!」
「待ってましたーー!!」
賑やか。お祭り騒ぎ。
やばい。凄い盛り上がりようだ。
いやー、実は一度でいいから懸賞をやる側をやってみたかったんだよな。
その願いが叶って、俺は嬉しい。
「それでは、抽選方法を説明させて頂きます。ここに大きな透明の箱があるのが見えると思います。ご覧頂いたら分かると思いますが、この中には皆さんから届いた応募手紙が全て入っています」
「おお、あんなに届いたのか」
「凄い量だ」
見物人達の驚きの声が聞こえてくる。
「今から俺がこの箱の中に手を入れて、十枚の手紙を取り出します。その人達にシルヴァの店で使えるお食事無料券を差し上げます」
「おお」
「よし、俺が貰う」
「私が当てるわよ」
「もし選ばれなかった手紙は、全て焼却処分させて頂きますので、ご安心ください。それでは始めさせて頂きます」
一枚目の手紙をひく。
「ノエルさん。ノエルさんです。今、この場にいますか?」
「はいはいはーい!!俺でーす!!」
「では、こちらのお食事券無料チケットをどうぞ」
「ありがとうー。やったぜー」
「うおーーー!!」
「これはドキドキするぜ!!」
「楽しいイベントじゃないか!!」
そして二枚目、三枚目と、どんどん手紙を引いていく。
歓喜の声と落胆の声が聞こえてくる。
その中に最前列で目を閉じて、必死に祈っている女の子が目に入った。
可愛い女の子だ。
でもごめんね。そう簡単には当たらないんだ。
なぜなら懸賞は、賞品をかけた戦争だからだ。
そしてついに最後の十枚目。
「さあ皆さん。最後のひとりですよ。最後の一人は……ジェシカ・クローバーさん」
最前列にいる祈っていた女の子が手を挙げた。
「はい、どうぞ。おめでとうございます」
「やった……!!ありがとうございますっ!!」
次の瞬間、あー……という落胆の声が色々なところから聞こえてきた。
「だめだなー。でもここの店の料理、そんなに美味いのか?」
「試しに食っていくか?丁度昼時だしな」
「俺も食ってこう」
「私も食べていく」
きた。これを狙っていたんだ。
抽選時間を正午にしたのも、お昼時の時間帯を狙っての事。
全ては計算通りだ。
「肉料理くれるー?」
「私、魚が食べたいんだけどあるー?」
「肉料理ね。魚料理も、もちろんあるよ」
シルヴァさんが答えて、忙しそうに厨房の中へと入っていく。
「こりゃ手伝わないとな」
俺も完成した料理を運んで手伝った。
「あのう……」
声をかけてきたのは、さっき必死に祈っていた女の子だ。
「あ、お食事券無料チケット当選したさっきの!!おめでとうございます。何か?」
「ジェシカ・クローバーです。このチケットってすぐ使えますか?」
「はい。使えますよ」
「やった!!じゃあ私も肉料理を」
「はい。少々お待ちください」
料理が完成して次から次へと持っていく。
ジェシカさんの肉料理が完成し、持っていく。
「お待たせしました。肉料理です」
「わあ!!美味しそう。頂きます」
ジェシカさんは、物凄い勢いで食べ始めた。
「美味しいーー!!!!!」
「ですよね。俺も初めてシルヴァさんの料理を食べた時は感動しました」
「これ本当に無料で食べていいんですか?後でやっぱりお金を請求されたりしないですか?」
「大丈夫ですよ。おかわりも自由ですので、おなか一杯食べてくださいね」
「よーし、いっぱい食べちゃおう。じゃあおかわり!!」
「わかりました。少々お待ちくださいね」
そしてジェシカさんは、何度もおかわりして、俺達はその食欲に驚かされた。
「はあー、美味しかったー。もうおなか一杯。いやー、もう三日も何も食べてないから死ぬかと思った」
「えっ、三日も何も食べてなかったんですか?」
「はい。お金なくて」
「そうだったんですか」
「私は運が良いなあー。本当に死ぬところだったよ」
「ははは」
「あ、私ね。一応、これでも冒険者なんだけど、へっぽこでさ。実力もないし、時々パーティーに連れて行ってもらってるんだけど、いつもギリギリの生活してるんだよね」
「なるほど」
「いつもモンスターに殺されかけて死にかけてるんだけど、運良く生き残ってるんだよね」
「それ洒落にならないっすよ」
「さて、それじゃ、私はそろそろ行くね。ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」
ジェシカさんはそう言って、無料お食事チケットで支払いを済ませて出て行った。
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