さくらんぼ

文重

さくらんぼ

 まるで宝石のよう。大切に大切に仕舞っておきましょ。


 お屋敷の奥様からいただいた数粒のさくらんぼ。弟と2人の妹に2粒ずつ、私は余った1粒で我慢しよう、と姉は思いました。お屋敷で残り物を1人で頂く時も稀にあったので、家で待っている弟達を喜ばせようと考えたのでした。


「姉ちゃん、ありがとう」「おいしそう」「うわあ、きれい」

 きょうだい達の嬉しそうな顔を見ると、1日の疲れなど吹き飛んでしまいます。あっという間に2個とも平らげた弟は、妹たちのさくらんぼにちらと物欲しげな視線を送りました。妹たちは兄の眼差しから逃れるように歓声を上げながら逃げていきます。姉はその様子に微笑みながら、自分の1粒をじっくりと味わうのでした。


 1週間後、末の妹が泣きながら姉に見せた宝物箱に入っていたのは、白いカビに覆われ変わり果てたさくらんぼの姿でした。


 翌日、お屋敷で新たに取り寄せられたうちの1粒を、姉はこっそり持ち帰ったのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さくらんぼ 文重 @fumie0107

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ