第17話「仙術・縮地」
仙術学園のグランド。
最初の仙術の授業である。
生徒達は仙術学園で作られた特殊な迷彩柄の服とズボンを着用して、靴は自衛隊と同じような半長靴と言われる硬い革靴を履いている。
「では、みなさん。お待ちかねの仙術です。まずは、基礎となる
仙術学園の仙術指南役、サトコ先生である。
「では、こちらのタケゾウ先生が見本を見せます」
身長180cmくらいのガッシリした体をした若い男性が立っている。
実はサトコ先生の長男、三日月武蔵である。
タケゾウ先生は直立したまま、右に瞬間移動した。体は動かしていない。まさに瞬間移動である。
生徒達は何が起きているのかわからない。
「縮地は仙術の基礎だ。体を動かすのではなく地面を縮める技で、敵と戦う時に攻撃したりかわしたりする技で短い距離を移動する。本来は長い修行が必要だが、みんなには仙丹が配られているので、コツさえわかればすぐにできるはずだ」
タケゾウ先生は生徒達の前で右、左と瞬間移動して見せる。
生徒達はマジックを見ているようでポカーンとしている。
「各自、距離を取ってやってみろ!」
タケゾウ先生に言われ縮地をやってみるが、生徒達は何もできず棒立ちである。
仙術学園では人工仙丹の製造に成功していて仙術の授業に生徒達に渡される。
仙丹は授業によって強さを変えて使用する。今日の授業では約三時間の縮地が使える程度の弱い物である。
「地面を縮めるんだ! 体を動かすんじゃなく、体は何もしていない」
タケゾウ先生は生徒を見て回るが瞬間移動ができる者はまだいない。
「地面を縮めるって言われても、何で地面が縮まるわけ?」
巴が肩にいるエゾリスの二郎坊に話す。
「地面は自分の意思で動かせると思えば簡単だぞ」
二郎坊は巴の前で縮地をやって見せる。
二郎坊にとって縮地は朝飯前で、土を使って女の子のエゾリスを作りダンスをしている。
「地面は動かせる。地面は動かせる。地面は動かせる……」
何度も頭の中でつぶやく巴。
地面がづれた。
「あっ、いまづれた!」
わずかだが巴の足は右にづれている。
「仙術をわたしも使えるかもしれない」
密かに秘めている気持ちがあふれ出す。
「ジローちゃん、見て!」
巴が縮地をすると、10cmくらい動いた。
「ほら、ジローちゃん、凄いでしょう!!」
巴は大興奮だが、二郎坊は冷めた目をしている。
ここの生徒、本気で仙術をやろうとしている者が結構多いな。おふくろが言っていたのも一理有るか……
タケゾウ先生が巴を見ている。
❃
三日月サトコ、初めての出産。
「あたしに何かあったら、子供だけはお願い
」
旦那である勘蔵の手を握りしめ、何度も目を見てから、サトコは分娩室へ入っていった。サトコの母親は弟を出産したことで亡くなったので、サトコは出産に関して死を覚悟して向かっていた。
結果、安産で無事に男の子が生まれた。
勘蔵はサトコの無事を確認して、子供を抱きかかえた。
「えっ!?」
「どうかした?」
「この子……武人だ。戦いつづける運命を持っている」
「なに、それ。もうわかるの?」
「あ〜っ。僕にはわかる」
勘蔵には予知能力、千里眼の力が強く、子供の未来も見ることができた。
勘蔵は子供に、宮本武蔵の姿を見たが、恐れ多いので幼少期の
❃
「タケゾウ、今度、あたしは仙術学園の仙術指南役になるの。だから、あなたも手伝って」
サトコはタケゾウが家で暮らしていた時は、ずっと主婦だった。
薄々は仙術をしていことは気づいていたが、仙術の指南役って、全くわからなかった。
「何で、おふくろが指南役なんだよ?」
「しょうがないじゃない。政府からのご指名よ。あたしも、もう若くないんだから、手伝ってよ」
「おふくろがが政府から? 何かの間違いなんじゃないか?」
平和な時間を過ごしていたタケゾウにとって、サトコは、普通の母親だった。
「じゃあ、あたしと勝負しなさい。あなたが、あたしの体に触れることができれば、あなたの勝ちでいいわ」
タケゾウは小学校、中学生、高校、大学と格闘技ばかりをしていた。しかも、強い。プロの格闘技になってもおかしくはなかった。
サトコがまさか強いとは思いもしないので、サトコとの勝負をOKした。
「距離はだいたい10m、そこから、あたしに触れることができれば、あなたの勝ちよ。あなたが動けなくなったら、あたしの勝ちだから」
身長148cmで痩せている中年女性のサトコ。タケゾウは、全く負ける気は無かった。
優しく触って終わりだ。
タックルの構えをするタケゾウ。
「用意は、いい? 始めるわよ!」
サトコに言われ動こうとしたら、動けない。自分の体の上に巨大な物が乗っかっているようで歩くこともできない。
心臓は激しく拍動するが血液を頭に流すことができず、貧血で目の前が真っ黒になった。
タケゾウは一歩も動けず、失神してサトコの勝ちである。
サトコは月の石を使いタケゾウの周りの重力を上げ心臓のポンプ機能よりも高い圧力にして失神させたのだ。
こうしてタケゾウも仙術学園で働くことになった。
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