第7話「仙丹」

 ♪ぴ〜〜〜っ。

 ♪ぴ〜〜〜っ。


 これは!? さゆりにやった霊木の笛だな。

 何かあったのか?


 夜中に寝ていた二郎坊は起き上がり、何やら呪文を唱えだした。

「オン アロマヤ テング スマンキ ソワカ 縮空しゅくくう!」

 二郎坊の姿が空間に消えた。


 次の瞬間、二郎坊はさゆりの入院している部屋に現れた。

 瞬間移動で、笛を吹いたさゆりの所に現れたのだ。


「どうした? さゆり」

 二郎坊がさゆりにかけ寄る。

 さゆりは病院のベッドに寝ていて笛を吹いている。

「わつ! 本当に来た!! なんで? この笛、全然音が鳴らないんだよ」


「それは特殊な笛で人間には聞こえないんだ」

「おじさん、本当に大天狗なの?」

「ああ、そうだ」


「本当に来てくれるとは思わなかった……」

「何かあったのか?」


「あたし、抗がん剤治療を受けたの……でも、苦しくて、たぶん朝までもたないと思ったの。だから、最後におじさんに合いたくて笛を吹いたの……」

 さゆりは三日月の目で笑いながら二郎坊を見ている。しかし、その顔は土人形のようにどす黒く、髪は抜け唇が腫れ上がっていた。


(さゆりの生命力はつきかけている。こいつ、こんな時でも笑うのか……しかし、これは、本当に朝までもたないな……あれを使うか)


「さゆり、尼さんみたいで綺麗だぞ」

 二郎坊はさゆりの頭をなでた。


「これを見てみろ。何だと思う?」

 二郎坊は手の平に飴玉の包のような物を乗せている。

「飴玉?」

 さゆりが覗き込む。


「これはな、不老不死の薬、仙丹だ」

「不老不死の薬? それを食べれば生きられるの?」

「う〜ん、それがな……仙骨という仙人になれる資質があれば、たぶん生きられと思うんだが、資質が無ければ逆に毒となって、今のさゆりなら、もっと悪いことになるだろう」


 じーっと仙丹を見るさゆり。

「ははははははっ、あたし、もう、これ以上悪いことはないよ。どうせ、あと数時間だもん。おじさんの不思議な力にかけてみる」

「そうか」

 二郎坊は包を破り、さゆりの口の中に仙丹を優しく入れた。

「飴玉のようにゆっくりなめるんだ」


 この仙丹は、二郎坊が仙術学園を受験した時に特殊試験で渡された物である。

 二郎坊にとっては仙丹を食べなくても元から超能力はあるので、簡単な試験だった。

 それに、天狗は赤い力を使っているので、青い力の入っている仙丹は毒になるので食べずに持っていた。


「どうだ? 苦しくないか?」


「これ、甘くないけど、花のような香りがして良い気持ち」

 仙丹を舐めているさゆりの顔に血の気が戻り、腫れ上がっていた唇も戻っていく。


(やはりそうか、見ず知らずのオレを献身的に介護してくれたので、仙人の資質があるのではないかと思ってはいたが……オレの女房も、食い物が乏しい時に、自分はあまり食わないで笑いながらオレに食わせようとする奴だった)


「天狗のおじさん、なんだが気分が良くなってきた。さっきと全然違う」

「そうか、さゆりには仙骨があったんだな。良かった、良かった……」

 二郎坊はベッドに寝ているさゆりの手を握っている。


 オレもウマヅラが来た時は死にかけていたが、ウマヅラに命を助けてもらっても、全く感謝の気持ちというのが無かった。だから、オレは仙人になれなかったんだな……


 二郎坊はさゆりの手を握りながら、馬頭道人と暮らしていた時の事を話し始めた。

 話しているうちに、さゆりは寝てしまった。

 さゆりの顔色を診て生命力が戻ったのを確信した。


 しかし、あの学校、本当に仙丹を作ったんだな。

 日様もに使者を派遣して、持ち帰った宝物の中に不老不死の仙丹があり、不老不死になったと言っていたが、実物を見たのは初めてだ。

 これは弱い仙丹だと言っていたが、

 このまま治ってくれればいいんだが……


 二郎坊は、さゆりの横にずっと座っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る