第6話「特殊試験」

 仙術学園高等学校おづぬ入学試験、特殊科目。


「仙術学園では特殊能力を開発するので、資質を検査します。まず、これを食べて下さい。これは、おそらく人類史上初の人工仙丹です。資質の有る人は超能力が得られるでしょう。資質が無い人には毒になるので気分が悪くなります。弱い仙丹なので試験が終わる頃には效果は消えます」

 担当の女性が説明をして受験生に仙丹を配る。仙丹は袋に入っていて飴玉のようなものである。

 受験生が仙丹を食べると、多くの者は気分が悪くなった。


 仙丹というのは薬のように食べるだけで仙人になれないかと考え、昔からいろいろな物が試されたが超能力が得られるような物は見つかっていなかったが、仙術学園は仙丹の製造に成功したようだ。


 ❃


「最初は透視能力の試験です。皆さんに配られた袋の中にはカードが入っています。その袋を破らないで中の文字を答案用紙に書いてください」

 受験生には、名刺大のビニールの袋が配られた。中には漢字が一文字書かれている。

 試験会場には三十種類の漢字が貼り出されていて、その中の一文字がビニール袋の中に入っている。

 受験生には一人に三枚のビニール袋が配られ、その袋には受験番号が記入されている。

 受験生はビニール袋を開けずに三つの漢字を答案用紙に記入するのである。


「なんだ、これを書くだけか、ビニールだと丸見えだな」

 二郎坊にとっては、この程度の透視試験は簡単過ぎるようだ。

「一枚目は『役』二枚目は『小』三枚目は『角』……これは、役小角えんのおづぬ? やな名前だな……」

 ぶつぶつと言いながら答案用紙に記入する二郎坊。


 ❃


 特殊試験は二種類あり、次の試験まで少し時間があり、しばらく休憩である。

 学校の方で軽食と飲み物が用意されて自由に食べることができる。

 試験会場の体育館の奥には大きな鉄板がならび、焼きそば、お好み焼き、フランクフルトなどが焼かれている。

 地方から受験する者も多く、せめてもと思い、焼きそばの肉にはジンギスカンで食べる羊の子供の肉、ラムが使われていた。


 二郎坊は焼きそばとコーヒーをもらって体育館の外に出て食べていた。

 少年の姿で一日過ごすのは意外と魔力を消耗するな……もっと楽な方法はないかな?

 そんなことを考えていると、目の前でカラスが何かをつっ突いている。

「助けて、助けて……」

 何かが弱々しい声で二郎坊に助けを求めている。


 よく見るとリスの子供がカラスに食べられるところだった。

 やべっ、リスと目があっちまった。

 面倒臭いが助けてやるか……

「カラス! そいつを助けてやってくれないか?」

「カー!? これは俺の飯だ!」

 カラスは二郎坊の言うことなどきかんと言う顔をしている。

「カラス、そのリスより多い量の焼きそばをやるから、その子を助けてくれないか? ほら、柔らかいラムの肉も入っているぞ!」

 二郎坊の持っている焼きそばを見るカラス。

「本当か!?」

「いま持って来てやるから殺すなよ」


 二郎坊は体育館に戻り、焼きそばをいっぱいもらってきた。

「ほら、これでいいだろう」

 子供のリスの体の倍もある量の焼きそばをもらい、カラスは子供のリスを解放した。


 子供のリスを手に取る二郎坊。

 そばで見ていた受験生の女の子がいた。

「その子、血だらけですね」

 受験生の女の子が声をかけてきた。

「あたし、傷薬もらってきます」


 女の子はどこかから傷薬をもらってきて子供のリスに塗り始めた。

「リスさん、かわいいわね。あたしと一緒にこの学校で勉強しない?」

 そんな事を言いながら傷薬を塗っている。

 リスもおとなしく薬をぬられていた……

「仙丹を食べると動物の声も聞こえるんですね」

(こいつ、けっこう能力があるな……)


 ❃


 特殊試験、二種類目。

「次の試験は密教で行なわれるもので、ロウソクの炎をゆらせてください」

 試験管の女性はロウソクに火をつけてやってみせる。

 5メートル離れてローソクの炎を右、左とゆらす。ローソクは炎が大きい百目蝋燭ひゃくめろうそくという物で、近くで息を吐きかけても左右にゆらすのは困難である。


「受験番号501番、田中二郎」

 二郎坊がローソクに向かう。

(ゆらすだけだな。力を入れ過ぎたらローソクが吹き飛ぶぞ)

 二郎坊はそーっとローソクの炎を左右にゆらせたが勢いが余り炎が消えた。


「炎が消えた!」

 試験管が驚いている。

(やべっ、力が入りすぎたか……)

 再ど炎がつけられ試験は終わった。


 ❃


 体育館の端にある二階通路に男の受験生が立っている。

「あいつ、飛び降りるつもりか?」

 二郎坊が気づき見ている。

 二階通路と言ってもけっこうな高さがあり、下は硬い木の板である。落ちればどうなるかはわからない。


「飛び降りやがった! 風神の術、竜巻!」


 体育館の中に凄まじい風が集まってきた。

 女子生徒のスカートはあられもなくめくれ上がった。

 飛び降りた受験生は床に当たる直前に浮き上がり、ゆっくりと床に降りた。


 特殊試験が上手くいかず、思い余って飛び降りたようだ。

 二郎坊は知らんぷりしている。

 誰も次郎坊が起こした竜巻だとは気づいていなかった……

 

 

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