第5話「田中勝次」

「なんだ、回転寿司ってのは、寿司自体が回っているんじゃないのか……」

 回転寿司屋で二郎坊と下僕しもべの男がテーブル席に座っている。


「まあ、これは、これで面白いがな……下僕、お前も遠慮しないで食え!」

 二郎坊は皿を取って寿司を食べている。

「神様、この仙術学園に入学するのは神様自身なのですか?」

「そうだ」

「年齢制限があって中学校卒業の年齢なんですが……」

 下僕の男は仙術学園の入学のチラシを見て言う。


「オレは封印から解かれて今年出て来たばかりだから年齢はわからん。見かけを変えることはできるぞ」

 そう言うと二郎坊は中学生くらいの顔に変えた。

「オレは肉体ではないので姿、形は変えられる」


「なるほど、さすが神様……」


「神様と言われるのは、あまりしっくりこないな。これからは二郎坊様と呼べ」

「はい、二郎坊様ですか……わかりました」


 二郎坊は、どんどん寿司を食べなから話している。

「ここは、酒は置いてないのか?」

「ビールならありますが?」

「ビールか、飲んだことはないが酒なら注文してくれ」

「わかりました」

 下僕はタブレットを使いビールを注文した。

「それで、二郎坊様、この受験の申し込み用紙はネットでダウンロードできるので、私が書いて応募しておきますが、二郎坊様の苗字みょうじは何と言うのですか?」

「苗字は無い」

「苗字がないとまずいのですが。私と同じ田中でよろしいですか?」

「田中か、オレも農家だったから、田中でいいぞ」

「では、名前は田中二郎にしておきましょう。坊というのは現代ではあまり使われていないので、不信に思われるので外したほうがいいです。住所はありますか?」

「住所は、山の中だ」

「それなら、私の住んでいるアパートの住所を書いて一緒に住んでいることにしておきましょう」

 下僕はスマートフォンで応募用紙を見ながらメモしている。


「受験票が届いたら、このスマートフォンに連絡します。私はもう一台持ってますから、これは差し上げます」

 下僕は二郎坊にスマートフォンの使い方を教えている。


「指輪を換金した店で、これは金自体の価値より歴史的な価値の方が高いかもしれませんと言われたんですよ。ネットオークションに出した方が儲かったかもしれませんね」

「ネットか、お前できるのか?」

「ええ、できますよ」

「そうか、なら、これを、そのネットオークションに出してみろ。飛鳥時代の物だ」

 二郎坊は、そう言うと空間から金細工の指輪やイヤリング等をひとつかみ取り出し下僕に渡した。

 下僕は驚いて見入っているが、二郎坊は全然興味がないようだ。

 ビールと寿司が気にいったようで酔っ払っている。

 二郎坊は白い山伏の装束でおじさんの姿である。


「二郎坊様、私は導引と言うのは初めて聞いたのですが、この仙術学園で学ばれたいのですか?」

「そうだ。昔、ウマヅラが導引で病を治していたから、オレも導引でさおりを治してやりたいんだ」

「さおりさんと言うのは病気なんですか?」

「そうだ、白血病だ。お前、知ってるか? ケツが白くなるんじないぞ」

「白血病! わかりますよ、血液のがんです。私、医大生で医者の玉子ですから」

「なんだ、お前、医者の玉子か?」


「病気のことは、私にお任せください。私は医大生の田中勝次と申します。これから、私のことは勝次かつじとお呼びください」

「そうか、お前、病気に詳しいのか……それでは勝次、白血病を治す方法はあるのか?」


「私は白血病の専門医ではないので詳しくはしりませんが、骨髄移植でかなり良くなっているようです」

「骨髄移植か……オレもさゆりから聞いて図書館で調べていたが、ドナーって奴が見つからないとダメなんだろ?」

「そうですね。スマートフォンで調べてみましょう」

 勝次はスマートフォンで白血病の治療法を調べている。

 テーブルの上は二郎坊が飲んだビール瓶と回転寿司の皿の山になっている。


「抗がん剤や免疫作用剤、分子標的薬などの薬による治療か造血幹細胞移植ですね」

「それをやれば治るのか?」

「なんとも言えません。白血病にも種類があって、患者さんも年齢や体力などさまざまですから……」

「やっぱりドナーか?」


「造血幹細胞移植で一番はドナーによる移植ですが、HLAと言う型が一致しないとダメで、これは親子でも200分の1くらいしか一致しないようですね。他に末梢血幹細胞移植や臍帯血移植もあるんですが……」

「やはりドナーか……現れないかな〜」

「導引で白血病が治った例はあるんですか?」

「いや、昔に白血病と言う病名はなかったからな、でもウマヅラは、なんでも治していたがな……」


「民間療法でも、がんを治したという記録はいっぱいあるにはあるんですが、誰にでも効く確かなものではないんです」

「勝次、オレは仙術学園で導引を習い、さゆりに教えてドナーが現れるまでの時間稼ぎをしようと考えているんだが、どうだ?」

「そうですね。導引で治すのではなく、ドナーが現れるまで体力を持たせるためなら医師も納得すると思います」

「そうか、そうだろう! 飢饉で食い物がなくても次の収穫までもたせればなんとかなるもんな! ガッハッハ、オレ様の計画に間違いはない」

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