第4話「下僕」

 北海道A市。

 『仙術学園高等学校おづぬ』の入学試験が行なわれている。


「よし、できた!」

 受験生が答案用紙を書き終わり、勢いあまり立ち上がって両手で机を叩いた。

 隣りで答案用紙を書いていた受験生は、その振動で書いていた字がずれた。

 二人で使う長い机だったので振動がもろにきたのだ。

(この野郎ー)

 文字がづれた受験生が、机を叩いて立ち上がっている男をギョロッとにらみつけると、立ち上がった男は急に意識を失ない倒れた。


(弱いな。この程度の“あて”の気を受けて倒れるようじゃ不合格だ。だいたいマナーがなっていない)

 この受験生は二郎坊である。

 少年の姿に変身して仙術学園を受験しているのである。


 ❃


 数日前。図書館の中。


 頭の良さそうな奴はいないか?

 図書館の中を見回す二郎坊。

 あいつはなかなか良さそうだな……

「おい、お前! 頭が良さそうだな!」

 いきなり、本を読んで勉強している男性に声をかける。

 男性は驚いている。


「お前、この受験のし方がわかるか?」

 二郎坊は仙術学園の受験生募集のチラシを見せる。

「いきなり何ですか? あなたは誰です?」

 いきなり山伏姿の男性に声をかけられ、驚ろいている。

「オレは土地神だ。この学校の受験のし方を知りたい」


(土地神? 何だそれ? 春先になると頭のおかしいのが現れるというが、この人、山伏のカッコしてコスプレマニアかな? あんまり関わりになりたくないな)

「神様が僕に用ですか?」

「そうだ。この学校に入りたいんだが、手続きのやり方がわからん。お前、わからんか?」


「僕、忙しいので他をあたってもらえませんか?」

「何!? オレの頼みを聞けないと言うのか?」

「すいません。僕、宗教とか興味ないので……」

「お前、オレが土地神だと信じてないな」

「神様なんているわけないでしょ! あなたが本当に神様ならば、僕はあなたの下僕しもべになってあげますよ。ははははははははは〜」


「本当だな……」


 二郎坊は男性の襟首を捕まえて、図書館の外に連れ出した。

 この図書館は大きな公園とつながっていて、図書館を出ると広い場所があった。


「お前が空を飛んだら、オレを神様と認めるか?」

「空を? 道具を使わず?」

「道具は“みの”だ!」

「みのって、あのわらで出来た?」

「そうだ」

「はっはっはっ、馬鹿馬鹿しい。もっと手品でもあるのかと思ったら、みの? いいですよ。みので空を飛べたら、あなたを神様と認めて、僕は下僕になりましょう」


「よし、約束だぞ。オン アロマヤ テング スマンキ ソワカ 天狗の隠れみの!」

 二郎坊が、そう言って右手を上げると、空間から“みの”を取り出した。ワラで出来た昔の雨に当たらないために着るものである。

「これを着れば姿が消える。さらに空を飛ぶことができる。着てみろ!」


(いったい、どこから取り出したんだ? 全然わからなかった)

 男は、しぶしぶみのを着た。

 図書館の窓ガラスで自分の姿を見ると、写っていない。

 あたかも姿が消えているようだ。


「飛び上がれば空も飛べる」

 二郎坊に言われ男は飛び上がってみた。

 すると体が浮き上がった。

「そんな馬鹿な! 何かのトリックだ!」

 男は、まだ信用していない。


「しょうがないな……」

 二郎坊は男を抱えて空高く飛んだ。


「このくら高く飛ぶとオレが神だと信用するか?」

 男は放心状態である。


 時間が経ち少しづつわかってきた。

「本当に神様なんですか?」

「土地神だ」

「土地神というのは何です?」

「この土地を任されている。もっとも昔の話しで、今は日様ひさまもいないだろうがな……」


「神様って官位でつく名称ですか?」

「そうだな〜名称かな? 昔は、日様がこの国を納めていて、八人の大天狗で、この国を護っていたんだ」


「神様がいっぱいいたんですか?」


「土地神は八人いた。他にもいろんな神はいるんじゃないか? ウマヅラは人間の腹の中には仏様が居ると言っていたぞ」

「お腹の中に仏様が……」


「よし、今からお前はオレの下僕だ。最初の仕事を命じる! これを換金してこい」

 二郎坊は空間から金の指輪を掴み出した。


(また空間から出した。この人は本当に神か?)

「街中に金を買い取ってくれる店があった。そこで、この指輪を現代の貨幣に変えて回転寿司に行くぞ!」

「回転寿司ですか?」

「そうだ。寿司が回転するとは、どんなものか行ってみたいんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る