第13話「導引・月の行」
仙術学園には、導引を行うための教室があり、通称、導引室と呼ばれている。
「それでは、皆さん、導引マットを引いて下さい」
サトコ先生が導引室で生徒にマットを引かせる。
「あれっ、これ、ヨガマットって書いてある……」
新品のマットにはヨガマットと書いた紙が入っていた。
「役野くん、細かいことは気にしないでね……ここでは導引マットだから!」
サトコ先生は役野の頭をグリグリと軽く叩く。
「それでは、導引の先生を紹介します。こちらの
サトコ仙人が紹介したのは髪はボサボサで白いヒゲを生やし、見た目の年齢は八十歳くらいの老人で杖をついている。
「キーキーキーキーキーキー」
巴の肩に乗っている二郎坊が話している。皆んなにはエゾリスの声に聞こえるがテレパシーが使える者には、ちゃんと声に聞こえる。
「なんだ、このリスは? 赤いオーラがあるぞ。邪悪な鬼だな!?」
鉄拐仙人が二郎坊に近づき見ている。
「鬼じゃない。大天狗だ。鉄拐仙人と言えば中国の有名な八仙人の一人だろ? 本物か?」
二郎坊が不審そうにたずねる。
「はっはっはっはっはっ……わしは自称、鉄拐じゃ。別に同じ名前があっても構わんじゃろう? 導引は詳しいから心配するな」
老人の自称、鉄拐仙人に生徒達も大丈夫なのかと思っている。
「まず、月の行からいくぞ」
鉄拐仙人は正座をして座り、右手を斜め上に上げ左手は弓を引くような動作をしている。手は握り顔は弓の先を見ている。体は左側に傾き斜めになっている。
「これは
「ハハハハ……導引やって月給がもらえるのか」
後亀が笑う。
「この学校のオーナーは、導引の復興を望んでいる。導引の成績が優秀な者には、卒業後に、整体師として、好きな場所に店を出してくれる制度もあるんじゃぞ」
「本当かい!? 導引で食っていくこともできるのか……」
鉄拐仙人の言葉に驚き、真面目に導引を始める後亀。
他の生徒達も真面目に月弓をやっている。
二郎坊もエゾリスの姿でやっている。
「若い君達には、どこに効くのかもわからんだろうが、老化したり病気になると腕が上がらなかったり、首が動かなくなるんじゃ。首は自律神経と深く関わっているので意識してほぐすようにするといいぞ」
「鉄拐仙人さん、これは何回くらいやればいいんですか?」
初雪がたずねる。
「そうだな、回数は別に決まっていない。これから教える導引は、三日月流導引を元にしているんだが、三日月流導引は一般の人や病人を対象にしているので、やり方も○○姿勢と言っていて、だいたい三回くらいやるようになっている。しかし、君達は仙人を目指す者達だ、だから○○姿勢とは言わず○○行と言う。回数はこだわらず気を通すことを考え、なめらかに関節を動かすことに集中するんだ。しかし、導引と言うのは一生懸命にやれば良いというわけじゃなく、行と行の間に深呼吸をしたほうが血流がよくなるんだ」
「病気の子供はどうだ?」
二郎坊がたずねる。
「病気だと病状にもよるし、子供だと親が手伝ってやるんだが、最初は少しずつだな。無理してやると次の日、体が痛くて動けなくなるぞ」
鉄拐仙人は次々と月の行を見せる。
腕を上に上げる行を月の行と言うようだ。
鉄拐仙人によると人間の体は四足歩行の構造が元になっているので、腕を上げたり首を左右に動かすことで血液の循環か良くなるのだが、現代人は、その動作が少なくなっていると言う。
鉄拐仙人は人体の神経図を見せる。
「人間の神経の配置は複雑で首と腰はわかりずらい、しかし、四足歩行のように四つんばいにした神経図だとすっきりする。元々、こうだったものが変化したんだろうな」
生徒達も直立した神経図と四つんばいの神経図を見比べている。
「人間は直立したことで首と肩の交差する部分はこりやすくなってしまった。意識して腕を上げないと頭痛、肩こりに悩まされるぞ」
鉄拐仙人は直立して右手と左手を交互に上げる。
「こうやって、ゆっくり手を上げるだけでもいい。手を前にやったり、後にしたり、上でねじったり、首を回したりとかもしてコリをさがしながらやるんじゃ。体操のように同じリズムではなく、場所によっては動きを止めたり同じ所をやったりする。これは間に深呼吸を入れない連続したもので、行をやる前に体をほぐす技じゃ」
鉄拐仙人は右手を左肩の方に上げその手を後ろに回す。水泳の背泳ぎのような動きだ。右手と左手が交互に後ろを動く。
「肩の不調でも、導引をしても効かないとか、骨が折れてるとか腫瘍があるとか、肩の筋肉が切れてるとかは外科にいかないとダメだぞ」
❃
二郎坊は学校が終わると、さっそく、さゆりの家に行き、習ったばかりの導引を教える。
さゆりは右手の動きが少し上がりずらいのと首の動きも硬かった。
さゆりの父親もやってみると、首も肩の動きもなめらかだった。
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