第10話「エゾリス」
今から三十数年前、
深海魔物のクラッベが北海道で大暴れした。自衛隊の装備ではクラッベを倒せず、サトコ仙人の仙術でクラッベを倒した。
日本政府は密かにサトコ仙人に頼みクラッベを倒した仙術を研究した。
サトコ仙人によると地球には宇宙の力が土砂降りのように降り注がれているが、あまりに小さく人間の体をすり抜けていくので誰も気が付かないらしい。
しかし、特殊な行をしたサトコ仙人は宇宙から降り注がれている青い力を結晶化させることができ、それを攻撃力にすると言った。しかし、当時の科学力では宇宙の力を証明することができなかった。
それでも日本政府は、ある企業に頼み北海道の山の中に宇宙の力を研究する研究所を作った。
研究は徐々に進み、宇宙の力には青・赤・黄・黒い色等があることがわかった。
青い力を捕まえることはできなかったが、赤い力を捕まえることに成功し、これをエネルギーに使えるのではと研究が始まった。
しかし、赤い力を溜める容器の強度不足により、一つの容器が爆発を起こした。爆発は保管されていた他の容器に誘爆を起こし研究所は爆発し、研究所ある山も吹き飛んだ。
研究所のある山には洞穴があり、その奥には役小角が魔物を封印した“ひょうたん”を納めた祠があった。爆発によって祠は壊れひょうたんは散乱し、徐々にひょうたんが割れ魔物が出てきたのである。
日も封印されていたひょうたんから出てきた。日は山の周りに自分の持っている赤い力と同じ物を感じとり、人間が赤い力を研究していることを知る。
さっそくカラス天狗を使って、赤い力の研究に関わる者達に憑依させ研究を続けさせた。
数年で赤い力を爆弾にする研究は完成した。
さらに地震学者が、無人の潜水艦に赤い爆弾を乗せて南海トラフの断層で爆発させると日本列島に大地震が起こり、巨大な津波で人口は大幅に減るだろうと予言した。
日は、その言葉を信じて実行しようとしていた。
❃
仙術学園。
『カリカリカリ』
教室の窓を子供のエゾリスが引っ掻いている。
生徒達が集まって見ている。
「一緒に勉強したい」って言ってるよ。
一人の女生徒が言うが、他の生徒にはエゾリスの声は聞こえない。
その女生徒はエゾリスとテレパシーで会話ができた。
エゾリスは授業を受けたいと言うので、女生徒は窓を開け、エゾリスを制服のポケットに入れた。
教室に先生がやってきた。
「きょうつけ、礼」
日直が号令をかける。
「はい、みなさん。今日は仙術の中の導引をやります。まず歴史から教えます」
女性の教師が授業を始めた。
彼女は、深海魔物クラッベを倒したサトコ仙人である。政府からの要請で仙術学園の仙術指南役として就任していた。
「導引と言うのは、あまり世間には知られていません。それは、昔は仙術や武術というものは秘密主義で、あまり人には教えないと言う習慣があったからです」
(ポケットの中では授業が聞きづらいな)
エゾリスがポケットから出て女生徒の肩に乗った。
「あらっ、なに、これ?」
サトコ先生がエゾリスに気がつく。
「あ、あの……一緒に勉強したいんですって……」
女生徒の名前は
「へ〜っ、トモエちゃん、この子と話せるの?」
「え、ええ……わかります」
サトコ先生は、不審そうにエゾリスを見ている。
「オレのことはいいから、授業を続けてくれ」
「あらっ、本当、しゃべった!」
エゾリスはテレパシーを使い話すのだが、サトコ先生にも聞こえた。
サトコ先生は、ますます不審に思いエゾリスを見ている。
「あなた、誰?」
「オレは田中二郎だ。早く導引の授業をしようぜ!」
「田中二郎? なんでエゾリスなの?」
「ヘヘヘ……いいじゃないか」
さすがに田中二郎と名乗るエゾリスは問題になり、校長先生がやってきた。
「あ〜っ、なるほど、憑依してるんだ。なるほどね……」
二郎坊は正直に白血病の少女を助けるために導引を教わりたいと言い。少年の姿に変身するより、エゾリスに憑依する方が魔力の消耗が少なくてすむことも話した。
「君、魔物だね。しかも強力な神クラスだね」
校長先生にはエゾリスに憑依している二郎坊のことがわかるようだ。
「どうしたものかな、未来を見てみるか……」
校長先生は未来を見る予知の能力があり、その精度はとても高かった。
校長先生は二郎坊が大天狗であること、さらに大天狗を作った日が赤い力を使い大地震を起こそうとしていることを予知した。
大地震を防ぐには二郎坊が仙術学園に必要なことも予知した。
校長先生は予知したことは二郎坊には伝えず、白血病の少女を救うために導引を学ぶと言うことで、エゾリスの姿で授業を受けることを許可した。
❃
仙術学園は全寮制で食事は食堂で食べる。
田中二郎の分ももちろんあり、二郎坊はエゾリスの姿で食事をして、余った分を袋に入れて仙術学園の横にある森に消えた。
二郎坊は子供のエゾリスを探して、食料を持ってくるから、体に憑依して授業を受けることを提案した。
子供のエゾリスは食料が欲しくて、二郎坊の提案をすぐに受けた。
子供のエゾリスは母親と妹と一緒に木の中で暮らしていた。
授業が終わると、二郎坊は三匹分の食料を巣穴に持って行くのだった。
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