第23話 捜索隊の冒険者
フジノが仲間達に秘密を明かした夜から一週間。イワザルの群れや山中で起きた爆発と火災による南大門の冒険者達には負傷者が多い。そんな事情があり、試合形式の訓練が行われる日になったが参加率は悪い。
普段通りなのは魔術師達だけだ。完治していない人もいるが訓練には全員が参加できるくらいに回復している。
南大門の西部訓練場を普段よりも広く使って、彼らは中央からきた捜索隊のメンバーと手合わせをしている。
グロリアに対するのは捜索隊のメンバーの一人であるカエン。冒険者ランクがB以上の実力者となると妖精持ちであっても純粋な魔術師とも勝負になるようだ。
「そこまで!」
捜索隊のリーダー、テツザエモンの終了の合図をうけてカエンとグロリアは戦いの手を止める。身体強化の魔術のみという縛りで行われたが、カエンは足の負傷が治っていないまま挑んできた。しかし、最後まで立っていたのはハンデが多いカエンだ。
「やはり魔術師は強いね。病み上がりで、ここまで僕と戦えるなんて」
「……ありがとうございました」
カエンにとっての称賛の言葉をもらってもグロリアは良い気がしない。褒めるような意図を感じないからだ。
足を負傷してその場から一歩も動かずに攻撃をさばいた勝者がそんなことを言っても嫌味にしか聞こえないだろう。
「グロリアでも勝てなかったか」
「次は兄ちゃんだよー。せいぜい頑張ってー」
「おい。まだ負けてないぞ、俺は」
休憩は必要ないと拒否したカエンはその場に残り、グロリアと入れ替わるようにセイドウがカエンの方へ歩いていく。
魔術用のスペースで行われる実力者達のやり取りを、遠く離れた休憩場所から観察するフジノとナツキ。
視力強化ができないナツキでも、遠くから強さの一端を感じられるほどの相手。休みなくセイドウと連戦するあたり体力もあるようだ。
「中央からくるだけあるなぁ。つっよいねー。セイドウはともかく、グロリアが勝てないなんて」
先輩冒険者の一人と手合わせを終えて、訓練場から休憩スペースに戻ってきたばかりのフジノにナツキはそう言った。
カエンとグロリアの手合わせを観察していた他の冒険者達の反応から、あの冒険者が強いことはフジノにも予想できる。ナツキも感じるほどだ、ケガありでグロリアに負けないなら相当だろう。
「ねえ。それより、あの人だれ?」
「捜索隊の一人で、サエコ先輩の尊敬する冒険者でカエンっていうらしいよ。よく見ればあんたはわかるんじゃない? 捕まえられたんだから、あの人達に」
気になってナツキに聞いてみると意外な情報が出てきた。強化したままの視力で他にいる捜索隊のメンバーや審判の男の顔を改めて見ていく。
「うーん?……ああ確かに。私に魔術ぶちかました奴らと、止めた人もいるね」
「へー。誰がどれ?」
「セイドウと戦ってる男と、休憩スペースでグロリア達にからんでる奴らが魔術ぶっぱしてきたやつ。で、審判のおっさんが止めた人。たぶん、リーダーじゃないかな」
「勢ぞろいじゃん」
発見された時に遭難者の振りをしていたのに問答無用で魔術を放ってきた奴らだ。自分の妖精に魔力出力の制限をかけていたから攻撃をかわせず、火傷や切り傷を負ったのを覚えている。火や風を使う辺り殺意が高い。
奴らが追撃の魔術を放つ前に、駆けつけたリーダーが止めていなかったらどうなっていたかわからない。
「それにしてもどうしちゃったのかね、サエコ先輩。挨拶だけして帰っちゃうなんて。しかもちょう暗いし。ありゃ寝れてない顔だった」
「あんだけ真面目な人も体調崩す日があるんでしょ。人間味があっていいと思うよ。私は」
ナツキが思い出したようにサエコの話題を出す。フジノとしても明らかにおかしいとは思ったが声をかける隙もなく帰ってしまったのだ。
会いたくない人でもいたのかもしれない。あの目線の動きは私にも覚えがある、というかわかる。その相手が自分だったら申し訳ないが我慢して欲しい。
「……あの人が変になったのさあ。フジノに負けてからじゃない?」
ナツキの指摘はフジノとしても、もしかしたら。と引っかかっている事だ。南大門に帰って久しぶりの手合わせをした日、フジノに敗北したサエコの落ち込み具合はあの人らしくなかった。
ナツキが仕入れた噂じゃ恒例になっている訓練場での自主鍛錬の時も引きずっていたらしい。捜索隊の一人として町にきたカエンに励まされて立ち直ったと聞いている。また落ち込んでいるようだけど。
「それは、まあ……でも謝るとかいう問題じゃないでしょ、これは。だよね? 私の感覚あってるよね?」
「あってるから心配すんな。あんたが謝るのは最悪よ。傷跡に塩ねじこむレベル」
「そんなに!? よかったぁ」
自分が変じゃないか気にすることがあるフジノの質問をめんどくさそうにあしらうナツキ。フジノはグロリアを泣かせてしまった反省から、自分の言動が他人を傷付けていないか気にするようになったのだ。
ナツキとしてもフジノのこの変化は成長ともいえる好ましいものだが、いちいち確認される身としては面倒であり最初よりは雑な答えを返している。
セイドウとの手合わせを終えたカエンは帰り支度を始め、グロリア達に話しかけていたカエンの友人らしき冒険者達をともなって訓練スペースから離れていく。
「あ。リーダー以外帰ってる」
カエンの荷物の一つ、彼が肩に担いだ槍が妙に気になったフジノだが、違和感だけで正体はわからず。眉間にしわがよっただけだ。
「じゃリーダーぼっち確定だな」
フジノのつぶやきにナツキは何も考えずに言葉を返す。これだけ離れていれば本人には聞こえないだろうというという油断もある。ナツキはフジノの質問攻撃に対処するように気を抜いて答えてしまっていた。
審判をしていたテツザエモンが離れた位置にいるこちらを向いていると、フジノが気付く。
「……やばい目あった! 顔こわっ。怒ってるでしょ絶対、これ。ナツキのせいじゃん!」
「ち、違うだろ! お前が見すぎなんだよ! あたしのせいじゃない!」
とりあえずジェスチャーを使って謝罪を繰り返す二人。謝罪を始めて数秒して、テツザエモンの視線が二人から離れた。
「許されたのかな?」
「たぶんね」
しばらくして訓練終了の鐘がなり二人はグロリア達と合流する。食事をすませ、明日、双子山へ行くことを決めた。
負傷したメンバー達が今日の訓練で体の調子が戻っていると確認できて、いよいよフジノ達が儀式場へ向かう時がきたのだ。
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