第24話 儀式場の秘密

 双子山の儀式場まで後少しというところ。ナツキを除いたフジノ達四人はBランク地域を進んでいる。ここを通るのは二度目だ。


「ナツキさん、大丈夫かなー」

「ごめん。私の実力不足で」

「あ、いや。フジノさんを攻めてるわけじゃないですよ。心配なだけ!」


 コトネの言葉にフジノが謝る。

 一度目の挑戦ではフジノ達はナツキを魔物達から守りきれずケガをさせてしまい、町に戻ったのだ。フジノの画面投げは攻撃に特化したもので守りには向いていなかった。

 周囲の景色に溶け込んで姿を隠すミザル達による襲撃で負傷したナツキは、町の治療院においてきた。大怪我ではないが念のためだ。


「山を侮っていたのかもしれません……いけませんね。こうなる前にナツキちゃんを止めるべきでした」

「ナツキは生きてるし、正直フジノさんが味方になって調子にのってたんだ。手遅れになる前に気付けてよかった。そう考えよう」


 反省するグロリアをセイドウが元気づける。

 フジノとしても守りきれる自信は半々だった。誰かを守る戦いなんてナツキ達を守ったあの一回だけだ。仲間達の期待に断れなかった自分のミスだとフジノは悔やんでいる。


「ナツキの予想が当たっていたかどうかは、これからわかる。それを土産に帰れば許してくれるだろ」

「そうですね……フジノちゃん、頼りにしてますから。一緒に頑張りましょう!」


 グロリアの励ましが気遣いだとわかっていても嬉しかったフジノは気合を入れ直して進む。


 あれから何度か魔物の襲撃はあったがフジノの画面投げで倒していき、四人とも怪我なく儀式場にたどり着いた。ナツキの指示で魔物の処理はせずに放置だ。


 一対の柱に山の方向へと続く石畳、その先にあるのが洞窟。久しぶりに訪れる双子山の儀式場だ。


「ここが儀式場」

「ただの崖にしか見えませんが……本当にここであっていますか?」

「まさか見えてない? ここにあるのに。そんなことあるの……」


 仲間達の様子からして見えている景色が違うようだ。いつも一人で来ていたフジノには何が原因かも対処法もわからない。うーん、と唸っているとセイドウが提案してくる。


「フジノさん。悪いけど手を繋いでくれないか?」

「なんで?」

「兄ちゃん?」


 ぽかんとするフジノと違い、セイドウの妹であるコトネは訝しげな目をむける。


「違う違う! それで入れるかもしれないって話だから! 俺らの実家にもあっただろう? 知ってる人しか入れない部屋が」

「そういうこと聞いてるんじゃないんですけど! ただ、目でどういう意味かな。ってしただけじゃん! ったく、もう……」


 喧嘩腰だがセイドウの言わんとする事を理解したコトネは、セイドウの手を握り、最後尾にいるグロリアに「手、握ってください」と手をさしだす。

 フジノとグロリアはどういう意味か分からないがこの兄妹を信じて言う通りにした。


「おおー! 見えたー!」

「これは、認識阻害の魔術でしょうか」

「そんなとこ。元呪術師の家でも使われてる古い術だ。知っている人が招かなければ入れない、みたいなやつだ。名前は知らないけど」


 フジノと同じ景色をようやく共有した三人。この場所を唯一知っているフジノが引き入れたことで儀式場の姿を正しく認識できたようだ。

 暗い洞窟の中を進むために背負っていた荷物からランタンを取り出す。石畳の道の先にある洞窟の闇に向かってフジノ達は進んでいく。


「行こう」


 フジノが三人の顔を見て先導する。まだ明るい空の上では意味のなかったランタンの光が洞窟内を照らす。明らかに人の手がはいった場所だ。

 出入り口付近の床に散らばっていた木の葉や枝の不自然な様子に全員が警戒をする。風に運ばれてまんべんなく床を覆うはずのそれの中心に、大きな物が引きずられた跡のようにむき出しの床が見えているのだ。


 注意しながら進むと、高さと広さがある空間に出る。大人が向き合って戦っても充分なスペースだ。ランタンの光で周囲を照らすと不自然な黒い袋が積み重ねっていると気づく。


「これは?」


 大量にある黒い袋。少し袋越しに中身を調べると入っている物の形でなんとなく正体がわかる。フジノ以外の三人は気持ち悪そうにしているが、フジノの頭は冷静に動いていた。

 こおそらく殺人鬼がこの山に埋めていた遺体だろう。捜索隊が掘り起こす前にここまで運んできたようだ。十人以上はいるだろう、袋の数で判断するならば。


「先に行ってもいい? 何かあったら呼ぶから」

「フジノちゃんは平気なの?」


 心配そうにするグロリアに僅かにこみ上げる気持ち悪さを抑えてフジノは応える。


「……どうしても気になることがあって、早く知りたいの」

「わかりました。私達は外を警戒しておきます。何かあれば戻ってきてください。叫んでもいいですからね」

「わかった。行ってくる」


 まだ奥があるようでフジノは更に進む。下り階段を見つけ、降りていくと名前が書かれた石が並んでいる。

 親と子の名前が刻まれている綺麗に磨かれた石。フジノは南大門にある墓地を連想していた。

 

 そして、並んだ石に刻まれている名前を見ていく。ここまでくれば何があるかはフジノにも想像できる。かつて行われた儀式。幼い私をここに連れてきたトウジロウの雰囲気は今ならば想像ができる。


 それは幼いフジノが父の墓に連れて行かれた時の母の様子に似ていた。墓石に向かって目を閉じて手を合わせていた母さん。口うるさいあの人が、あんなに静かで悲しそうにしていたので覚えている。


 一つずつ確認していく。大きく分けて七つの家が使っていたようだ。そのうちの一つに見覚えのある名前を見つけてフジノは足を止めた。家族と似ている名前が並んでいたから。


「……トウジの息子、トウイチロウ」


 私の曾祖父さんの名前はトウジ、祖父はトウジロウ。当たってほしくない想像だが、トウジロウはここで兄弟と戦い勝利したのだろう。儀式場から帰るのは一人だけなのだから。

 だとすれば殺人鬼の家族もこの墓にいて、もしかしたらニタカの親族もいるのかもしれない。


 たぶん、ナツキの予想は当たっている。グロリアの家で語ってくれた予想の続きが脳裏によぎる。双子山にみんなで行くと決めた日の時点で、あの友人にはどこまで見えていたのだろうか。






――――「バカにしたのは悪かったけど、あの場所に何があると思ってるの? ナツキは」


 グロリアの家の一室、フジノとナツキのやり取りで他の三人が笑い終えた後に、フジノが真面目なトーンで聞くとナツキは怒りを主張していた眉をゆるめる。

 テーブルにある高そうなカップを男らしく飲み干して人が変わったように冷静に話し出す。


「たぶん、捜索隊が見つけられなかった行方不明者達の遺体だろうね。何か条件がないと見つからない場所なんでしょ。基本的に人が来る心配もない。私が犯人なら絶対に使う隠し場所だよ」


 誰にも見つからない場所として私も使っていた。殺人鬼もそのつもりだったから、私を殺そうとしたのだとナツキは暗に示しているのだろう。


「……儀式のことも予想ついてるのか?」


 セイドウがナツキに問いかける。自分たち兄妹のもしもの可能性を確かめたいのだろうか。彼には彼の事情があるのだとフジノはその疑問を置いてナツキに注目する。


「儀式を知っているセイドウの実家が健在なのに、おそらく捜査の手はあの場所にいってない。捜索隊のリーダーの実績を前に調べたんだけど、仕事熱心な人で地元の事情なんか気にしないはず。つまり捜索隊に情報提供がされてない可能性が高い。儀式を知っている老人達は秘密にしたいってことになる」

「そんなに隠したいってことは、やっぱり……」


 グロリアは想像がついたようだが言葉にしたくないようだ。多くの魔物を倒してきたがそれは別なのだろう。


「洞窟に隠されているのは、自分たちが儀式で殺した家族。だから誰も真実を話さない。儀式場は殺人鬼だけじゃなく、秘密を知る全ての連中が隠したい場所なんだと思う」

「……ナツキさんさあ。もしかして、犯人の予想もついてたりする?」


 コトネが真剣に考えている顔から一転。思いついた疑問をそのままナツキへ投げかける。

 それはフジノも思っていたことだ。そこまで想像がつくのなら、ありえるかもしれないとナツキの言葉を待つ。みんなの姿は見えないが同じ気持ちだろう。


「……まだ絞りきれてないけど一応きく?」


 ナツキは少し間を置いてからそう答えた――――

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