第四章
第22話 手がかりを求めて
フジノ達が殺人鬼に遭遇し山火事にあった夜から三日。被害の全容や山火事の犯人探しなど冒険者ギルドには様々な人間が集まっている。
そんなわけであの山火事の当事者たちは複数の機関に聞き取りをされているのだ。冒険者ギルドの支部長に、南大門を含めた南部防衛に関わる役人、中央で教授をつとめる偉い先生など様々だ。
フジノ達はそれぞれの部屋で聞き取りを終えて、集合場所である一階の大食堂に集まっていた。最後に集合場所にきたのはナツキだ。ナツキの姿を確認したセイドウとコトネが残っている蕎麦をかきこむ。
「なっが、まじで長すぎる! 何が起きたかなんて知るわけないってのを何回話したか。ビビって隠れてたんだぞコッチはよぉ」
「ナツキだけ長かったね」
「私達の中で一番かしこいですからね。ふふふ」
「なに笑ってんだグロリア」
傷の浅かったナツキとフジノは既に同じ話を違う人に伝えるこれを、やっと終えたところだ。もちろん、フジノの秘密は隠している。そしてグロリアは今日から本格的な聞き取りだ。治療優先で後回しにしていたらしい。
回復魔法をかけてもらって今は元気だが打撲やら裂傷やら、あの日は無理していたようだ。
「……あたしは早かったよ!」
「俺らは怪我がひどかったしな。治ったらまた聞かれんだろ」
「えー、めんどっ」
器に残る温かいつゆを飲み終えたコトネが飲み終えてすぐに話しに入る。
グロリアよりも怪我のひどかったセイドウとコトネの二人は最初、病室で話をしていたらしい。
二人の頭や腕に巻かれた包帯から重症だったはずだが、この二人も治りが早い。魔術師の回復が早いというのは本当だと改めて実感する。
「食べおわった?……じゃあグロリアの家に集合で」
仲間達は返事をして、セイドウとコトネは治療院の方へ経過観察に。フジノ、ナツキ、グロリアの三人はそのまま目的地へ向かう。
詳しいことは家についてからだ。あの山火事の時は余裕がなくて周りを気にせずに話し込んでしまったが、盗み聞き放題に殺人鬼が出没した夜の山に長居してしまった。
あれは良くないと後で冷静になって反省したのだ。秘密の話し合いはふさわしい場所でするべきだった。
ナツキ達がギルドを後にした頃。冒険者ギルドの館には捜索隊のメンバーが集まりつつあった。たまたま近場にいた双子山の捜索隊でリーダーをつとめた男、テツザエモンもその一人。彼は南大門に残ったカエンと話をしている。
「双子山の鎌鼬ねえ。そんな昔話を本気にして、また調査とは……カエンは解散してからもここにいたんだってな。今わかってる情報はあるか?」
「双子山で鎌鼬に遭遇したと証言する冒険者がいます。現場はそのままにして逃げてきたらしく、先についたメンバーにその現場を確認してもらっています」
テツザエモンは冒険者ではなく中央の役人の一人だ。詳しい事情は誰も聞いていないが生まれついての魔術師であり実力も経験もある男だ。カエンは解答を間違えないように内なる妖精の助言にしたがって答えていく。
「爆発物は?」
「中央で流通している魔導具の一つだと聞いています。この町の商店街でも扱っており、手がかりとしてはまだ弱いかと」
山火事の原因となった魔導具は双子山を主な活動地域としている冒険者は使わないものだが、この南大門には外部の冒険者も多く立ち寄るのもあって揃えてある。
南部防衛の役人が訪れた理由はそれだろうとカエンは思っていた。
「そうか……そういや、お前は行かないのか。調査」
「実はあの夜に負傷しまして。山火事にイワザルの群れですから、五体満足で逃げるのが精一杯でしたよ」
あの山火事の日に負傷したカエンの傷は治りかけているが、それを明かすことはない。左足をかばうために用意した杖が重症だという印象を見る人に与えている。
「ふーん。早く治せよ」
「はい」
「今日は蕎麦がうまいぞ。おすすめだ」
テツザエモンはつゆの一滴も残っていない冷めた器をもって席を立ち、カエンの元を去る。彼と入れ替わるように、食堂の出入り口からこちらに来る女性にカエンは小さく笑みを浮かべた。
「ああ。おかえりサエコ。大変だっただろう。まずは休んでくれ」
「……はい。そうします」
「あとでちゃんと話を聞かせてくれ」
サエコがあの山で何を見たのか。それがカエンにとって一番重要なことだ。連絡を無視していたことを水に流すほど、カエンはそれを楽しみにしていた。
グロリアの家の一室に集まった五人。町の中心部から離れた場所とはいえ大きな屋敷に住むのがグロリアだ。
魔術師一家の屋敷ということもあり傍聴対策とやらは万全で、以前からナツキ達四人が秘密の話をする時に使っていたようだ。
「遅れちゃったよー、ごめんね! もう始まってる?」
「大丈夫。まだですよ」
「グロリア。治療院の先生から。これ、忘れてたって」
「あら、ありがとう。届けてくれて」
着いたばかりのセイドウとコトネの兄妹は怪我を感じさせないほど通常運転だ。私が一度も呼ばれなかったのはまだ信用されてなかったからだろう。今は違うみたいだけど。
「……」
それにしても、落ち着かない。座っている椅子がギルドのよりもふかふかだ。
よくわかんないけど高そうな絵画が壁にあるし、テーブルに置かれた知らない飲み物に高そうな食器。ナツキのくつろぎっぷりに価値をわかってないのかとジト目をむけるフジノ。
「なんだよ? そんなキョロキョロしちゃって。子供かよ」
「はあ? 違うから。トウジロウの屋敷だってデカいから。作りが違うから気になっただけだし」
フジノはナツキ以外の友達の家に行くのは初めてだった。比べるまでもないがグロリアの家は大きい。グロリアの両親も魔術師だが今は出張中らしく、グロリアが自由に使えて両親の魔術で守られたこの家は秘密の話にうってつけとのことだった。
「……で、これからどうするの?」
テーブルを囲む椅子に五人が座っている。楽しそうなグロリアに文句を言うのをやめたフジノは、ナツキに問いかける。
「儀式場に行く。あんたの画面投げがあれば私達がいても問題ないでしょ」
「それは……まあ、いけると思うけど」
フジノの祖父が幼い彼女を連れて行った思い出の地であり、殺人鬼に初めて遭遇した儀式場。セイドウとコトネも実家を出なければそこで儀式を行ったかもしれないと言っていた。そして殺人鬼に殺されかけたフジノを助けたニタカにも関係がある。
「フジノが最初に襲われた儀式場。あんたの爺さんと師匠、それにセイドウ達の話、そして殺人鬼。こんだけ重なってるんだ。絶対にそこに何かある。捜査が始まれば、あたしらは山に入れなくなる。その前に確認しなきゃ。きっと手がかりがあるはず」
「そうですね。なるべく戦闘を避けて、安全第一でいきましょう」
「もう捜索隊は集まり始めてる。早いほうがいい。いつ行く?」
「どんな感じなのかなー」
「……」
グロリア達がそれぞれ返事をするがフジノは沈黙していた。
正直なところ、ナツキがここまで考えているとは思わなかった。あの夜に自分を引き止めたのは口がうまいだけかも、なんて疑いは間違いだったと再評価する。
「どうした? フジノ。気になることあんなら言って」
知性を感じる雰囲気がぱっと消えていつもの表情が出てくると、ナツキを素直に褒めようとした気持ちをつい曲げてしまう。それにナツキだけでなく、他の三人も自分に注目している恥ずかしさもあった。
「いや……ナツキって、バカじゃなかったんだなあ、って」
「おい、お前ぶっ飛ばすぞ」
二人のやり取りを聞いて、フジノとナツキ以外の三人が笑うものだから、二人は遊びじみた口喧嘩を羞恥心でやめた。
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