第7話 不殺拳法

「お待たせいたしましたにゃ! 」

 シャルとラムポンの前に一枚のカードが差し出される。金色に光り輝くそのカードにはパーティ名である『月下』と二人の名前、それからパーティのランクを示す『D』の文字が刻まれていた。

「こちらがパーティカードですにゃ。シャルさんとラムポンさんはお二人共Dランクですので、パーティの方もDランクからとなりますにゃ。このパーティカードはメンバーの加入・脱退手続きやパーティランクアップの手続きの際に必要となりますので、冒険者証と同様に大切に保管しておいてくださいにゃ」

「ありがとうございます、レグメリカさん」

 レグメリカからカードを受け取ったシャルは軽く頭を下げて礼を伝え、先程まで座っていた席に戻ると固まった体をほぐすように伸びをして息を吐いた。

「やーっと手続き終わった……」

「随分疲れてるポンね」

「ああいうの苦手なんだよ……はぁ、ちょっと休憩してから出発しよう」

「了解ポン」

 背もたれに体を委ね脱力するシャルを見ながらラムポンも椅子にもたれかかる。

「あ」

 天井を見上げていたシャルが声を出し、ゆっくりと前のめりな姿勢になる。

「どうしたポン」

「いや、パーティメンバーについて相談しようと思ってたの思い出してさ」

「パーティメンバーポン? 」

「うん。パーティメンバーの募集をしたいと思ってるんだけど条件をどうしようか迷ってるんだよね」

「なるほど……シャルはどう考えてるポン? 」

「えっと……まずは治癒か調合ができる人でしょ、それから収納魔術が使える人……あと戦闘能力はなくても良いから索敵だったりバリアを使える人がいるといいな、って感じかな……」

「それは僕も概ね賛成ポン。ただ、回復担当については慎重に考えるべきだポン」

 すっかり休憩の姿勢から話し合いの姿勢に切り替わってしまったシャルはラムポンの話に真剣に耳を傾ける。

「個人的には一番パーティの回復担当に向いているのは『治癒魔術師』だと思うポン。次点で調合能力を持っている人。『薬師』や治癒能力を持っているだけの人はあまりパーティの回復担当には適していないポン」

「あれ? でも、『清廉なる誓い』の回復担当はオミさんだよね? あの人の天与職は『薬師』だって聞いたけど……」

「向いてないからって全く仕事ができないわけでは無いポン。『清廉なる誓い』にはバリアを張れる『守護騎士』ローデと行動を妨害できる『植物魔術師』マリエルがいたからそもそも敵の攻撃で怪我することが少なくて『薬師』の薬による回復で十分だったんだポン」

「なるほどね。『薬師』の回復で十分なパーティなら『薬師』か調合能力を持っている人の採用もアリってことか……そういうパーティなら『治癒魔術師』よりも調合能力持ちの『収納魔術師』とかを優先したいね」

「まあ、色々言ったけど『治癒魔術師』に回復を担当してもらうのが無難ポンね。ある程度の距離があっても素早く治癒ができるっていうのは頼もしいポン」

「ふむふむ……『治癒魔術師』以外の治癒だとやっぱり回復力の低さや治癒対象、範囲とかがネックになるし、そう考えると『治癒魔術師』がベストだね。とりあえず今の話を参考に後でパーティメンバー募集のポスターを作ってみるよ」

 そう言ってシャルは立ち上がった。

「休憩はもういいポン? 」

「うん、もう大丈夫。いい時間だしお昼食べに行こう」

 ギルドを出た二人は昼食を求めて大通りの人混みの中に消えていった。


 同時刻、王都某所。

(ささみ、薬草、包帯……うん、全部買えたな。後は……)

「そこのお嬢さん」

「……どうかしましたか? 」

 一人で買い物をしていたキラヴィエ、手元のメモ帳を見ながら歩く彼女に一人の老婆が申し訳無さそうに話しかけた。

「道に迷ってしまってね……この住所の所に行きたいのだけど、行き方を教えてくださいな」

「少し見せてください。……目的地は大通りの方の酒場であってますか? 」

「ええ。孫がそこで働いているから、会いに来たの」

 愛おしむような表情を浮かべる老婆にキラヴィエはメモを返すとメモ帳をしまい込んだ。

「なるほど、この場所はここからだと少し遠いので私も着いていきましょう」

「まあ、ありがとうねぇ」

「お気になさらず」

 そう言うとキラヴィエは老婆の歩調に合わせゆっくりとした速度で先導し始めた。

 およそ三十分後。二人は目的地である酒場に無事到着した。

「ここで合ってますか」

「ええ多分、ここで……あっ、孫がいたわ! ありがとうね、お嬢さん。お礼に飴をあげようね」

「えっ、いや、そんな」

「はい、どうぞ。気をつけて帰ってちょうだいね」

 受け取りを拒むキラヴィエの手に無理矢理飴を握らせた老婆は孫の方へと歩いていく。その背中を見ながら呆然と飴を握りしめていたキラヴィエは飴もメモ帳と一緒のポケットにしまい込み、踵を返した。この後の予定を頭の中で振り返り次の目的の場所へ向かおうとした時、彼女の視界の端に蹲り震える男性が映った。

「うぅ……」

「大丈夫か? 」

 咄嗟に声をかければ、黒いローブを着てフードを深く被った男は僅かに顔を上げた。

「どこか痛むか? 必要なら痛み止めもあるが」

「いや、少し足を挫いただけだ……ただ道がわからなくなっちまって……」

「そうか。場所が分かれば案内できるが、必要か? 」

「ホ、ホントか!? 」

 キラヴィエの提案に男は喜びの声を上げる。

「ああ。目的地はどこだ? 」

「そりゃもちろん……」

 顔を上げた男とキラヴィエの目が合う。毒々しい赤紫色の光を放ちグルグルと渦巻く男の瞳を見た瞬間、キラヴィエの意識が歪み乱れ始める。

「しまっ……!? 」

「『天国』だよ、お嬢ちゃん。『天国』に連れて行ってくれ! 」

 視線を外そうとするももう遅くキラヴィエは完全に意識を失いその場に倒れてしまった。

「おおっと……効きが良すぎるな、まっいいか。おいデブ! 終わったぞ! 」

「誰がデブだ、ノーセン! 」

 声をかけられ物陰に隠れていた小太りな男が出てくる。

「全く……さっさと行くぞ。その女も歩かせろ」

「はいはい……お嬢ちゃん、僕らに着いてきて」

「……はい」

 ノーセンの言葉に従いキラヴィエは立ち上がり歩き出す。その歩みは非常にしっかりとしていたが、瞳は焦点があっておらずぼんやりとしていた。

「にしても、お前の催眠の発動呪文トリガーワードは相変わらずイテえよな。『天国』て」

「そんなことないでしょ、なあ、お嬢ちゃん」

「……はい」

 夢を見ているようなぼんやりとした声での受け答えをノーセンは鼻で笑った。

「凄い深くかかってるね、心のガードが甘すぎ。きっと愛されて育ったんだろうねえ……社会を知らない良いトコ育ちの甘ちゃん。ジェインがキレんのもわかるな」

「ベラベラ喋ってねえでもっと速く歩かせろ。ノロノロしてたら騎士団に捕まっちまう」

「わかったって……お嬢ちゃん、歩くスピード上げて」

「……はい」

 そのまま歩くスピードを上げた三人は路地裏を早足で通り抜けていった。


「いやあ……美味しかったね、サンドウィッチ」

「いや、美味しかったポンけど……十個は流石に食べすぎじゃないポン? 」

「そうかな? ここのは少し小さめだったし、美味しかったからまだまだいけるよ」

「す、凄い胃袋ポン」

 昼食を終えたシャルとラムポンはパーティメンバー募集ポスターの掲示のために冒険者ギルドへと向かっていた。

「ポスターを貼ったら……何か簡単な依頼でも受ける? 」

「そうポンねぇ、どうせ何の予定もないしそうす……あれ? 」

 ラムポンは急に動きを止めた。それを不思議に思ったシャルはその視線の先を見る。

「あ……キラヴィエだ」

 そこには二人の男と共に人混みの中を進んでいくキラヴィエの姿があった。少し距離が空いているからか、向こうはシャルとラムポンに気づいていないようだった。

「むむむ……? 」

「どうしたの、そんなにガン見して」

「なんか……あの二人変な感じがするというか……」

「キラヴィエの隣の人達のこと? ……うーん、僕にはわかんないや。気の所為なんじゃない? 」

「なんかついさっき見たような……」

 じっと男達の背中を見ていたラムポンは男の片方の服装を見て、あっ、と声をあげた。

「アイツ、アイツ〜! あの背が低い方、さっき僕の首掴んだ奴だポン! 」

「ええっ? ……あっ、確かに服装が一緒だ。なんでそんな奴がキラヴィエと一緒に……? 」

「わかんないけど何だかマズイ気がするポン。追いかけるポン?! 」

「……そうだね、距離をとりながら追おう」

 さっきシャルに絡んできた不良連中の一人と謎の黒ローブの男、そしてキラヴィエ。この組み合わせに何か嫌な気配を感じたシャルは三人の尾行を開始した。


 キラヴィエを連れた男達は薄暗い路地を通り、王都の外れを目指して歩みを進めていた。ふとノーセンが小太りの男に小声で話しかけた。

「尾行されている……」

「ああ……? 」

「おい、振り向くなよ! 騎士団だったらどうするんだ」

「どうもこうも無いだろうがよ……そもそも、尾行されてるから何だってんだよ」

 男は不機嫌そうにフンと鼻を鳴らす。

「あそこまで着いてこられた所でアイツらが入ってこれる訳もねえんだ。気にするだけ無駄無駄」

「そうかもしれない……けど、一応対策しとくに越したことは無いね」

「何するつもり、だっ!? 」

 ノーセンがローブから地面に落とした筒から吹き出してきた白い煙が辺り一帯を覆う。驚いた様子で男は咳き込んだ。

「てめっ、そんなの持ってたのか! 」

「ほら走って! 逃げるよ! 」

「……はい」

 真っ白な煙の中を三人は走り抜ける。路地をいくつか曲がっていった先、開けた場所には廃墟が立ち並んでいた。王都の一部ながら酷く荒れていて何故か騎士団も巡回しに来ないこの区域を男達は拠点にしていたのだ。

「おい、戻ったぞ」

 男が壁をノックする。すると、何も無いただの壁であったはずの場所がドアのように開き、三人を迎え入れた。

「よォ、おつかれ」

 廃墟の中で待っていた金髪の男――ジェインは愉しそうな声で男達を労った。

「催眠のかかりはどうだ? 」

「かなり良いよ。精神の防御がかなり甘い子だったみたいだ」

「フゥン、まァいい。んじゃ、まずは腕と足を折るか」

「えぇ!? ちょっ、そんなん聞いてねえぞ! 」

「途中で暴れられても困るだろォが」

「……ハハ、随分痛い目に遭ったみたいだね」

 キラヴィエからの攻撃を警戒するジェインの様子を見てノーセンは笑った。

「お嬢ちゃん、これからあいつらが君の手足を折るらしいけど抵抗しちゃダメだよ」

「……はい」

 未だぼんやりとしているキラヴィエは素直に返事をした。そのやり取りの間にジェインと他の男達で誰がキラヴィエの骨を折るかが決まったらしく一人の男がため息を吐きながら前に出てきた。

「……それじゃ折るぞ」

「おう、さっさとしろ」

 ジェインに急かされ男はキラヴィエの右腕を勢いよく逆方向に折り曲げた。

「っ…………! 」

「おお……マジで抵抗しないんだな」

「喋ってないで早くやれ」

「はいはい……」

 言われるまま男が左腕に触れた。その瞬間、

「ごぶっ!?!? 」

「!? 」

 キラヴィエの左ストレートが男の顔面に炸裂した。

「な……オイ、ノーセン! 催眠は!? 」

「まだ解けてない! だってのになんでだ……!? 」

(あんなに深く催眠にかかってたのに、骨が折れた程度で意識が戻るわけがない! )

 急に動いたキラヴィエにその場にいる全員が混乱している中、当の本人はまだぼうっと突っ立っていた。

(催眠にはかかりやすいが指示の通りが悪いタイプなのか……? だとしてもあの攻撃はおかしい)

「……っ、テメ……何殴ってんだよっ! 」

「あ、おい、刺激するな! 」

 制止を無視して頭に血が昇ってしまった男がキラヴィエに殴りかかるが、それをキラヴィエはジェインにやったのと同じように男を地面に叩きつけた。

「アイツ、なんで右腕動かせてんだ!? 」

「……う、ん? 私は……」

「チッ! 催眠が解けた」

 激しく動いたことをきっかけにキラヴィエの意識が覚醒する。一瞬で状況を理解したのか、彼女はすぐさま男達と距離をとった。

「お前たちはさっきの……! 」

「クソッ、テメェらこうなったら全員で……」

 男達がキラヴィエに攻撃しようと構える。キラヴィエも構えを取るが内心彼女は焦っていた。

(逃げなければ……しかし、何処にも出口が見当たらない! 壁を破るには今の装備では心許ないし……)

 彼女がそう思考を巡らせている間にも男達はジリジリとキラヴィエを壁側へと追い詰めていた。

「行くぞォ!! 」

 ジェインの声により沈黙の糸が切れたかのように一斉に男達が動き出した、と同時にキラヴィエの立っている側の反対の壁の一部が崩壊した。

「な、なんだ!? 」

 大きな音を立てて壁の破片が地面に落ち砂埃が立つ。その砂埃の向こうに見えるのは剣を持った人の影。

「キラヴィエ、大丈夫!? 」

「な、なんだあのポニーテールの女はァ……コイツの仲間かァ!? 」

「僕は男だっての! 」

「君は、さっき助けた……」

 魔法少女の姿で現れたシャルに周囲がどよめく。

 突然の登場にキラヴィエも呆気に取られていたが、ハッとしてこの機を逃すまいと魔力を込めた指先でノーセンの額を突いた。

「ぐぅっ!? 」

(隙アリ……! )

 そのままノーセンは膝から崩れ落ち、地面にパタリと倒れた。

「ノーセンがやられ……ごはっ! 」

「ぼーっとしてたら危ないよ」

『ナイスポン! 』

「ぐ、うううぅぅ……! 」

 シャルに剣で腹に平打ちをされた男は痛みのあまりか地面に蹲りうめき声を上げた。数人を戦闘不能にしつつ、キラヴィエは壁側の狭いスペースからシャル側の開けたスペースへと移動するとシャルの横に立った。

「怪我はない? 」

「ああ、君のおかげで。だが、その……何故そんなに動きづらそうな格好をしているんだ? 」

『ごもっともポン……』

「い、一応理由はあるんだよ! 趣味とかでは無い、決して! 」

「おいおい! 調子に乗ってお喋りしてんじゃ、がっ! 」

 二人の隙を突こうと前に出てきた男もキラヴィエに額を突かれ、地面に伏せる。

「……談笑の前にこっちを片付けなきゃだね」

「そうだな」

「チッ、なんなんだテメェのその技……! 触れただけで人を気絶させられる技なんて聞いたこと……」

「これは我が家に伝わる拳法だ。魔力を込めた一撃で相手の魔力の流れを乱し、動きを止める……これが『不殺拳法』の戦い方だ」

「なっ……! 」

 手早く襲いかかってくる男達を気絶させながらキラヴィエが説明をすると、ジェインは何かに気がついたかのように目を見開いた。

「不殺拳法、だと……? まさか、テメェ、アズクラーピア家の医者か!? 」

「……半分は合っているな。私の名はキラヴィエ・アズクラーピア、医者見習いの『治癒魔術師』だ」

「なるほど、『拳士』にしては破壊力が足りないと思ってたが……クク、良いこと聞いたぜェ……! 」

「何? 」

 自信満々に笑うジェインにキラヴィエは怪訝な視線を向ける。

「一発で殺しちまうかもしれねえから隠してたが……治癒魔術師なら大丈夫だよなァ!!」

 ジェインは懐から取り出した小型爆弾に魔術で着火し、キラヴィエの方に思い切り投げると自身は後ろへ跳んで距離を取った。

(爆弾!? マズイ、避けられ――)

「動かないで! 」

「! 」

 シャルに声をかけられたキラヴィエは指示通り動かなかった。そして爆発の寸前、爆弾と立ち止まった彼女の間にバリアを纏ったシャルが割って入り、盾となった。

「防がれ、だッ!? 」

 攻撃を防がれ愕然としたジェインの腹にシャルは蹴りを叩き込んだ。そのまま彼は地面に倒れ動かなくなった。

「クッ、ジェインがやられた! 」

「この野郎……良くも! 」

 そう叫んだ男の手からシャル目掛けて炎が吹き出した。だがシャルは火焔魔術によるその攻撃をバリアで防ぎ、そのまま男に向かって剣を振った。剣の先からは弧を描いた淡い光の斬撃が飛んでいき男に直撃した。

「なあっ!? なんだこのビーム……!? 」

『光斬撃改良版ポン! 』

(勝手に命名された……)

 男の体は宙を舞い壁にその体を強く打ち付けた。

 その後も二人は残った男達を次々と戦闘不能にしていき、最後はシャルの平打ちで残った男を気絶させて漸く片付いた。

「ふぅ、やっと終わった」

『お疲れポン』

「すまない、縛るのを手伝ってもらってもいいか」

「ああうん、わかった」

 ロゼットを外しシャルとラムポンが元の姿に戻るとキラヴィエは驚いたような表情を見せた。

「変身、した……いや、変身が解けた、と言う方が正しいのか? 」

「うん、本来の姿はこっちだからね」

「ではあの姿は一体? 」

「あれは僕とシャルが魔法少女に変身した姿だポン。詳しいことは僕らにもわからないけど……僕らは魔法少女に変身すると普段は使えない色々な能力が使えるようになるんだポン」

「なるほど……合点が行ったよ」

 キラヴィエは納得したとばかりに頷きながらも手を動かし、どんどん気絶した男達を縄でまとめていく。見様見真似で二人も男達を縄で縛る。

「意外と難しいポン……」

「キラヴィエは随分手慣れてるね」

「不審者への対応は一通り兄に仕込まれたからな。実際にやるのは初めてだが……」

 そう言いながらキュッと最後の縄を結んだ。

「これでよし」

「それじゃ騎士団の人を呼んでくるポン! 」

「キラヴィエ、一応ラムポンと一緒に行ってくれる? 」

「……コイツらを一人で見張るのはやめておいた方が、」

 シャルを一人置いていくことに反対するキラヴィエの言葉を遮り、彼女を安心させるように笑ってシャルは答えた。

「大丈夫だよ、ちゃんと見ておくから」

「…………頼んだ」

「任せて! 」

 シャルはそう言って走って行く二人の背中を見送った。


 数分後。二人はシャルの予想よりも遥かに早く騎士団の騎士を数人連れて戻ってきた。三人が縄で縛った男達を引き渡すと騎士達は男達を連行し騎士団に戻っていった。

「すぐ戻っちゃったけど、事情聴取とかしなくて良かったのかな」

「それについてはまた後日、って言ってたポン」

「詳しいことはわからないが彼らの反応を見た限り、どうやらこの区域自体が訳ありなようだ。私達も長居はしない方が良いだろう」

「そうなんだ、じゃあ早くここから離れよう。キラヴィエも、途中まで送ってくよ」

「助かるよ。……あ」

 ハッとしてキラヴィエは声を上げる。

「そう言えば君達の名前を聞いていなかったな」

「確かに、自己紹介してなかったね。じゃあ改めて……僕はシャル・フェリエル。よろしくね! 」

「僕はラムポン ポン! 」

 二人の名前を聞いたキラヴィエは口の中で小さく復唱すると、彼女はシャルとラムポンにしっかりと目を合わせて薄く穏やかに笑った。

「シャル、ラムポン、今日はありがとう。君たちがいなかったらどうなっていたことか……」

「いいって、気にしないでよ。困った時はお互い様だからさ」

「こっちも今朝助けてもらったポンね」

 朗らかに笑う二人に釣られてキラヴィエの目元もくしゃりと不器用な弧を描く。その時、コトンと何かが落ちる音が聞こえた。シャルがその音に振り返るとそこには一つの飴とメモ帳が落ちていた。

「あれ、これ……もしかしてキラヴィエの? 」

「うん? ……ああ、私のものだ。うっかり落としてしまったようだ」

 シャルが拾った物を見てキラヴィエが頷いたのを確認すると、シャルは飴とメモ帳を手渡した。

「はい、っとと……なんか落としちゃった」

 メモ帳から一枚の紙切れのような物を落としてしまい、シャルは慌ててそれを拾う。見覚えのあるその紙切れにはキラヴィエの名前と『D』の文字が刻まれていた。

「これって……冒険者証だ」

「へえ、キラヴィエは冒険者なんだポン? 」

「ああ、そうだ。と言っても、あまり冒険者としての活動はしてないが……」

「キラヴィエ! 」

「おわっ……急にどうしたんだ? 」

 唐突に大きな声を上げてキラヴィエの両手を掴んできたシャルにキラヴィエの瞳には困惑の色が浮かぶ。シャルの真赤な瞳はその色を確と捉え、決意のこもった視線を返した。

「僕達とパーティを組んでくれないか?! 」

「えっ? え、えぇ……!? 」

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