第23話『報酬は未来の為に』
火竜討伐成功の報は、風林火山風隊によって関係者に伝えられた。報せを受けて、パキラ、ラキアの両王子が、ヨアナ湖畔の理不尽の理の別荘へと出立した。
(エミル)
「御飯だぞ~、集まれ~!」
エミルの呼び掛けに集まったのは、先だって討伐した火竜の幼体たちであった。種の絶滅による影響を心配した理不尽の面々は、事前に幼体と卵を回収していたのだ。それは人々に害をなさないように躾て野生に戻そうという試みであった。
(エミル)
「よしよし、はい並んで!まだよ~…よし!」
なかなか上手に躾ているようだが、エミルに言わせれば「知能が高いなら、犬と同じ感じでいける」ということらしい。
食べ終えた火竜たちは、エミルに「全部食べたよ褒めて」とでも言っているのか、エミルの周りに集まって見上げたり、スリスリしたりしている。火竜ではないのが1匹紛れ込んで背後からスリスリしようとしたところで、エミルが振り向き、その回転の力を余すことなく伝えられた肘が、その不届き者の溝尾にめり込んだ。
(エミル)
「よ~し、デザートだぞ~食べた子から集まれ~」
その時、別荘の中から呼ぶ声が聞こえた。
(ジュマ)
「あ、火竜の御飯だった?すまん。って、パルパどした?ベッタベタ、ってか生臭いぞ」
(エミル)
「火竜たちに舐めさせるプレイしたらしいよ」
(ジュマ)
「うわぁ、流石に引くわ~。ルビア、タオルお願い。パルパは外いくぞ!」
ジュマの水魔法が風魔法と合わさり、高速の水竜巻と化してパルパを飲み込んだ。
(パルパ)
「痛!!ヒール!ヒール!ヒール!ちょ!!ヒール!待っ痛!ヒール!ヒール!…」
─2分後─
(パルパ)
「長いわ!てかこれ実際やるとめっちゃ痛い!」
これは、かつてゲームの中でシャワー浴びを表現するのに広く使われていたネタ表現である。なるほど、現実では痛いらしい。
(ジュマ)
「さて、火竜討伐の報酬なんだけど、何か希望ある?女とかなしでな!」
(パルパ)
「む…じゃあない」
(エミル)
「流石に酒って言っても、今回は2人(両王子)が納得しないだろうし、私も特にはないかな」
(ジュマ)
「じゃあ、俺の提案なんだけど、ショッピングモールってのはどう?」
ジュマの考えはこうだ。
複数の店舗が1つの建物の中に出店する地球のショッピングモールのスタイルを取り入れて、商人たちに出店してもらい、売上に応じた出店料を貰もらう。それでモールのスタッフとして、パートやアルバイトを雇う。
1ヵ所に多くの品が集まる事で便利になり客を集め、他店と同じ空間に店を構えることでぼったくりを防いだり、品質やサービスの向上を狙う。
これを旧帝国の各町に町の規模や交通の利便性などを考慮し、それに合わせた規模で建て、町の特産品を扱う店を地元主導で設けて、モールのメンテナンスは町の所有物として町人商人みんなで行う。税もモールが町の経済の中枢と考えてモール単位で役場代わりに監理すれば、時に個々に重くのしかかるような、例えば冷害発生のような年にも対応しやすい。
(ジュマ)
「これで、便利になるし、雇用も生まれるし、売上に応じて出店料もらうから売れにくい品を扱う旅商人も安心して出店できるでしょ?元々町で飲食店やら鍛冶屋やらの店をやってた人は、モールを建てる時点で設計に参加してもらって、後から町に定住して店をやる人には積立から改装の補助金を出して町ぐるみで参入を手伝う。医療関連は優遇するのもいいかもね。これで各町は金銭、治安、衛生、活性化、どこをとっても助かるし、この計画で損するとしたら、最初に建てる国の負担ぐらい、その負担を今回の報酬とさせてもらうってわけ」
(エミル)
「私らのメリットは?」
(ジュマ)
「酒うま、王子助けぐらいかな。でも、欲しいものってないでしょ?」
(パルパ)
「あるぞ!」
(ジュマ)
「女の子以外で?」
(パルパ)
「う…え…えと……文明の利器!」
(エミル)
「この世界の文明レベルをおまえは分かった上で言っ…いや、ありかも?風林火山に私らがこの世界の文明に合わせて作れるものをモールで販売してもらえば、広めやすくなるよね。特産品がないとことかを優先して出せば、町の産業にも繋げやすいし」
(ジュマ)
「いい考えだね、俺らのメリットの話ではなくなってるけどな」
こうして、両王子到着までの間に報酬で発展計画について更に話し合われた。
(パキラ)
「素晴らしい案だと思います。ですが、これって報酬になっていませんよね?」
その後、この計画のモール建設費について試算した両王子は、国王と共に青ざめたのである。
(ラキア)
「ジュマさん…。今のうちにペレスから多額の資金を出させるのが狙いだったのですね…ありがとうございます」
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