第21話『火竜討伐依頼』
ペレス王国と元帝国との国境、ヨアナ湖からほぼ真北に進んだ場所に、ムガザ火山がある。ここには100を越える火竜と火竜王バーヌスが住むと言われている。
ヨアナ湖畔の別荘を訪れていたパキラとラキアの両王子は、先の和食食材の加工に関する組織が動き出した事を伝えていた。組織名は、ジュマご贔屓の戦国武将武田信玄にあやかり「風林火山」とし、早さを要する連絡関係を主任務とする「風隊」、情報収集関係を主任務とする「林隊」、情報の発信や拡散を主任務とする「火隊」、各地に留まりじっくりと技術を伝え定着させ経過を見守る事を主任務とする「山隊」の4隊が編成された。いずれも、食材加工だけではなく、両王子や理不尽の面々、ペレス、ラキシア両国王に関する様々な任務も行う、関係者7名専属の秘密組織である。
両王子が一通りの要件を済ませた後は、例によって理不尽の面々と酒盛りに興じていたのだが、そこへ風隊が緊急報告に現れた。
「申し上げます!ペレスより旧帝国へ移動中の商隊より火竜目撃の報告がありました!」
これは、言い換えれば旧帝国の北部地域からの加工品運搬予定ルート上での目撃報告であった。
火竜は、ムガザ火山から離れる事が少なく、火山及びその周辺に近付かなければ目撃する事は殆どない。しかし、十数年おきに街道沿いでの目撃が頻発する事がある。気候のせいとも食料不足のせいとも言われているが、理由は定かではない。ただ、その年は冬が早く訪れ、厳しい寒さと大雪になるとも言われていた。
加えてその年は、火竜が街道を往来する人を襲ったり、付近の村を襲う被害が報告されるのである。
(パキラ)
「直ちにという程でもないけど、早めに対策を取った方がいいね」
(ラキア)
「そうは言っても、かなり遠回りになるヨアナ湖の南回りルートを使うように呼び掛けるぐらいしか出来ないのですが…」
そう言いながら、2人は姿勢を正し理不尽の面々に向かい合った。
(ラキア)
「ちなみに、規格外な戦力を有する皆さんなら火竜を倒すのは簡単だと思うのですが、火竜はムガザ火山にある大洞窟内に巣を構え、その数は100を越えるといいます。さらにその最奥には火竜の王が棲むと言われています。そのような巣窟の中へ討伐に踏み込むのは、例え皆さんであっても難しいのではないかと考えてしまうのですが、実際はどうですか?皆さんならどう攻めますか?」
理不尽の面々はかつてのゲーム内での討伐を思い出していた。その方法は彼ららしくも、壁の中からの攻撃であった。
しかし、その方法は現実のこの世界では使えない。いつもの上空からの攻撃も、相手が洞窟の中では難しく、それを無視するほどの威力にすると火山自体の消滅、場合によっては、地下からの圧力を抑えきれないことによる爆発へと繋がりかねない。最悪は行き場をなくしたマグマが、地盤の弱いところから上昇し爆発噴火ということが、人の住む地域で発生するリスクさえある。
(ラキア)
「やはり簡単ではなさそうですね」
3人の顔を伺いながらラキアが呟いた。
(ジュマ)
「水攻め…」
ジュマが呟いたのを王子たちは聞き逃さなかった。ジュマは、リスクを伴うから出来るかどうか今ここでは断言できないとして、可能性がある事と、それには時間を要する事を伝えた。
(パキラ)
「ムガザ火山はペレスと旧帝国との国境にあって、これまで両国共に甚大な被害を受けてきました。もしどうにか出来るのであれば、協力をお願いしたいと思います。報酬は、望まれるものを出来る限り用意するとお約束しましょう。どうかお助け下さい」
かくして、理不尽の理による火竜討伐が始まった。
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