第19話『ふるさとの味いかがですか?』

 両陛下と両王子が帰途につき、大騒ぎだった別荘は静かだった。何ががおかしい。静かすぎるのだ。

ジュマとエミルは同じ事を感じて、目を合わせて同時に声を上げた。


(ジュマ&エミル)

「パルパは!?」


 さて、問題のパルパは、ペレス王城でメイドとして働く、両陛下おススメの娘を見に、陛下たちに同行していた。

エミルのマップとサーチのスキルで探ったところ、帰りを急ぐ一団の中にパルパの反応があった。


(エミル)

「王様たちと下衆な話をしてると思ったけど…何しに行ったやら…」


(ジュマ)

「…ははは……多分ろくな理由じゃないね…」


 流石のジュマも苦笑いであった。


(ジュマ)

「エミル、暇なら何かしようよ」


(エミル)

「何かって?」


(ジュマ)

「それはまだこれから考える」


(エミル)

「それならさ、ご飯作ってよ。和食に飢えてるんだよね」


(ジュマ)

「和食って言ったって…」


 ジュマがエミルの顔を見ると、エミルはニヤッと笑いながら頷いた。


(ジュマ)

「味噌、醤油、鰹節、昆布、椎茸、またはこれらの代用となるもの…。作り方は大体分かるけど、出来れば作らずに手に入れたいとこ…って、そうか!エミル、やるじゃん!」


 手始めに2人は手分けして大陸三国の海沿いの調査から行い、いずれもが存在しない事を知った。それどころか、岩塩と塩湖から得た塩しかなく、海塩もないことがわかった。本来ならば、残念がるところであるが、ジュマとエミルは狙い通りと喜んだのであった。


 彼らは、これらを特産物とする産業を帝都沿岸部で興そうと考えていたのだ。


(ジュマ)

「信頼できる商人と、この世界にあれば特許、そして一番のネックは技術をどう教えるかだな」


(エミル)

「のんびりもしてられないし、パキラとラキアに秘密組織的なものを作ってもらうのが手っ取り早いんじゃね?」


(ジュマ)

「だよなぁ。古文書を捏造して、それを読み解いた風にするのが良いかなと思ったけど、そうしてる間にも飢える人出かねんしな」


(エミル)

「じゃ、2人拉致して作戦開始な!」


 王都に帰り着いた途端に、両王子はジュマとエミルの2人によって、速やかに回収された。なぜそんな何処にも存在しない食材の加工を知っているのかと言う両王子の疑問は


(エミル)

「私らだからな!」


の一言で封じられ、王子の仕事が増やされた。

 後にこの産業は、無事に世界に知られる特産品となり、産業の基盤の一つとなるのであった。



 一方、王城へ同行して王様オススメのメイドを見に行ったパルパは、そのメイドがすっかり気に入ってしまったらしく、王様に譲ってくれと駄々をこねていた。


(パルパ)

「譲ってくれたら、嫌いな奴暗殺してあげるからさ~」


 結局、ごねにごねたパルパは、メイド本人に給金3倍出すからと直談判し、それがはからずも病気の母の為にお金が必要な事情にマッチし、メイドの引き抜きに成功した。


 ちなみにメイドの母親は、事情を聞いたパルパがあっさり治して元気になった。それを聞いて駆けつけた近所の病人も全て治したパルパが、メイドの目にヒーローとして映っていた事を、本人は知らない。


 別荘へメイドを連れて帰ったパルパは、ジェマとエミルの人生最大の溜め息を引き出す事に成功した。


(ルビア)

「本日よりメイドとして身の回りのお世話をさせて頂きます、ルビアと申します」

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